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3:黒猫にゃんにゃん


 部屋に戻って台所へ。冷凍庫から出したばかりの冷えたご飯を電子レンジで温めながら、さっきのゾンビたちのことを思い返した。


「お笑い志望なのかなぁ、あの二人……」


 こんな小さな町にもいるもんだな。そんなことを考えていると、また玄関のチャイムが鳴った。

 ――晩飯くらいゆっくり食べさせてくれ。

 といって無視するわけにもいかない。俺はとりあえず玄関にむかい、さきほどと同様にドアをあけた。


 するとそこには、学校の制服じみた黒い衣装にネコ耳のつけた、高校生くらいの女の子がいた。


「メリクルランタンマジカルポップル~♪ みんな幸せにな~れ♪ にゃんにゃん♪」


 ――はい?

 あっけにとられる俺をよそに、その女の子は「メリクル~」のところで体を回転させ、「みんな幸せに~」のところで右手と左足をあげ、「にゃんにゃん♪」のところでネコのように両手をくり出してきた。


「あれ~、『にゃんにゃん』返してくださいよ~。もしかして、ちょっとお疲れにゃん?」


 いまも疲れているが、もっと疲れることになりそうだ。


「え、えーと、君もその、ハロウィーンできたんだよね?」


「は~い。今日は黒猫さんに仮装してみたにゃん♪ ね、ね、似合ってるでしょ?」


 そういってくるっと回る女の子。肩のあたりまで伸びた黒くまっすぐな髪が流れるように広がる。たしかに似合っている、ような気がする。顔つきもけっこう――いや、かなりかわいい。


「あ、ああ。まあ、似合ってるかな」


「ありがとうございます~♪ らんたん、うれしいにゃん♪」


「らんたん? それって、君の名前?」


「はい♪ あれ? もしかして、らんたんのこと知らない系ですか~?」


「ああ……。ひと月ほど前にこしてきたばかりだから」


「ええっ、そうなんですか!? 失礼しました~。じゃあ改めて自己紹介しますね。

 こんばんはーーー! みんなのハートを萌え萌えキュンキュンさせる2.5次元アイドル、らんたんだよ~♪ あなたのハートもにゃんにゃんしちゃうぞ♪」


 …………。

 俺はなんていえばいいんだろう。


「おにいさん、ご当地アイドルって知ってるにゃん? らんたん、この町のご当地アイドルさせてもらってるにゃん。一年前にデビューしたんですけど、この前の夏祭りではライブもさせてもらっちゃって~。あ、ライブっていっても、好きなアニソンを歌っただけにゃんですけどね~。

 でね、でね、聞いてくださいよ~。その動画をワイワイ動画に上げたら、なんと五百万回も再生されちゃって~。ネット上で『2.5次元アイドルだ』っていわれてから、らんたんもそう名乗るようにしたんですにゃん♪」


 はあ、そうですか……。

 世間のアイドル事情はよく知らないが、ネット上ではなかなかの有名人らしい。


「ええと……じゃあ、お菓子をあげればいいのかな」


「あっ、そういえばだいじなこというの忘れてたにゃん!」


 すると彼女は、どこからとりだしたのかカボチャのランタンのお面をかぶりはじめた。


「トリック・オア・トリートー! キャー! これ言ってみたかったんですよ~♪」


「はぁ……。で、なんでいきなりお面なの」


「ハロウィーンといえば、かぼちゃのランタンじゃないですか~。でねでね、気づきました? これ、らんたんと同じ名前なんですよ~?

 あ、私の名前、藍っていうんですけど、だからみんなからは『らんたん』って呼ばれてるんです。これって奇跡じゃないですか? らんたんがランタンつけないでだれがつけるんですか、っていう感じにゃん?」


 訊かれても困るんだが……。

 とりあえず俺は黒猫を待たせて部屋に戻り、お菓子を探した。なにがあったっけか……。ああ、そういえば転勤前に同僚からもらったチョコレートのつめあわせがどこかにあったはずだ。たしか奥の棚に――あった。これだ。

 チョコレートの箱をもって玄関に戻ると、らんたんは歓喜して受け取った。


「キャー! ありがとにゃん~♪ じゃあ、お礼にこれあげるにゃん」


 すると、らんたんは置いていた小さなバッグから一枚のCDケースをとり出した。


「じつはらんたん、先月CDデビューしたんですよー! これ、すごくないですか? で、これが頒布用のCDでー。らんたんの歌ったアニソンがいっぱい入ってて~。いわゆるカバーアルバムっていうんですか? 『剣と魔法のフィロソフィー』の主題歌とか、『けいこうとなるも!』のエンディング曲とか入ってますから、ぜひ聴いて下さいにゃん♪」


「はぁ……そうなの」


 CDには「らんたんのアニソンワールド! ワイワイ動画で話題急上昇のご当地アイドル・らんたんの衝撃的カバーアルバムがついに爆誕!」などと書かれている。裏面のタイトルリストをみるが、もはやついていけない。


「じゃあ最後にいきますよ~。今度はにゃんにゃんしてくださいね~☆」


「にゃんにゃん……ええっ?」


「メリクルランタンマジカルポップル~♪ みんな幸せにな~れ♪ にゃんにゃん♪」


「に、にゃん、にゃん……」


「あれ、顔がぎこちないですよぉ? もういちど、はい、にゃんにゃん♪」


「にゃん、にゃん」


「キャー! かわいいー! らんたん、胸キュンされちゃったにゃぁん♪」


 そういって黒猫のご当地アイドル・らんたんはご満悦な様子で去っていった。

 俺の顔は引きつっていた。


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