2:爆笑ゾンビ
大家さんが帰っていき、俺はどっと疲れた気分で家の中に戻った。
やれやれだ……。これからいったい何人くらいくるんだろう。
そう思いつつ、晩飯の準備にとりかかろうとしたところで、また玄関のチャイムが鳴った。
これはかなりの高頻度でくる感じか。俺はまた玄関に戻り、ドアをあける。
するとそこには、ゾンビの格好をした、中学生くらいの二人の男子が並んでいた。
「トリック・オア・トリートーぉぉぉ!」
「うおぅあぅぅうう!!」
ゾンビのマネをしているとおぼしき彼らは、おぼつかない足どりで、ぶらさげた両手をつきだしてくる。
もっと小さな子どもがくるのかと思っていたけど――まあ、中学生も子どもといえば子どもか。
「トリック・オア・トリートーぉぉぉぉお!」
「おぅぅうぁぅおうおうぅぁぁぁ!」
「わ、わかった。わかったから……。お菓子をあげればいいんだな」
「トリック・オア――おおおおおおお!」
「ぅうあをぅっぅうぅぁぁぅぇぇぇぉおお!」
迫真の演技だな……。
妙に感心しつつ、俺は部屋に戻った。ええと、なにがあったかな……。あ、そうだ。このあいだ買ってまだ開封していない「おにぎりせんべい」でもやるか。全然ハロウィーンっぽくないけど。
俺は「おにぎりせんべい」の袋をもって玄関に戻った。
「ごめん、こんなのしかないけど。いいかな」
「ぉおおおおお! ありがとうございますぅぅぅ!」
「ぁあああぅおうぇぇぃぅぇぇういいいぉおお!!」
ゾンビにお菓子をあげたことがないのでよくわからないが、喜んでくれているようだ。
彼らはお菓子を受け取って背負っていたリュックサックに入れると、なぜか再び俺の前にやってきた。
「お、お菓子をくれたお礼に、コントをしたいと思います!!」
「ぃぃぇぇぇええええぉぉぅうおぁぁぁああ!」
コント?
俺が訊き返すよりも先に、二人はゾンビのまましゃべりはじめた。
「では、コントしま~す。爆笑コン・ト~♪」
「コント『ゾンビになった二人ぃぃぉぉ』」
「ちょ、おまえ、もうコントやる前からゾンビになってるだろ」
「あうー、そんなことないぉぉぁー」
「そこ! そこがゾンビだってぉぅわぁ」
「おまえもなってるよぉぅぁ」
「俺はなってないぃぃぉぉぉ」
「やっぱなってるぉぉぉぉ」
「なってないぃぃぃぉぉぅぁ」
「うぅあえおぅぃぃぇぇぉ」
「ぁああぇうううううぇぉぃおおあ」
「――はい、爆笑コン・ト~♪」
…………。
「続きまして」
続くのか……。
「コント『サッカー』」
「サッカーしようぜ」
「ああ、いいな」
「よーし、ドリブルだ。よっ」
「ここは通さないぞ。はっ」
「あ、ちょ、腕にかみつくなよ!」
「うぅぉおおぉぅぇぁああ」
「ファール! ファール! イエローカードだっておぅぅわぁ」
「通さないぃぃぃおぉぅうぇぇぃぃぃ」
「ぜったい抜いてやるぅぅぁっぅぉぉ」
「ぃかせなぃぃぃぉぅぉぃ」
「じぁまだどけぇぃぃぉぉぃぃぃいいぉおお」
「ぉうあぇぇぇぃうぃえぉぉぁぃぃあ」
「ぃぃぃぁおおおううぇぇぇ」
「――はい、爆笑コン・ト~♪」
…………。
「続きまして」
まだやるのか……。
「コント『家出』」
「俺、役者になりたいんだ! 親父の豆腐屋つぐのなんてまっぴらなんだよ!」
「だめだ、許さん。先祖代々続くわしの豆腐屋をつぶす気か」
「知るかよ! くっそー、こんな家、出てってやる!」
「一年後」
「――親父、ただいま」
「帰ってきたか。役者にはなれたのか」
「なれたけど、町で車にひかれて死んじまった」
「な、なんだって?」
「いまはこんな役をやってるぉぅぅあぁぁ」
「お、おまえまさか、死んでゾンビになったのか!?」
「親父もゾンビにしてやるぅぅぁぉぉ。がぶりっ」
「やめろ、かみつくな! いでででででぉぅぅぁおあぉ」
「おやじぃぃぉぉぅぅぁ」
「おぉぅぃぃぇぇぇおおぅぁ」
「ぉおおうぃぃぃおぉ」
「うううっぃいぉぃぅえおをおあああ」
「――はい、爆笑コン・ト~♪」
笑えない……。
その後、中学生二人組は一礼し、ゾンビのように足をひきずりながら去っていった。
いちおう礼儀正しいやつらなんだなとは思った。