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夜と歩く

作者: 加藤

 ノックとともに、ドアが開いた。

 その音を聞いて歩はやっと時間かと、ため息をついて握っていたシャープペンをノート代わりのA4用紙の上においた。

 0時ジャスト。夜食の時間だ。

 現役受験生だった去年は対して協力的ではなかった母親も、歩が浪人生となってからは変わった。

 浪人生活が始まった四月から、毎日遅くまで勉強に励む息子のためにと夜食を作るようになったのだ。しばらくして、それは0時の合図となった。

 はじめは、それが嬉しかった。だから、変わろうと思った。

 今年こそ志望校に合格してやろうと、応援してくれる両親の期待に答えようと息巻いた。睡眠時間を削り、朝から深夜までノートを汚すことに没頭した。

 一足先に自由の象徴である大学生の身となった同級生からの誘いも断り、机にかじり付く。そうやって、ギラつく視線を参考書に、ノートに落とし続けた。

「続くわけがねぇんだよなぁ」

 夜食のラーメンを机の上において部屋から出て行った母親を尻目に、歩は麺をズゾゾと啜る。

 丼に落ちる視線に、八ヶ月前のギラつきはない。あのギラつきは梅雨の豪雨とともに失い、今は鈍く影を落とすだけだ。

 所詮突発的なやる気など続くはずもなく、六月の窓の外で落ち続ける雨粒が地面にあたって弾けたように、たった一日の休息日から瓦解し、再び勉強を始めるまでには一週間もの時間を要した。

 なんとかルーチンワークとして机に向かい、両親への体裁は保っているものの、勉強は、進まない。

 一度失った熱は、簡単には戻らない。

「メシも食ったし、そろそろ行くか」

 歩はベッドの上に無造作に投げ捨てていたダウンジャケットを羽織り、家を出た。

 勉強の熱が冷めてから、歩は深夜に散歩をするようになった。

 家の居辛さと、ルーチンの一貫。両親には勉強の息抜きと言い訳をしている。

 最近急に冷たくなり始めた風に体を縮こませながら、歩はいつもの道を歩く。

 何かが楽しいわけではなかったが、それでも歩はこの深夜の散歩が好きだった。両親の目と受験勉強から、逃げられるような気がしたから。

 電球の切れかかっている街灯のある十字路に差し掛かってから、歩はふと立ち止まる。いつもならここを左折して近所を小さく回ってから三十分程で家に戻るのだが、今夜はもう少し歩いていたい。

 少し考えてから、歩は右の細道に入ることにした。

 自宅から近いはずなのに、普段の生活では意外と通らない。昔はこの道の先にある公園で遊んだりもしたのだが、それも小学校卒業とともにパタリとなくなった。

 歩くのは数年ぶりだというのに、思い出と現実の風景はさほど変わらない。少し歩いてから住宅街に唐突に現れる運送会社の営業所を過ぎると、記憶通り道路を挟んで向かい側に公園が見えた。

 数年ぶりに公園に入り、全体を見回す。滑り台と、それに続く砂場。その横に昔あった球状の回転式遊具は歩の知らぬ間に取り壊されたようで、今はがらんどうとしている。向かい側にはゴミ箱と水飲み場、古い木製のベンチ二脚。そしてその上に、女。

 ベンチの上で体育座りをしている女は、歩に気付くことなく月を見上げている。

 明らかに不審だった。不審だったが、歩は女に目を奪われた。

 それはこの寒さにはそぐわない薄着がそうさせるのか、街灯の少ないこの公園で、月明かりに照らされる彼女が美しかったからなのか、歩にはわからなかった。

 いつまでもそうしてしまいそうだったから、自身の存在に気づかないままの女から、歩は強引に視線を外す。そして一心に、月を見つめる彼女の世界を邪魔してはいけないような気がして、物音を立てないように公園を後にした。

 公園の敷地を跨いでから、歩は走りだす。いつもの散歩の道からは大きく迂回して、歩は自宅の玄関まで辿り着いた。

「なんだったんだろ、あの人」

 切れた息を整えながら、歩は深夜の公園に佇んでいた女の姿を思い出す。

 人のことは言えないが、深夜に空を見上げながら呆け続けているなんてどう考えたって不審者だったし、関わりたくはない人間だろう。

 それなのになぜだか、歩は女のことが妙に気になった。

「明日もまた、いたりしてな」

 なんて、付け加えながら外気で冷えきった冷たいドアノブに手をかける。六月に熱を失ってから初めて、歩は少し明日のことを考えた。



 翌日深夜、歩はいつものように家を出る。今日の0時を知らせる夜食はおにぎりだった。

「明日、ちゃんと願書出しなさいね」

「わかってるよ」

「根を詰めるのもいいけど、あんまり無理しちゃダメだからね?」

「わかってるって」

「じゃあ頑張ってね。おやすみ」

 普段なら夜食を置いたら勉強の邪魔をしないようすぐに部屋から出て行く母親も、今日は少しだけ違った。

 歩の体を気遣った。少しだけ、言葉を交わした。

 だから歩は、苛立った。おにぎりを放置してダウンジャケットを羽織り、乱暴に玄関のドアを開けた。

 いつもより早めに足が出る。いつもより早く十字路に着く。そして昨日より早く、公園に着いた。

 苛立っていたから散歩の道順まで考えていたわけじゃない。毎日のルーチンで体に刻まれた行動に任せて歩いてきただけ、であるはずだった。

 なのにたどり着いたのはいつもの散歩道ではなく、昨日イレギュラーで来た公園だった。

 それに気づいて、歩は少し吹き出した。

 自分で思っていたより遥かに、女のことを気にかけていたらしい事が可笑しかったのだ。

 公園は昨日と同じように静まり返っていて、滑り台があって砂場があって回転式遊具はなくて、女は、いた。

 昨日と同じ場所で同じように、体育座りで空を見上げている。歩が帰ってからもずっとそうしていたんじゃないかと思えるほど、同じ光景だった。

 女は、今日も歩には気付かない。

 昨日と同じ女の姿を見ながら、歩は公園の入口にある逆U字の柵に寄りかかる。カシンと、金属の擦れる音が公園に響いた。

 小さな音だったが、それが歩にはやけに大きく聞こえた。音に反応して、女はゆったりとした動作で空から歩に首を向ける。無言のままの二人の視線が交錯した。

 しかしそれは一瞬の出来事で、女は歩の存在を認知してからすぐに視線を空に戻した。

 体を捻った拍子に、また金属音が鳴る。女は、今度は視線を動かすことさえしなかった。 女の世界に土足で立ち入ってしまったような気がしてバツが悪くなり、歩は公園を後にした。

 昨日のリプレイだ。

 女も、歩も、昨日と今日では何一つ変わらなかった。



 いつもより何時間も早く目が覚めた。覚めたというより起こされた。

 原因は、枕元で爆音で鳴り続けている目覚まし時計。数カ月ぶりに役割を持たされた時計は、まるで張り切りすぎてから回っているかのように、必要以上に歩の鼓膜を揺らす。

 今日は、滑り止めとして受ける私大の願書を出さなければいけない。

 歩は郵便局が開いているうちなら何時だっていいと思っていたが、両親は許さなかった。去年私大の願書を出し忘れたことは、未だ食卓の話題に度々持ち上がる。昨日の夕食でも出たし、おそらく今日の朝食でも出るだろう。不快でしかなかったが、自分のせいなので何も言えず、その話題が出るたびに歩は貝の様に口を閉ざした。

 思えばアレが浪人生となる入り口だったなぁと、歩は寝ぐせのついた髪を撫で付けながら欠伸をした。

 やはり去年の話題を出された朝食の後、歩は母親に尻を叩かれながら郵便局に向かった。小脇には願書の入った私大の名前入りの封筒、それと背中に背負う小さなバッグには、母親に何がってもいいようにと無理やり詰め込まれたノリとハサミと筆記用具。

 どれも郵便局にありそうなものだったが、歩は去年の出来事から願書の提出においては一切信用されていなかった。

 なんのトラブルもなく無事に願書を出し終え、そのまま外で昼食をとった後、歩は例の公園に立ち寄ることにした。

 銅像のように二日連続で同じ場所で同じ格好をしていた女は、昼間もあの場所にいるのだろうか。両親への偽りというルーチンに、女の存在の確認はいつの間にか加わっていた。

 居なければそりゃそうかと納得し、居れば少し驚く。それだけのちょっとした確認作業。そうであるはずだった。

 それなのに。

 それなのになぜだろうか。昼間の公園に女の姿が見えないだけで、何故こんなにも心に引っかかりを感じるのだろうか。

 女の場所であるはずのベンチは、小さな子どもを連れた母親達で占領されていた。

 鼻頭にポツリと雨粒が落ちる。それで我に返って、歩は帰路についた。

 居なくたって何もおかしいことはない。女があの場所にいるのは深夜なのだ。

 本降りになった雨雲に、歩は自室の窓辺で呟いた。

 


 これは、確認だ。深夜であればあの場所にあの女の姿を見つけることが出来るという、確認作業。

 昼過ぎから降りだした雨は、小雨にはなったが深夜になっても止むことはなく降り続いている。普段ならこんな日はさすがに散歩を控えるのだが、確認をしなくてはいけない。ルーチンに組み込まれてしまったのだから仕方がない。

 歩は誰かにそう言い聞かせ、公園へ足を向けた。

 小雨とは言っても十分も歩くと、ビニール傘は雨粒でいっぱいになる。歩の歩調に合わせて、傘の上で大きくなった雨粒は骨を伝ってポタリポタリと地面に落ちた。

 公園の入口まで来て、前に傾けていたビニール傘を垂直に戻し、歩はベンチに視線を送る。

 少しだけ、鼓動が早まった。

 そこから見えたのは、傘も差さずにいつものように空を見上げている、女の姿。どれくらい前からそうしていたのだろうか。長い黒髪は、ぐっしょりと濡れ、艶めいていた。

 眠たそうに細めている目を縁取る睫毛が長い。時折前髪から落ちる水滴は、病的に白い肌を涙のように伝たう。二日間遠目に見ておいて、昼の公園に女の姿を追っていて、歩は女の容姿が作り物のように整っていることに初めて気がついた。

 「なに……」

 琴の音色のような女の声が、歩に投げられる。

 思いの外近くから発せられた女の声に、歩は驚いた。無意識に女に近づいていたのだ。もしくは、吸い寄せられたと言ってもいいかもしれない。

「あっ、いや……」

 自分から近づいておいて、歩は言葉に詰まった。なにも何も、何も考えていなかったのだ。

 話しかける気も、今しているように女に近づく気も、毛頭なかった。最近加わったルーチンの一つとして、深夜の公園に佇む謎の女の姿を確認できればそれでよかったのだ。

 しかし近づいてしまって、あまつさえ話しかけられてしまった。

 女の問い掛けに答えずに逃げることは出来たが、それは気が進まなかった。そんな事をして不審者扱いでもされたら今後の深夜の散歩に支障が出るかもしれないし、なにより女のことが気になっていた。

 一昨日よりも昨日のほうが気になっていたし、昨日よりも今日のほうが、昼よりも今のほうが女のことが気になっていた。

 歩は持っていたビニール傘を女に差し出した。

「傘ぐらいは差したほうがいいと思いますよ」

 長い睫毛に乗った雨粒を落としながら、女は瞬きをする。フッと漏らした息は、雨の冷たさも相まって刺すように冷たい寒空に、白く溶けた。

「寝ちゃう……から、いら……ない」

 変なところで言葉を区切りながら、女は歩が差し出した傘を押し返した。

「そりゃあ寝るんならココより家のほうがいいとは思いますけど」

 言いながら、歩は再度傘を傾けて雨粒から女を守る。その行為に気を悪くしたのか、女は無言のまま歩を睨みつけた。

「なんか、すいません」

 思わず謝る歩に、女は反応しない。じっと腹あたりを見つめたまま動かなくなってしまった。

「あの、昨日も居ましたよね。その前も。何してたんですか?」

「……起きてた」

「いや、そうじゃなくて」

「ちょっと……手伝って」

 質問には答えず眠たそうな半目で歩を見上げ、女は歩の手をとった。

 女の手は冷えきっていて、歩の手から容赦なく体温を奪う。きっと感覚も鈍くなっているんだろうなと、歩はやけに強く握られた女の指先に視線を落とした。

 握られた手は女の鼻先で固定される。伸ばしていた指が女の鼻頭に触れてしまって、歩は指を握って引っ込めた。

「デコピン」

「へ?」

「デコピンして」

「いや、なんで」

「だって……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「途中でしゃべるの止めないでもらえます?」

 デコピンを催促するようにスンと鼻を啜ってから、女が目を閉じる。どうやら歩の問に答える気はなさそうだった。

 さて、どのくらいの強さですればいいのだろうか。

 首を撚ってみるものの女がそれに答えるはずもない。鼻頭へのデコピンに備えてなのか、女は強く目を閉じ眉間にシワを寄せていた。

 中指の先を親指で抑え、デコピンの準備をする。

 なんでこんな事を催促するのかは知らないが、会話が成立しないのであればこのまま待っていても仕方ない。強すぎず弱すぎず、歩は絶妙な力加減で鼻筋の通った綺麗な鼻を弾いた。

「あうっ」

 小さな声を上げて、女が鼻を押さえた。

「だ、大丈夫ですか?」

「……いたい」

「そりゃそうですよ……」

「でも……眠い」

「はぁ?」

 歩が傾けていた傘に頭をぶつけながら女が立ち上がる。突然の行動に、歩は一歩退くのが精一杯だった。そしてそれがまた悪かった。退いた時に揺れた傘の露先で、女の旋毛を強打してしまったのだ。

「うー……」

「す、すんません」

 平謝りする歩の胸に、女は旋毛を抑えたまま寄りかかった。そして一言。

「……帰る」

 そう言い残して、歩が入ってきた方向とは逆側から公園を後にした。

 女が出ていった方向からは小雨の音に混じって、バシャリバシャリと水たまりを乱暴に踏みつける音がする。どうやらお怒りらしいが、何がなんだかわからない。

 銅像のような女は銅像ではなかったが、意味の分からない女ではあった。やはり最初のカン通り、お近づきになるべきでない人間らしい。

 女の頭を強打した拍子に落とした傘を拾ってから、歩はダウンジャケットについた露を払う。

「訳わかんねぇ」

 愚痴をこぼしながらも、歩は別れたばかりの女の顔を思い浮かべていた。


 * * * * *


 朝食兼昼食のパンをかじりながらテレビを付けると、そこそこ衝撃的なニュースが流れていた。

 ロシアに隕石が落ちたらしい。

 テレビの中のキャスターは落ち着き払った表情で淡々と原稿を読んでいる。それによると幸い死傷者は居ないものの、隕石は強烈な閃光と衝撃波による轟音を発しながら湖に落下したようだった。

「映像が入っております」

 キャスターの声とともにテレビ画面がスタジオからヘリコプターの空撮に変わる。一面を氷で覆われた湖の真ん中辺りに、直径六メートルの大穴が開いていた。

 穴の周りには多くの警察官や消防官が困惑した表情で群がっていた。きっと調査のための派遣員も近いうちに来るのだろう。穴の周りに等間隔で配置してある落下防止の柵は、その存在を主張するように黄色いテープで覆われていた。

 こういうニュースを見ると、つい自宅に隕石が落下しないかと想像してしまう。もしそうなれば、勉強なんてしなくて良くなるだろう。いや、今も対してしていないのだが、両親への見栄を張らなくて良くなる。そうなれば、きっと今よりずっと楽になれるはずだ。

「なんてな」

 そうならない事は、よくわかっている。中学時代のマラソン大会の時は台風を願った結果、超がつくほどの快晴だったし、高校時代の体育祭ではテロリストの代わりに野良犬が乱入した。

 得てして、考えうる最悪の状態にはならないものなのだ。

 口の中のパンをコーヒーで一気に腹の中へ流し込む。

 そしてそのままいつも通り机に向かうも、今日も勉強は捗らない。

 ただ、勉強以外のところで少しの変化があった。

 無心でノートを汚すだけだった作業的勉強の途中、サブリミナル効果のように雑念が脳裏をかすめるようになった。

 数式の代わりに思い浮かんで来るのは、女の顔と昨日の言葉。

 濡れ髪を頬にへばりついたままで、女は言った。

 眠れないからではなく、寝てしまうからあの場所にいるんだと。

 つまり、女は眠りたくなくてあの場所で銅像になっていたのだ。 

 真冬に薄着なのも、雨の中びしょ濡れで居たことも、デコピンを催促したのも、眠気覚ましの一貫ということだ。

 何故そこまでして眠りたくないのだろうか。

 ここ数ヶ月の勉強よりも、よっぽど早く脳が回転する。久しぶりに、何かを考えている気分になれた。

「ご飯よ」

 ドアがノックされ、隙間から母親が顔を出す。いつの間にか夕飯の時間になっていたらしい。

 早く深夜になってほしい。約束をしたわけではないが、きっと今日も、女はあの場所にいるに違いない。求められるなら、デコピンぐらい何度でもしてやろう。だからその代わり、少し話をしよう。

 歩は大きく伸びをして、ノートの上にシャープペンを転がした。

 


 同日、深夜。

 そうやって楽しみにしていたから、こういう状況は考えていなかった。

 女が、居ない。

 雨の日でさえ銅像をやっていたくせに、月のよく見える今日に限って、女の姿は公園のどこにも見当たらなかった。

 少し早く来てしまったのかとベンチに座って半時ほど待ってみるも、人影は現れない。

 まさか昨日の雨で風邪でも引いてしまったのだろうか。

 十分有り得る話だった。

 いつから居たのかは知らないが、歩が公園に来た時にはすでに女はずぶ濡れだった。寒空の下そんな事をしていては、風邪を引いてもなんの不思議もない。

 タイミングが悪かったと、歩は女を待つのを諦めて公園を後にした。

 今日会えなかっただけで、金輪際会えないというわけではないだろう。会えないと困る。まだ、女に何も聞いていないのだ。何も話していないのだ。



 今日こそは。

 もし風邪なら一日では復帰できないだろうが、たまたま昨日の夜は用事があっただけかもしれない。歩は普段より意気込んで公園へと向かった。

 砂場の対面の、ベンチの上。いつもの時間、いつもの場所。

 女は、いた。

 初めて見た日と同じように、雨の中傘も差さずにそうしていたように、女はベンチの上で体育座りで夜空を眺めていた。

 少しだけ、鼓動が早まる。退屈だった浪人生活に吹いた風は、楽しさ以外の違うものも運んできたようだった。

「あっ」

 歩が公園に入ると、女が先に声を上げた。

 雨の中聞いたのと同じように、それは琴の音色のようだったが、あの日とは少し違っていた。ただひたすら気怠そうだった声に張りがある。目も半目ではなく、ぱっちりと開いていて、女から受ける印象は別人のようだった。

「え……っと、どうも。一昨日ぶりですね」

 駆け寄ってきた女に、歩は声をかけた。気を抜いたら、声が上擦りそうだ。

「ええ。そのことなんですけど……」

 そんな歩とは反対に、女は声のトーンを若干下げて、一緒に頭も下げた。

「一昨日は、すみませんでした」

「な、なにが?」

「色々とご迷惑をお掛けしたように思いまして」

 言いながら、女は照れたように笑顔を見せた。

「一昨日は凄く眠くて、初対面のあなたに不遜な態度をとってしまいました。本当は昨日謝ろうと思っていたんですけど……」

「昨日は居ませんでしたよね? 俺がこの道を通るようになって初めてだったんで、少し驚きましたよ」

「昨日は……寝てしまっていました」

「ああ、凄く眠そうでしたもん――」

「一日中……。すみません」

 歩の言葉を遮って女は言葉を付け足した。嫌なことを思い出したかのように、眉をひそめる。

「別に気にしてませんよ。そもそも会う約束もしてませんし」

 頭ひとつ分下にある女の旋毛を見ながら、歩は一昨日の女の言葉を思い出していた。女はあの日、「眠れない」ではなく「寝たくない」と言っていた。

 そして今日は、「眠ってしまった」と言う。

 憶測は、やはり正しかった。理由は分からないが、女は眠りたくないのだ。

「でも迷惑をかけたのは事実ですし何かお礼、というか謝罪を……」

「お礼も謝罪もいらないんで、そうですね……ひとつ、質問してもいいですか?」

 いつも女が座っている場所をわざと開けて、その隣に歩は腰を掛けた。

「なんで、眠りたくないのか」

 歩の問に、困り顔をする。答えられないのではなく答えたくないと、女の目は言っていた。

「……じゃあ別の質問、一昨日ずぶ濡れでしたけど大丈夫でした? 風邪とか」

 女の苦々しい表情に耐え切れず、歩は質問を変えた。

「あ、はい。私昔から体は丈夫なので。ご心配までかけてしまったようで、すみません」

 なぜ女が眠りたくないのかは気になるが、誰だって人に聞かれたくない事の一つや二つぐらいある。だから、無理に聞くのは野暮というものだろう。そういうデリケートな部分に触れられるほどの仲では、けしてない。

 歩もまた、そうだった。

 深夜の散歩の理由は、聞かれたくない。たとえ先の質問の答えと交換だったとしても答えない。

「あなたこそ大丈夫でしたか? 私のせいで雨に濡れていた様に思うのですが……」

「ちょっと服が湿った程度ですよ。なんともないです」

「そうですか、なら良かった。……そういえばあなたはあんな時間に何をされてたんですか?」

「……散歩です。日課なので」

 だから、女の問に答えを濁した。それ以上は聞いてくるなと、女がそうした様に目で訴えた。

「そうでしたか」

 その思いが届いたのかは分からないが、女はそれ以上踏み込むことはしなかった。

 町の何処かを駆け抜けるバイクの甲高いエンジン音が、深夜の住宅街に反響する。ダウンジャケットのポケットに入れっぱなしだった両手は冬だというのにいつの間にか汗ばんでいて、背中には嫌な熱を感じる。

 だから不意に吹いた北風に、大げさに肩を窄めて身を縮めた。

「今日は一段と冷えますね」

 いつも通り薄着な女が、息で手を暖めながら言う。

「そんな格好してるからですよ」

「それを言われると何も言えないです」

 黒髪を撫で付けながら、女は笑った。

「……明日もいますか?」

「ええ。昨日眠ってしまったので、明日はきっと起きています」

「明後日も?」

「多分、四日後くらいまでは」

「そうですか」

「……明日も散歩しに来ますか?」

「日課なので」

「明後日も?」

「多分、四日後くらいまでは」

 歩の言葉に驚いたように、女はパチクリと三回瞬きをする。その反応を見て変なことを言ってしまったと、歩はぎこちない動作で女から目線を外した。

「なら、明日も今日のように少しだけ、私とお話してくれますか?」

「……」

 一人でいる夜が長いことは、よく知っていた。

 やりたいことはなく、かと言ってやらなければいけない事はやりたくない。そんな夜を、この半年間繰り返してきたのだ。

 歩は、退屈していた。女も同じだった。だったら独りでいるよりは、二人でいる方がきっといい。

 だから退屈な者同士、この月の見える公園でベンチに並んで、

「いいですよ」

 少しだけ、眠気の覚める話をしよう。


 

 あれからどれくらいの言葉を交わしただろう。冬の始まりに過ぎなかった季節は、いつの間にか真冬と断ずるに躊躇する必要はなくなっていた。そんな季節の変容に合わせるように、二人で公園にいる時間は長くなり、気づけば朝になっていることもしばしばだった。

 女との会話は、その日のニュースやテレビ番組のことなど、取り留めのない事が大半だった。ただ、週に一、二度、女の眠気が限界に達している日は、少しだけ女自身の話を聞けた。

 学生という歳ではないが、週の半分は眠気のせいで呆けていて就職もままならずニート状態であること。公園に来ない日は電源が切れるように所構わず気を失っていること。故に家の近所ではちょっとした危険人物扱いをされていることなど。

 電源が切れかかっている日は何にでも言葉少なに答えてくれたが、肝心のなぜ眠りたくないのかは、歩は聞かなかった。

 もしその話を聞く機会があるのなら、それは女が自ら話す気になった時。漠然ともっと、未来のことだと思っていた。

 だからその未来がいつ来るのかなんて、歩は考えていなかった。 



 今夜で女が最後に眠ってから、四日目だ。

 そろそろ公園に姿を現さない頃合いだろうと、公園に向かう歩の足取りは重かった。

 いつしか女との時間は、歩にとって心地よいものになっていた。女が公園に来ない日の夜はひどく長く感じたし、いつだって、女と会って話したかった。

 梅雨の時期に無くした熱は、違う形となって歩の前に現れた。

 しかしそれは、間接的に受験勉強へのモチベーションともなっていた。この一ヶ月、出来るだけ早く昼間の時間が過ぎてほしいと、また本気で勉強を始めたのだ。

 本気でいれば時間が過ぎるのが早いのは、浪人開始直後の二ヶ月で経験していたから、深夜のために昼間を乗り切ることは、歩にとってさほど難しいことではなかった。

 すっかりと足に馴染んだ公園への道のりは、今日もいつもと変わらない。

 ついに電球を取り替えられ、やたら明るい光を放つようになった街灯のある十字路を右に曲がり、細い小路を進む。しばらくして左手に見えてくるのは、住宅街に合わない運送会社の営業所。そしてその正面に、公園。

 いつものベンチには、女が座っていた。

 歩と話すようになってから、女は体育座りで月を眺めることをやめた。その代わりにじっと公園の入り口を見つめて、歩の姿を見つけると軽く会釈するようになった。それは眠気で呂律が回らなくなる日も同じで、女の習慣の一つともなっていた。

 それはもちろん、今日も同じだと思っていた。

 だから歩は、公園の入口にある逆U字の柵の間をすり抜けながらその会釈に応じようと、ポケットから手を出した。

 何かが、おかしい。

 歩が公園に入ってからも、女は微動だにしなかった。

 気付いていないのかと大きく手を振ってみるが、反応はなし。

 いや、反応はあった。

 歩の手の動きに合わせるように、女の体が大きく横に傾いた。そしてそのままの勢いで、ベンチに倒れこんだのだ。

 女の頭がベンチの座面にぶつかる鈍い音がして、歩は思わず女に駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

 女の細い肩を揺さぶって声をかける。返って来たのは、女の規則正しい寝息だった。

 女はベンチの上で、眠っていた。

 頭を打っても、身体を揺さぶられても目を覚ます事無く、深い眠りについていた。

 いつか女は、眠気が限界に達すると所構わず電源が落ちるように眠りについてしまって並大抵のことでは起きないんだと、言っていた。

「ここまで来て限界が来たのか」

 横に座ってから、女の乱れた髪を手櫛で直す。冷たい髪の奥に、女の体温を感じた。薄いロングTシャツの袖から覗く赤くなった指先を握ると、氷のように冷たくなっていた。

 女が眠りたくない事を知っている歩だから、本来ならここで起こしてやるのがいいのかもしれない。しかし歩はそうはせず、女の寝顔を眺めていることにした。

「朝になったら起こしますんで……」

 女と出会ってから、睡眠の事について少し調べた。最初は女の力になろうと眠らなくてもいい方法を探していたのだが、目につくのは不眠により起こる障害ばかりだった。

 そうした文面ばかりを見るうちに、女のことが心配になった。

 しかしそれでも、歩は女と会うことが止めれなかった。話し相手になることで、女の不眠の手伝いをしていた。

 女と話したかったから。

 女に会いたかったから。

 自分の欲のために、大事なことから目を背けていた。

 本当に女のことを想うなら、すぐにでも止めさせるべきだったのだ。

 頭を強打してなお眠り続ける女の姿を見て、歩は決めた。

 朝日が昇って人通りが多くなったら女を起こして、そしたら――  



「おはようございます」 

「……ふ……おは……?」

 寝ぼけ眼でそこまで言って、女はガバリと勢い良く身体を起こした。

 女を起こしたのは、午前六時ちょうど。四日間の不眠に対して十分な睡眠時間だとは言えないが、住宅街と言えどそろそろ通勤や通学で人が行き交い始める時間だった。

「いい夢みれましたか?」

「覚えてない……。というか、私、寝てた……んだ」

 自分の状況を把握しようと辺りを見回して、ポツリと呟く。自分に対しての言葉でないことは分かったので、歩は黙ったままだった。

「よかった……」

 自分の両手で肩を抱いて、女が俯く。声は、震えていた。

「生きてた……」

 女の目から、涙が溢れる。そして留まることなく、次々と溢れる涙はいやに白い頬を伝った。

「えっ……え?」

 しゃくりあげて泣く女を前に、歩は狼狽する。女が眠りたくないことはよく知っていたが、目覚めた時にこんな反応をするだなんて思っていなかった。

「すみません……」

 落ち着いてから鼻を啜り、女は袖で涙を拭いた。

「私、眠るのが怖いんです。死んでしまって、そのまま起きられなくなるんじゃないかって」

「……」

 これは、あの夜の話の続きだ。

 電源が切れかかっていた女と初めて話してデコピンを強要された、あの深夜の話。毎日話すようになってからは意識して話題を振らないようにしていた、歩が女に興味を持つ原因となった、最初の話。

「私がまだ中学生だった頃、両親にせがんで宇宙に関するイベントに連れて行ってもらったんです。そこには当時世界中から注目を浴びていた火星探査機の実物大の模型や、月の石なんかもありました。メインイベントは宇宙飛行士さんの講演で、もちろん私もお話を聞いていました。その時、その宇宙飛行士さんは私達にこう問いかけたんです」

 ――一年にどれくらいの数の隕石が地球に落ちてきているか知っていますか?

 歩はテレビでやっていた、ロシアのニュースを思い出した。

 氷と雪に閉ざされた湖に、ポッカリと空いた大穴。

 あんなニュースを見たのは、アレが初めてだ。そうでなくとも隕石なんてフレーズに触れる機会自体、学校の授業中以外にあっただろうか。思い出せない。

 きっとそれだけ、地球に飛来したあの隕石はレアなのだ。

「どれくらいだと思います?」

「ね、年一くらい……?」

「正解は、約五〇〇」

 予想の遥か上の数に、言葉が詰まった。年に一つどころか、一日に一つ以上だ。

「もちろんその全てがこの前のロシアの隕石みたいに地表まで届いているわけじゃありません。むしろそのほとんどは大気圏で塵になっているみたいです。それでも、いくつかは届くんです」

 首の後に手を回して、女は胸元からネックレスを取り出した。金色のチェーンの先には、小さな黒い石が付いている。

 女はそれを、歩の手のひらの上に置いた。

「これは?」

「隕石です。先ほど話したイベントでお土産として売られていたものを、両親に買ってもらいました」

 鎖の部分を持って持ち上げて、石を観察する。その辺りに落ちている小石とどう違うのか、歩には正直なところ全く分からなかったが、女の口ぶりから本物であるということは容易に想像がついた。

「凄いですよね。けして安いわけでは無いですけど、私の家みたいな一般家庭でも本物の隕石が買えてしまうんです」

 歩からネックレスを受け取り、再度首につけながら、こわばった顔で女は続けた。

「それくらいは、塵にならずに地表まで落ちてきているんです」

 Tシャツの上から、隕石を握る。

「それで家に帰ってから隕石のことを自分で色々と調べて、愕然としました。雷に打たれて死ぬ確率より、隕石にあたって死ぬ確率のほうがずっと高いんです。それを知ってしまって、今まで自分とは無関係だと思っていた唐突な死というものを、急に身近に感じるようになりました」

「それで、怖くなって眠れなくなったんですか?」

 つい話しの流れで言ってしまったが、すぐにそうではない事に歩は気付いていた。隕石の話が今の状況を引き起こすトリガーであった事は事実だろうが、女が言いたいことはそれではない。

 女は「眠れない」のではなく「眠ったまま」死にたくないのだ。だから、「眠りたくない」と、無茶をしてまで身体をギリギリまで酷使しているのだ。

 今の話だと、起きていても寝ていても、変わらない。もし唐突な死を恐れていると言うのなら、もっと違う形で行動しているはずだ。

「いえ、私が恐れているのは……夢の中で死ぬことです」

 これが、女が眠らない理由。あの夜の続き。歩の知りたかった答え。他人からはおよそ理解されない、それでも真剣な悩み。

「唐突に死んでしまうこと自体にはある程度納得しているんです。けしてそうなりたいわけでは無いですが、運が悪かったというしかないでしょう。隕石に限らず交通事故だって災害だってありますし、それは生き物全てに平等ですから」

「……」

 歩は何も言わずに、女の言葉に耳を傾ける。きっとこれが、最後になるから。

「昔から寝るときは、よく夢を見ていました。それは今も一緒で、さっき起こして頂いた時もそうです。ただ、内容はあまり覚えていません。覚えているのは、暗い部屋でいつも一人だということです。もしそんな最中で死んでしまったらと思うと、凄く怖くて……」

「死んだ後もひとりなんじゃないかと?」

「……すみません。今の話は忘れてください。寝起きのテンションでつまらない話をしてしまいました。今日はもう、帰ります。また深夜に……」

 ベンチから立ち上がり足早に去ろうとする女の手を掴む。細い腕に、少しでも力を加えれば折れてしまいそうな不安に駆られた。それでも歩は腕を離さない。その前に、伝えなくてはならないことがあった。

「俺はもうココには来ません。夜の散歩もやめます」

「……そうですか」

 残念そうに眉を落としながら、女は笑った。

「でもそうですよね。私が言っても説得力なんてありませんが、夜は寝るべきです。でももし気が変わったら、また来てください。あなたと過ごす夜は、楽しかったので……」

「俺だけじゃないですよ」

「え?」

「あなたも、ココに来るのは今日で最後です。今言いましたよね。夜は寝るべきだって。あなたも夜はこんな硬いベンチじゃなくて、ベッドの中で眠ってください」

「いえ……でも……」

 眠りたくないことは、知っている。

 その理由も、教えてもらった。

 女の話に共感できたわけではないが、こんな風になってしまったのも仕方ないのだとは思う。それでも止めさせなければいけない。

 それは女のことが心配だから。

「あなたは覚えていないかもしれませんが、寝てる間に頭を強打して、それでも全く起きなかったんです。俺が見てないところでも同じ事をやってるんじゃないですか? そんなのあなたが大丈夫でも、こっちが不安になります。心配します」

 女のことが、好きだから。

「だから、ちゃんと眠ってください」

「でも私は――」

「一人でいる夢が怖いんだというなら」

 女の言葉を遮って、歩は力強く言った。

「俺が、あなたの夢の中に遊びに行きます」

 目を見開いて、女は歩の顔を見上げた。歩の言葉に何かを思い出したかのように、鼻頭を指で擦る。

「デコピン? あれ? 夢……?」

 それは、本当にした。女を起こすとき揺さぶっても声をかけても反応がなかったので、雨の日のことを思い出して、全力で鼻にデコピンをお見舞いしたのだ。

「私、夢であなたに逢っていた……かも……?」

 それは多分、ずっと女の手を握っていたから。現実では寝ていた女と、せめて夢では話したかったら。楽しい夢を、見ていて欲しかったから。

「覚えて……る?」

「不安かもしれませんが、それでも今夜は寝てください。いつも公園であなたが俺を待っていてくれたように、今夜は俺が夢であなたを待っています。もし隕石が落ちてきて死ぬときは――」

 その時は、夢の中で一緒に死にましょう。


 * * * * *


 私大受験当日、歩は自宅の最寄り駅のコンビニで昼食を選んでいた。受験会場近くでなく地元のコンビニを選んだのは、本命である国立大の受験の時もこの駅を使うからだ。本番の予行練習も兼ねての選択だった。

 私大受験前日の、最後の夜食はとんかつだった。よくある願掛けに乗っただけだろうが、胃が重たくて仕方ない。ただ母親の想いをありがたいと思えるようにはなっていた。

 あの日以来、両親の目から逃れるための深夜の散歩はやめて、代わりに少し早く眠るようになった。

 夢の中の女は、よく笑う。

 現実のように毎日とはいかないが、女は時たま歩の夢に現れて、他愛もない話をしていった。

 その日のニュースのことバラエティ番組のこと、そして、眠れるようになったこと。

 これから会社に向かうであろうスーツ姿のサラリーマンに混じって、歩もレジに並ぶ。朝の駅前のコンビニがこんなに混雑するものだとは初めて知った。

 次が歩の順番というところになって、休止中の札を出していた隣のレジから声をかけられた。

「こちらへどうぞ」

 その琴の音は、店内放送とサラリーマンの喧騒を縫って歩の耳へと届いた。

 長い黒髪に、きめ細かい白い肌。ぱっちりと開いた大きな目を縁取る睫毛は、相変わらず長い。

「毎日いるんですか?」

 おにぎりのバーコードを通している店員に、歩は話しかける。

「ええ。シフトが休みの日以外はこの時間に」

 店員も当たり前のように、歩の問に答えた。まるで毎日逢っているかのように、懐かしむことは二人ともしなかった。

「じゃあ、春からはよく会うかもしれませんね」

「いつぐらいまで?」

 会計を済ませながら、歩は微笑んで言った。

「多分、四年後くらいまで」


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