第八話 2回目の仮想訓練
「マジで軽く感じるぜ。これなら、初日よりも断然、いい記録が出るな」
一組目、早速瑛斗がモニターに映し出される。
「一昨日の鬱憤も晴らさせてもらうぜ」
個室の中に入ったからといって、瑛斗は調子に乗りすぎた。少尉にももちろん聞こえているため後のことが心配である。
間も無くして仮想訓練は始まった。
瑛斗の動きは、まるで初日とは別人だった。装填に手こずる様子もない。先程の言葉通り他の同期をどんどん突き放して、記録が伸びていく。
訓練用アルターの動きも初日より早くなっているし、変化の種類も豊富ななはずなのに、瑛斗はそれをものともしなかった。
結果なんと討伐数51体。
一日目の春士をも超える記録だった。
二組目、春士と桐李の出番だった。
春士は初日のように開幕何かを考えるような素振りを見せず次々と倒していった。
記録72体。
訓練用アルターの出現数も増えているため上手くやれば記録は伸びるのだが、やはり春士は他の者よりも慣れているような動きであった。
桐李も、春士程はいかないまでも結果は43体と健闘した。
この三人に遅れて四組目、高色の出番だった。早くから弾の装填を完璧にしていた高色は装填速度が他のモニターに映った人と比べても目に見えて早かった。
結果48体。
それを見て桐李が少し悔しそうな顔をしていた。
そして、
「頑張れよ、黒間」
黒間は瑛斗の声に少し顔を傾け微笑んで個室に入っていった。
七組目。
今日まで黒間は初日の様子を一切見せることなく、素人の動きを拭いきれることはなかったが、この訓練でまたあの黒間を見せるのか。
今度は見ておこう、と春士は黒間の映ったモニターを見た。
「っ...!」
春士はモニターを見て驚愕した。
そこに映っていたのは先程までの黒間と違う、初日と同じ黒間だった。
画面越しでも伝わる殺気に春士は体を震わせた。それは黒間のモニターを見た全員に共通したことだった。
開始のブザーがなる。
モニターに映っていた人はどのステージにいようと、全員前に走った。
ただ一人黒間を除いて。
岩場ステージになった黒間はまず一番高い岩に登り全体を見渡した。全て狩るつもりなのだろうか。
次の瞬間黒間のモニターには一瞬で5という数字が刻まれた。
倒し、撃破を確認する前に倒し、また走る。
信じられないほどの速さで記録が塗り替えられていく。
気付けば10分もたたずに記録は50を越えようとしていた。
よく見ると、黒間が使っているのは振動砕だけではない。
片手には尖った岩を持っていた。驚くべきは、それでもアルターを倒すことができていることだ。
「どうなってるんだ?」
春士は思わず口にした。
「まるで別人だ。動きも、雰囲気も。」
「どっちが本当の黒間君なんだ?」
桐李と高色もつられて言う。
だが、瑛斗は何も言わなかった。
終わってみると結果109体。
他の追随を許さない記録となった。
「おい!黒間!しっかりしろ!」
個室から出て来るなり倒れた黒間に瑛斗が話しかける。
瑛斗の他に春士達四人と風越少尉が黒間を囲んでいた。
「う…あ……」
「おい、黒間、分かるか?」
「佐々……君?」
「よかった」
「ところで…訓練……どうなったの?」
「お前……覚えてないのか?」
「え……」
黒間の顔を見る限り、本当に何も覚えていない、というよりそんな記憶はないといった具合だった。
「何か訳がありそうだな」
春士が呟く。
「まあとにかく、何もなくてよかった」
黒間はまだ状況を理解してしないようだったが、その場はとりあえず治まったのだった。