第三話 仮想訓練
風越は、まあ一度使い切りの電池のようなものだ、と加え、銃弾のような、しかし銃弾にしては大き過ぎる先の尖った円柱状のものを取り出した。
先が尖っているのは装填効率を良くするためらしい。
「振動砕のデメリットはその高火力故の連発力の無さにある。弾数も限られている中、如何に当てられるかが戦場では重要となる」
春士達全員に振動砕が配られる。
「ここまででなにか質問はないか?」
そこで質問したのは高色だった。
「大部分は、というと一部違うものを使う人もいる、ということですか?」
「そうだな、ガトリングなどはアルターが変形したとしても押し切れるし、技術がある者は刀や、単発式の銃を使う者もいる。たがそれとは別に、戦いに慣れた上級兵士は自分の使いやすいように振動砕を改造する者が多いな。ちなみに俺の場合はこのグローブ型だ」
そう言って少尉が取り出したのは金属でできた、所々に振動砕を思わせる円形のあるグローブだった。
(似合うな〜)
新兵全員の心が一致した瞬間だった。
「では装填の手順の確認をする」
春士達は振動砕に少し重みを感じながら、言われた通りそれを使えるようにする手順をこなしていった。
手順を簡単に説明すると次のようになる。
まず振動砕の側面に付いた装填口のひっかけの部分をつまみ、引っ張りだす。次に出した装填口に2つ弾を入れる。最後にこれを押して戻す。これを3ヶ所繰り返して装填完了となる。
つまり最大で六発分の弾が装填可能というわけだ。
装填中の振動砕の見た目はリボルバー式の銃のリボルバー部分に似ている。
特に詰まる者もおらず全員滞りなく手順は完了させた。終わった頃を見計らって風越は訓練の詳細を話し始めた。
「全員、準備はいいようだな。難易度は初級easy、想定状況はランダムに設定しておいた。個室に入ると各々異なった場所にいるはずだ。また、中の様子はこちらがモニターで見ることが出来るようになっている。では8人ずつ各個室に入ってくれ」
(さて、お手並み拝見といかせてもらおう)
春士の部屋組でまず個室に入ったのは、高色、桐李だった。
「高色は高層ビル街、桐李は森林ステージか。どちらも奇襲しやすく、されやすいステージだな」
瑛斗が話しかけてくる。
「アルターは人じゃないんだし、奇襲っていうのはなんか違う気がするな」
「まあそうなんだけどよ」
そうして二人はモニターの方へと向き直した。
訓練が始まった。2人とも始まった瞬間走り出す。建物や木の隅々まで気を張っているのがよく分かるほど緊張感が画面越しに伝わってきた。
突然桐李の目の前にアルターが飛び出して来た。
桐李はやはり初めて使った武器だからか、慣れない手つきで、しかし初心者にしては良い手際で振動砕のリーチにアルターが届く範囲まで詰める。
そして、
「やったな、仮想とはいえ記念すべき一体目だぜ!」
瑛斗が言った通り、桐李はアルター討伐一体目を記録した。高色もおおよそ似たような感じだった。
15分という制限の中、他が討伐数5、6体の中、高色15体、桐李17体という中々の好成績を叩きだした。
「ふう、どうだった?」
「すげえじゃねえか!」
「やるな。桐李も」
「ありがとう」
「二人は次、順番なんじゃないかな?」
「そうだな、瑛斗が気にならんこともないが、それはお前らに任せよう」
「やっぱ舐められてるよな俺……」
「まあまあ、早く行っておいでよ」
「じゃあ行くか」
春士は瑛斗と共に個室へと足を進めた。
「2人はどれくらい動けるのかな」
「さあな。足腰は割といい方に見えたがな」
瑛斗がこちらに笑いかけながら扉に手を掛け、仮想訓練の空間へと足を踏み入れた。
それを見て、春士も仮想訓練へと意識を持っていった。
少ししてモニターに瑛斗の様子が周りの風景と共に映し出される。
モニターは瑛斗を除くと木や草に埋められていた。
「瑛斗は桐李と同じ密林か」
「どこからアルターが出てくるか分からないからな。常に気を張らなければならない、中々キツいステージだった」
「そんなこと言って。桐李、全くやる気なかったじゃないか」
「そんなことはないさ。確かに、初めて使った武器だけにやりにくくはあったが」
「春士の方は……岩場ステージか、アルターに囲まれると大変かもしれないね」
瑛斗は密林に囲まれた場所で一人佇んでいた。
「あー、振動砕、だったっけ。重いなコレ。皆こんなもん持ってよくあんなに動けるな。まあでも、ここで俺の印象変えておきたいからな、少し頑張りますか!」
一方の春士。
始まってから全く動いていない。
もちろん怖気付いた訳ではない。春士は考えていた。
何体狩るか、狩ればいいのか。先程の高色、桐李も本気は出していなかった。風越も一部新兵の成績が良すぎると訓練メニューを考え直し、他の同期に迷惑をかけてしまうだろう。
「30、かな……」
それを含めた上で、少し多めの数であろう30体という目星をつけた。そこからの春士は早かった。初めてとは思えないほど振動砕を使いこなしている。桐李たちも使えていた方だが春士の身のこなしは完全に違ったものだった。
右から来たアルターを倒し、その衝撃で左に向き直りながら弾を装填しまた倒す。
無駄のない動きは、高色と桐李の目ががモニターに釘付けになるのに十分だった。
ビィーー
春士含む八人の訓練終了の合図が鳴った。
「32か、まあ妥協しようか」
春士が個室から出てきた。
ちょうど瑛斗も同時に出てきたようで、
「お疲れ~、って32!? やるな春士!」
春士の記録に驚いている瑛斗だが、先程まで瑛斗が映し出されていたモニターには
19体という数字が浮かんでいた。
上から数えて5番には入る好成績だった。
「……はっきり言ってもっと出来ないかと思ってた」
「そう言うとは思ってたけどな」
そう言った瑛斗の顔は少し満足気だった。
国語の問題ってなんであんなに眠くなるんですかね?ラノベなら大丈夫なのに。