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Halcyon  作者: I_Aryth
第一章 未知なるもの
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第二話 振動砕

 鉄製の床を駆け抜けた春士達は急いだこともあって割と早めに集合場所である、先程までいた何も無いだだっ広い空間──例えるなら学校のグラウンドであろうか──に着くことができた。



「おい(あらわ)、こんなに、 はぁ、急ぐ必要、なかったんじゃないか?」


桐李(とうり)は、ばか?。五分前行動が大切だなんて、小学生でも分かることだよ?」



 肩で息をしている藤瓦(ふじがわら)に比べ高色は顔色一つ変えず言い放った。



「二人は知り合いだったんだな」



 春士が質問する。



「ああ、そうなんだ。僕たちは中学から大学まで同じ学校に通っててね、まあ(くさ)れ縁ってやつだよ」



 そう答えた高色の身長は低いわけではないが、やはり男としては背が低い...165cmくらいだろうか。

いや、靴のことも考慮するとそれより低いか。

初めに見た印象はそれが大きかった。



「出身はどこか、聞いていいか?」



沖縄や九州だと、人によっては気分を悪くさせてしまう場合があるためこのような言い方になってしまった。



「僕たちは神戸だからね、全然大丈夫だよ」


「神戸、か。ならやっぱり金狙いか?」



春士がこう言うのも無理はない。入隊する新兵の多くは大切な人を失った九州や沖縄の人間で、それ以外の都市では復讐心を抱く者はそうそうおらず、多額の報酬を得られるなんてことが無ければわざわざ命を危険に晒したりするはずがないからだ。

もちろん、それでも金目的で入隊する者は少ないのだが。

神戸は対アルターの前線とはまだまだ距離があり安全であった。



「いや、実は僕は前に一度アルターと軍が交戦しているのを見たんだ。その時は恐怖で僕が軍に入るなんて想像も出来なかったんだけど。でも、何度かニュースを見ているうちに少しでも役に立てれば、と思ってね。桐李はそんなほ僕についてきてくれたんだよ。」


 (一度アルターを見てなお命をかけることを決心した高色。それについてくることのできる藤瓦、か)


 春士は二人ともに感心せざるを得なかった。



「藤瓦は、いい友達だな」



 その言葉に高色は恥ずかしがりながらも、嬉しそうに頷いた。



「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は高色現(たかしきあらわ)、こっちは藤瓦桐李(ふじがわらとうり)。よろしくね翠葉(すいば)君」


「藤瓦だ。よ、よろしく」


「いつまで疲れてる振りしてんのさ!」


「ぐはっ」



 藤瓦の頭に高色のチョップが炸裂する。



「ははは。なかなか面白い奴らだな、よろしく」


「よ、よろしく」



 涙目で頭を抑える藤瓦を見るに、今度は本気で痛そうだ。



「あと、俺のことは桐李って呼んでくれ。藤瓦じゃあ長いだろう」


「分かった。俺のことも春士でいい」



 同室となった三人は早々に仲間同士で握手を交わしあったのだった。





 そうこうしているうちに集合時間になった。どうやら瑛斗は滑り込みではあったが間に合ったらしい。

風越は一度全体を見渡したあと話し始めた。



「第十五期生、全員揃ったな。ではまず最初に諸君らが最も使うことになるだろう所からまわっていくぞ」



まだ入ったばかりで親しい友人関係を築けるはずもないので、誰も話すことなくスムーズに目的地へと足を進めた。目的地へと一直線だ。そのため着くまでにそんなに時間を要することはなかった。







「最も使う場所って、やっぱりここか」



彼らが着いてから集団としての一言目がそれだった。瑛斗の言葉から察することができるように春士達がまず連れてこられたのは案の定訓練場であった。



「通常の訓練はここ第一訓練場でやってもらう。もちろん朝や夜の自主訓練などもここでやってもらっても構わないが、後でまわる第二、第三訓練場でも可能だ」



 心なしか、少尉の声が三割増しくらいの大きさで聞こえる。

 さっきまでいたグラウンド程もある、大きな室内の空間に少尉の声が反響した。



「うげ……いきなり訓練場かよ。気が滅入るな」

 と、瑛斗は皆が思っていることを口にした。


「こんなんで滅入(めい)ってたら、お前、何しに来たんだってなるぞ」


「……それもそうだな」


「この施設を初め、訓練場は後で渡すカードを通せばいつでも好きに使っていい。なおここの壁は形状記憶型の鉄を使っているから凹ませたりしても大丈夫だ。ただ、あまり壊されると面倒なので程々にな」



 そんな高性能な鉄がなぜこんな大量に使われているのか、どういう原理なのか、と誰かが質問すると少尉は笑いながら、俺にも良く分からないんだ、と言った。

確かに、それこそ頭脳派の仕事というものだ。分かるはずもない。ただ、仮にも鉄でできているのにそんな簡単に凹ませたり、ましてや壊すなど一体どういうことなのか。


 そう疑問に思っている者達がいた。

その答えを示すかのように少尉がどこからか、ちょうど脇に抱えられそうな、多くの吸盤(きゅうばん)のようなものがついている筒を取り出した。



「おそらく疑問に思っているだろうが、壁や床を損傷することがあるのはこの武器、振動砕(パルセイト・パウンド)があるからだ。何もしないと言った手前悪いが、早速この振動砕を使って仮想訓練をしてもらおうと思う」



 仮想訓練とは、三次元的なバーチャル空間で行う訓練のことだ。

 最近までゲームのシステムとして一般人に親しまれていたものだが、今ではコストがかかるということ以外はノーリスクで訓練が行えるということもあり、体力付け(ランニングや筋力トレーニングなど)と並び、軍の主な訓練メニューとなっている。



「だが、その前に振動砕の説明をしよう」



 振動砕。それはアルターを中から核ごと振動させ、まるで砕いたかのような絵面になることからついた名だ。

 アルターに、刀や銃が通用しないわけではない。

 しかし、例えアメーバ状にでも変形することのできるアルターを確実に倒すためには、

刀なら変形する暇も与えない振りを、

銃では小さな核を狙い撃つほどの命中率が要求される。

 が、当然そんな限られた人たちだけで大量のアルターを殲滅(せんめつ)することは不可能だ。

 そこで一般兵士にもアルターが倒せるよう開発されたのがこの振動砕(パルセイト・パウンド)というわけだ。



「大部分の人が使う振動砕はこの筒を手に包むようにして装着する。だが、これだけではまだ使えない。使えるのはこのエネルギーが蓄積された弾を装填してからだ」




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