第十三話 黒間の過去Ⅳ
「インタビューお疲れ様」
店長さんが笑顔でジュースを渡しながら言ってきた。
「流石DOW全国大会二連続覇者はいうことが違うねぇ」
Devil Of Warは世間的にも有名なゲーム会社が2050年に作った作品で、世に出るやいなや絶大な支持を受け、人気が衰えることはなく今やゲームセンターの売上を平均3割占めているという、超メジャーなゲームとなっていた。
このゲームの大会は毎年全国各地で行われるのだが、今年は地元で行われていた。まあ大会の開催地は大会の前回覇者が決めることとなっているから当然といえば当然なのだが。
ともあれそんなゲームの大会の二連続覇者となった僕は、自分で言うのもなんだけどゲーム業界では少し名が知れていた。
今日のインタビューは去年と概ね変わらなかった。来年の開催地、ゲームのコツ、始めたきっかけ、それらに関する質問は3時間半にも及んだ。始めはインタビューを見ていたマニアックな連中も時間が経つにつれ徐々に去って行った。
インタビューが終わる頃には時間はすっかり6時を回っており記者の人たちが帰ったあと、本当にコアなファンが寄ってきて、
「あのプレイ、戦い方、感動しました!」
「来年も楽しみにしてます!」
「いつも大会の動画見てます!」
などと言われた。
サインを求められたので、まあしてあげた。別に悪い気はしないしね。
それも終わったら、夏なのに辺りはすっかり暗くなっていた。
ゲームセンターには大会の余韻などすっかり無くなってしまい、その日は疲れていたので、こんな時間まで残って待っていてくれた和也(まあ本人はいつもどおりDOWとは違うゲームをして時間潰していたのだけれど)に飯でも奢ってやることにした。
「言っとくけど、臨時収入が入ったとはいえ、学生が払える範囲にしてよね」
ゲーセンからの帰り道、和也に釘を指しておく。毎年優勝者にするインタビューなどでちょっとしたお金がもらえるのだ。まあ優勝賞金みたいなものかな。
「分かってるって。で、今年は何万入ってたんだ?」
「もう、いやらしいよ和也。
...えっと、うんまあ5万ちょっとかな」
6社から質問責めされ、時間拘束時間は3時間半なので、案外まともなんじゃないだろうか。
「ならケチケチすんなよ〜。結構待ったぜ、俺?」
「和也はいつもどおり過ごしてただけでしょ〜」
そんな掛け合いをしながら歩いていた頃、あることに気付いた。
「やば。財布、ゲーセンに忘れてきちゃった」
「はあ?まじかよ。普通気付くだろ。お前ってたまに抜けてるんだよな」
「ごめん!すぐ戻るから待ってて」
「ったく、しゃーないな。ダッシュだぞ、ダッシュ」
ここからなら走って10分程だ。全然遠くない。
僕は今来た道を走って戻っていった。
「ひいふうみい...、よかった、取られてなかった〜」
インタビューの前にお金貰ってその時財布を出しっぱなしにしてたみたいだ。
「取られてたら何もできなかったよ〜」
ゲームセンターから出てきて安堵の息を漏らしながら、また僕は待っている和也の元へと走りだした。
道中、空が曇っているのも相まって暗く、人通りの少ない道を通っていた。
「うぅ〜怖いなあ、こんなんだったら、和也にもついて来てもらうべきだった」
弱音をはいていると、視界の端に黒い影が映った。走るのをやめて、恐る恐るその影が見える電柱に近づいてみる。
(怖いけどなんだろう、ただの石、みたいに見えるし、大型ゴミのようにも。かと思えば、生き物のように生気を感じるし)
好奇心が恐怖心に勝り、それに従った。
もうあとは手を伸ばせば届く距離にまでいた。
そして手を伸ばし、触ろうとしたそのときだった。
「伏せろ!唐月!」
「え?」
次の瞬間、咄嗟に屈んだ唐月の頭上を何かが通過した気がした。
「何、今の?」
「いいから走れ!」
僕は考える暇もなく和也に手を引かれ、走り出した。
去り際に今いた場所を振り向くと電柱の隣にあった黒い影は、うねうねと動いていた。その光景を見て、夏なのに、寒気が背中から這い登るような感覚がした。
前話から繋ぎが悪かったかなー
なんて自分で思ったりはするんですがねぇ
どうなんでしょう