治療、そして...
ドクター・ヤマダの勘違いがきっかけではあるが、勢いに押されてつい謝ってしまう太郎であった。
「す、すみません。並々ならぬ波の機械ですね、と言うべきでした」
「おお、そうじゃ。その通りじゃ。太郎君もその気になればなかなかうまいこと言うではないか」
ドクター、なんだか山田博士と話し方が似てきたなー、と思いながら、太郎は訊ねた。
「ところで、治療にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか」
「ものの数分じゃ。まず、プローブと呼ばれる『波送受信部』を太郎君の体に当てる。そうすると、この3Dディスプレイに体の内部の構造、病気の部分などが3次元的にカラー表示される」
「あ、本当だ。赤っぽい部分や青っぽい部分などカラフルですね」
「赤く見える部分が病気の部分じゃ。今はプローブから診断用の低エネルギーの『波』を出して、反射してくる『波』を画像化して病気の部分を検出しているが、場所が特定できたらプローブから高エネルギーの超音波、衝撃波、電磁波などの『波』を出して病気の部分に集中させ、治療するのじゃ」
「赤い部分がどんどん青くなって行きますね...もう、赤い部分が見えなくなりました」
「これで治療は終わりじゃ」
「え、もう終わりですか?あっという間でしたね。これで5千万円もかかるのですか?」
「何を言う!この機械の開発にいくらかかったと思っておるのじゃ。それにこの機械の性能を維持するためにものすごい費用がかかるのじゃぞ。さらに、この機械を治療に用いた場合、高エネルギーの『波』を発生させるのに莫大な電力を消費するのじゃ」
「わ、わかりました。ケチくさいことを言ってしまって、申し訳ありません。ところで、お尋ねしたいことがあります。ドクターを含め、この時代の人は皆さん脳味噌模様の帽子を被るのですか?」
「これは帽子ではない。この時代の人類は脳が発達して頭蓋骨からはみ出してしまっておるのじゃ」
「それでは5万年前に私を冷凍保存した山田博士も帽子を被っていたのではなくって...」
「山田博士はワシの遠い親戚で親交があったが、十数年前に思うところがあってタイムマシンで5万年前の日本に旅立ったのじゃ」
「今はタイムマシンがあるのですね」
「近年の理論物理学の発展で、時間も時間波と言う『波』の一種であることが判明して、音波や電磁波と同じように比較的容易に制御できるようになったのじゃ。ちなみに太郎君を治療したこの機械でも時間波を制御してタイムマシンとして機能させることができるぞ」
「え、そうなんですか!では、この機械で私を5万年前に戻して下さい。やっぱり生まれ育った時代の方が住み易そうですから」
「それは構わぬが、チト高くつくぞ」
「おいくらですか?」
「1億円、と言いたいところじゃが、半額の5千万円でどうじゃ」
「えー、それじゃ僕は一文無しになってしまう...」
「5万年前には治せなかった病気が治ったのじゃから、安いものじゃろ」
「そうですね。ではお願いします」
「では、この薬を飲みなさい。時間波が体を突き抜ける際の不快感を防ぐための時間旅行導入剤じゃ」
渡された薬は見覚えのあるものであった。太郎は素直にそれを飲んだ。
「あ、眠くなってきました。目覚めたら5万年前に戻っているのですね」
「5万年前に冷凍保存された時間、場所とは少し異なった状況で戻る。せっかく5万年後に来たのじゃから、何か残す言葉はないか?」
太郎は薄れつつある意識の中で、つぶやいた。
「タイムマシンで...過去へ...行くって...なんか...カッコえー」
謝辞:
この小説は、豊洲 太郎(toyosutarou)先生の小説「幸福な日々」からヒントを得て、豊洲先生のご了解のもとアイデアを借用させて頂きました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。