アイスクリームの天ぷら
思考のパターンがいつの間にか山田博士に近づいてしまっていることに一抹の不安を抱く太郎であった。
「おお、その通りじゃ!太郎君も頭の回転が早くなってきたのう。めでたいことじゃ」
「そ、そうですか?ところで、お支払いはどのようにしたらよいのでしょうか」
「現金払いでお願いしておる。カードじゃと決済時に何かトラブルがあった場合、本人が冷凍状態じゃと埒が明かない恐れがあるからのう」
「わかりました。これから銀行に行って、お金を用意してきます」
しばらくして、太郎が両手に1億円ずつ抱え、背中に3億円背負って帰ってきた。
「5億円ともなるとそれなりの重さになるじゃろ。ご苦労さん」
「山田博士、気になる情報を目にしたのですが」
「何じゃ」
「さっき、銀行で待たされているときにスマホで冷凍金魚のことを詳しく調べたのですが、金魚を液体窒素に短時間入れた時に凍るのは金魚の体の表面にある水分を含んだ粘液であって、金魚全体が凍ってしまう訳ではないと...」
「それはそうじゃ。温度は逆じゃが、アイスクリームの天ぷらを作る際も、油で短時間揚げた時には衣だけが加熱され、中のアイスクリームが溶ける訳ではない」
「金魚を液体窒素に長時間入れたままにすると、金魚全体が冷凍されてしまうと...」
「それはそうじゃ。アイスクリームの天ぷらを作る際も、油で長時間揚げると中のアイスクリームが溶けてしまう」
「全体が冷凍された金魚を水に入れて溶かしても生き返らないと...」
「それはそうじゃ。一回溶けてしまったアイスクリームをまた単純に凍らせても元の美味しいアイスクリームに戻らない」
「えー、それじゃ、冷凍保存なんてインチキでは...」
「何を言う!溶けたアイスクリームを単純に凍られせても元に戻らんのは当たり前じゃ。作るときのように泡立てなければならん。それと同じで完全に凍らせた金魚を溶かすときも単純に水に入れただけでは駄目に決まっとるじゃろ。冷凍保存には数々の問題があったが、問題があれば必ず答がある。ワシが答を見つけたのじゃ。溶かす方法に答があるのじゃ。すなわち解凍に解答があるのじゃ。わかったか!」