宇宙海賊、他一編
「やーめん」第2弾です。宇宙海賊キャプテン・ハーロックのオマージュ的な作品ですが、主人公は、ハーロックほどカッコよくは・・・ないですね(ハーロックファンに怒られるかな)
第一部 宇宙海賊
俺の名は、キャプテン・シロップ。無限に広がる大宇宙を舞台に、戦いに明け暮れる宇宙海賊だ。ちょっと辺境だが、この宙域じゃ、結構名が売れているんだぜ。もう十年くらい前になるが、俺がこの商売を始めた頃は、この辺境宙域を航行するのは、鉱山惑星から貴金属を輸送する貨物船か、暇を持て余した冒険家気取りの大金持ちくらいなものだった。まぁ、儲かっている奴らから多少お宝を奪ったところで、さして痛くもないだろう。そんで、そいつらを襲うと有り余る財宝がいくらでも手に入ったから、船に載せきれないくらい収穫があった時は、少し「おすそ分け」気分で辺境の貧しい開拓民に施しをくれてやっていた。なにしろ奴らは、いつも食うに困っていたから、俺らみたいな悪党でも命の恩人ってことで、英雄扱いさ。そういう時は、俺らだっていい気分になったりするんだぜ。
ところが、この施しってやつは、一度始めると途中でやめられなくなるものらしい。彼らから義賊と崇められるようになっちまって、いつのまにか施しが義務のような気分になってきやがった。今では、貴金属を輸送する貨物船も警備が厳しくなって、簡単には襲撃できねぇ。背に腹は代えられないから、最近は惑星住民に食料などを輸送する貨物船を襲うようになった。貧しい住民に施しするために、彼らの食料を奪うなんて、そんな義賊なんかいないよなぁ。もうこのへんで、宇宙海賊から足を洗おうかと思っているんだけど、なかなかきっかけがつかめなくて、そんで今日も獲物を探しているってわけだ。
「キャプテン、前方に、宇宙クルーザー級宇宙船発見だぁ!」
突然、レーダー見張り員がうれしそうに叫んだ。一週間ぶりの獲物だ・・・。
「識別信号を確認しろ。」
俺はときめく気持ちを抑え、冷静なふりをして怒鳴った。
「アイサー!識別信号を確認しま~す!」
見張り員は負けじと怒鳴り返した。
しばらくして、その船は宇宙連邦政府に雇われた警備会社の巡視艇と判明した。あちゃ~。まっ、いいか。宇宙連邦政府の宇宙軍は、巨大な戦力を持つ軍隊で、その戦艦なんかに出会った日には、なにはともあれ一目散に逃げださなければ、命がいくつあっても足りたものじゃない。しかし、いかんせんこの辺境宙域までは正規軍を派遣することもできないらしく、警備会社を雇って警備をさせているのだ。そんな船には大してお宝は積まれていないが、最近獲物が少なくて、ろくにお飯にもありつけない始末だし・・・。普段いばりちらしている役人の手先をやっつければ、多少なりとも「俺らの貧しい民たち」は喜んでくれるというものだ、うん。俺は空腹を理性で押さえ込みつつ、自己正当化の適当な屁理屈を考えてから言った。
「よし、いつものやつでいくぞ」
俺は操舵手に、巡視艇の進路上に留まるよう命じた。巡視艇からは、誰何の無線電話がひっきりなしに入っている。おそらく、相手のレーダーには、何のエネルギー反応も示さない宇宙船が写っているはずである。この船の識別信号は、過去に行方不明になった宇宙船の識別符号を適当にみつくろって発信するようになっている。赤外線による生体反応は検知されているだろうから、生存者がいると考えるであろう。この場合、難破船を疑うのが通常であり、人命救助のために接近するはずだ。
巡視艇は、こちらの予想通り、近づいてきて、やがて停船した。
「よし、突っ込め。」頃合を見計らって、俺は手下に命令した。
俺の船は、突如舳先から鋭いナイフを飛び出させながら、エンジンを最大出力で吹かし、巡視艇に向かって全速で突っ込んだ。
ドガガガガ・・・。大きな衝撃を伴って、俺の船は巡視艇に突き刺さった!
「野郎ども、乗り込むぞ!」俺は叫んだ。
「うぉ~~~!」
手下どもが嬉々として雄叫びを上げる。久々に飯にありつけるぞ、なんて叫んでいる奴もいる。
俺は、宇宙服を着込んで、手下とともに巡視艇に乗り込んだ。まず、船長を捕らえて人質にし、反撃できなくし、その間に金品や食料、燃料などを奪うのだ。
ブリッジに到達した俺たちは、しかし、意外なものを見た。そこにはうまそうな料理や酒が、まるで宴会場のようにならんでいたのだ。これは空腹のための幻影か?手下どもは、我先に宇宙服のヘルメットを脱いで、料理にむしゃぶりついた。
「お、おい。ちょっと待て・・・。」俺は叫んだ。が、すぐに自分も数日間、ろくなものを食べていないことに気づいた。やむをえない、腹が減っては戦ができぬという。まあ、これが罠であってもいいじゃないか。どうせ、この商売はもうお終いにしようと思っていたんだし。俺は妙に眠くなる頭の中で考えた。こんど生まれるときは、正々堂々と宇宙を走り回って生きられる宇宙警備隊長にでもなりたいな・・・。
第二部 警備隊長
俺は、辺境宙域を警備する警備隊長だ。ただし、民間警備会社の社員である。もともとは宇宙連邦政府軍の士官で、中型巡洋艦の艦長を務めたこともあるが、窮屈で権謀術数が横行する中央の生活に嫌気が差して、早々に退役したのだ。今は政府軍払下げで中古の小さなクルーザー級巡視艇の船長として、辺境警備の委託業務を受けて巡視をしている。
民間会社ではあるが、政府軍からは、軍に準じた権限を与えられており、犯罪者の逮捕や拘留を行うこともできる。その一方で、犯罪検挙件数のノルマもある。ところが、この辺境宙域に犯罪なんてそんなにあるわけがない。先月などは強化月間だったので、しかたなく小惑星帯でのスピード違反の取締りばかりしていた。安全速度の基準は、最低限の性能をもつ古い宇宙船を初心者が操縦することを基準に、相当な安全余裕を見込んで定められている。今時の最新型長距離用航宙船は、格段に性能が良くなっており、連邦政府の決めた基準の十倍のスピードでも事故なんか起こりっこない。皆そんなことは十分承知でスピード制限を無視して航行しているから、検挙件数を稼ぐにはもってこいだ。こちらとしては大助かりだが、こんなんだから、連邦政府は惑星住民から嫌われてしまうのだろう。
ふぅ・・・。俺は、先月スピード違反で検挙した真面目そうな貨物船の船長の恨めしそうな顔を思い出してため息をついた。地域の人々の平和を守るために働いているはずなのに・・・。
「隊長、どちらに向かいますか?」操縦桿を握った航海長が尋ねた。ちなみに、彼には一応「大尉」という肩書きもあるのだが、こんな小さな巡視艇では「大尉」だろうが「二等兵」だろうが大差はない。なにしろ、この船には、隊長で船長の俺、操舵手の航海長、レーダーや無線などの機器操作担当の航宙士、事務長兼任の司厨長の四人しか乗ってないのだ。
「あっちの方だ。」俺は適当に前方を指差しながら、ぶっきらぼうに答えた。
実際、今月はノルマを既に達成しており、どこへ行こうが気ままなものだ。今夜はノルマ達成のお祝いの宴会をすることになっているし、こんな辺境宙域では、犯罪者なんて滅多にいるものじゃない。・・・「あいつ」以外は。
既に何十隻もの貨物船が「あいつ」・・・あの宇宙海賊「キャプテン・シロップ」に襲われている。その手口のほとんどは、難破船と見せかけて油断した相手に突然体当たりし、直接乗り込んで金品を奪うという大胆なものだ。しかも、奪った金品は貧しい人々に分け与えているらしい。おかげで、その宇宙海賊を追おうと思っても、惑星住民の協力が得られず、いまだに検挙できないでいる。連邦政府からは、逮捕せよと矢のような催促が来ているが、地域住民からの通報で隠れ家でもわからないことには、この広い宇宙で闇雲に飛び回って海賊一匹を探すなんて、奇跡でも起こらない限り無理というものだ。
そんなことを考えながら、行く手の星空を眺めていると、航宙士が自信のなさそうな声で言った。
「隊長、レーダーに宇宙船らしい反応があります・・・。一年前に行方不明になった貨物船のようです。生命反応も検知できました。でも、誰何しても応答はありません。難破船でしょうか?」
「かもしれんな。接近して調べよう。」
難破船と思われる船を発見した場合、救助に向かうことは宇宙船の義務である。俺は宇宙海賊かもしれないぞ、と言いかけたが、こんなちっぽけな巡視艇を襲っても、何の特にもならないことは皆知っている。しかし・・・一年も前に行方不明になった船で生命反応があるだろうか。難破船らしき船に近づいていくうちに、俺はこの難破船は宇宙海賊かもしれないという気がしてきた。そして、外板の一部がめくれあがって、ご丁寧にも煙まで出しているその船が目視できるまでに近づいた時には、それは確信になっていた(一年間も煙出してるってか?)。宇宙海賊にやられた船は、こんなふうに疑問を持ちながらも接近し、突然体当たりされたのであろう。このあたりは人口の多い惑星からも離れた宙域だし、最近は宇宙海賊に襲われないよう警備も厳重にしているので、彼らもなかなか獲物にありつけず、手薄な船を手当たりしだい襲っているのかもしれない。見境もなく、こんな船を襲うほどなら、きっと奴らも相当追い詰められているに違いない。
ふふふ・・・甘い!甘いぞ、キャプテン・シロップ!
俺はある作戦を思いつき、背後の食堂に向かって怒鳴った。
「司厨長、今夜の宴会用の料理を全部ブリッジにもってこい。」
「隊長、もう宴会を始めるんですかい?」司厨長があきれて厨房から顔を出した。
「そうだ、お客さんをご招待するぞ。」
しばらくすると、思ったとおり難破船は突っ込んできた。強い衝撃があったが、皆対ショック防御をしていたので、怪我をした者はいない。物陰に隠れていると、宇宙海賊の一団がブリッジに乱入してきた。作戦通り、彼らは睡眠薬入りの料理にむしゃぶりつき、やがて眠り込んでしまった。
「隊長、先ほどの衝撃で、航宙システムが破壊されてしまいました。長距離通信もできません。どうしましょうか。」
泣きそうな声で航宙士が報告した。
うっ・・・良い作戦と思ったが、当たり所が悪かったか。俺としたことが、考えが甘かった。
「全員脱出カプセルで近くの惑星に脱出せよ。こいつらも見殺しにするわけにもいくまい。どれかカプセルに乗せてやれ。」
俺は、重なり合って眠りこけている宇宙海賊たちを見下ろして言った。
本船は、犯罪容疑者を収容することも考慮し、定員を多めに確保してあるので、脱出カプセルは十分な数を搭載している。その一つに、宇宙海賊たちを押し込んで、近くの惑星への自動操縦をセットした。彼らは、惑星住民の間では英雄であろうから、きっと歓迎されるであろう。それに比べて我々は、やっかいものだから、惑星に不時着しても助けてもらえるかどうか疑問である。もしかしたら、宇宙海賊の信奉者たちに見殺しにされてしまうかもしれない。そう思うと、なんだか宇宙海賊たちが急に羨ましくなってきた。
「今度生まれるときは、宇宙海賊にでもなるかな・・・」俺はぼそりと呟いた。
二部構成としましたが、読んでいただければ一体の作品と分かると思います。このような構成の小説も世の中にあるのかもしれませんが、残念ながら記憶にはないのです。が、ひょっとして、そんな小説を昔読んだのが潜在意識として残っていて、こんな作品を書いたのかもしれません。