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『genuine』…誠実な


 それは俺が登校中に橋の下にうずくまっていた犬を介抱したのが発端だったらしい。それとは何か?訊くまでもないだろう、妖関係のことさ。ってことでまずはその日の俺の登校から話は始まる。


 幽霊少女の件があった日、俺は李花にこれから毎日一緒に登下校をする提案をした。李花の返事は、

「もちろん良いに決まってるじゃないか。で?何時に学校に向かうの?」

というものだった。そして俺の起床時間はその日から30分ほど早くなった。

 さて、そして李花との登校1日目、俺は天津神社の前で李花を待っていた。ちなみに俺の家から天津神社はそんなに離れていない。到着から数分で李花は神社の階段を降りてきた。

「おはよう蓮くん。」

「おはよう李花。ところでなんで神社のほうから出てきたんだ?」

俺は疑問に思ったことを口に出した。

「あぁそっちのほうが近道だからだよ。」

李花はなんとなく悪戯っぽい笑みを浮かべるとそう答えた。その笑みの理由を訊きたいような気もしたが俺はそのまま別の話題へと移した。

「ところで李花はいつもこんな早起きなのか?」

「いつもはね、たまにもう少し寝ることもあるけど。」

そんなたわいもない話をしながら俺たちは登校していった。

はじめに言った通り俺たちが河川敷にある橋の近くにさしかかったときだった。俺は橋の下に犬がうずくまっているのを発見した。よくよく見るとかなり衰弱している。俺がそちらへ近づくとその犬は伏せていた顔を上げ、目をこちらに向けてきた。その目には深い知性が宿っており、自分の死を受け入れようとしているようにも見えた。李花が少し戸惑いがちに、

「蓮くん、それは…」

「あぁかなり弱ってるな、一応餌をあげてみるけど生きられるかは微妙じゃないかな。」

俺は早速近くのコンビニに行き犬が食べれそうなものをいくつか購入し、また橋の下に戻った。食べ物を与えてやると少し元気になったようだ。

「あの、蓮くん。そろそろ時間が…」

「ああそうだな。行くか。」

こうして、俺たちはその場を離れたがまだ少しあの犬のことを気にしていた。すると李花が、

「あの子のことなんだけど…」

「どうした?もしかして李花は犬が苦手だったか?」

「いやそんなことはないんだけど…蓮くんあの子を見て何か思わなかった?」

「あの犬に?特には思わなかったな。」

「そう、ならいいんだけど。」李花はほんの少し戸惑うような表情を浮かべたが、それも一瞬で、

「さ、急ごう。結構ピンチだったりするから。」

「そうだな。」

学校に着いた時間は遅刻ぎりぎりのところだった。

「じゃ、また放課後に!」

そう言い残すと李花は自分のクラスへと駆けていった。結局、李花の訊いてきた質問に抱いた疑問も消えてしまった。


学校では特に何が起こるわけでもなく淡々と授業が進み、時間が進んだ結果、放課後になった。今日は自分から李花の教室に向かってみたが途中で俺の教室に向かう李花と出会い、そのまま玄関口へと向かった。朝に通った道をたどる途中俺たちは橋の下の犬を見ていくことにした。

「「あぁ…」」

俺たちはどちらともなく悲嘆の声を漏らした。そう、あの犬は息絶えてしまっていた。近づいてみるとなんとも穏やかな死に顔に見えた。もちろん俺はこの犬の死体を放っておくことなどできず、土に埋めてやることにした。しかし、俺に今シャベルの持ち合わせはない。一度家に取りにいこうとすると、

「あ、蓮くん僕もついていっていいかな?」李花がそう尋ねてきた。

「もちろんいいぜ。そうだ、供える花も何か選んでいこう。」

「うん、そうしよう。何がいいかな?」

「まあ、綺麗なやつでいいんじゃないか?」

「だめだよ〜そんなテキトーじゃ〜」

「じゃあ李花が選んでくれよ。もちろん俺の小遣いで買える範囲でな。」

そんな会話をしながら俺たちはまず近くのフラワーショップに寄った。ところで李花は、

「テキトーはだめと言ったものの何にすればいいかは分からない。」らしい。

結局、俺たちは店員さんに尋ねることにした。

「あの、大切なペットが死んでしまって、何か花を供えてやりたいんですけど。」

店員さんは俺たちを微笑ましそうに眺めると、

「それなら、こちらから選んでみてはどうでしょう。」

花選びを李花に任せて店をうろついていると、さっきの店員さんが俺を手招きしている。

「そこの少年。こっちこっち。」

「はい、なんでしょうか。」

「あの子、君の彼女?」

「はい、そうですけど…」

「本当にかわいい子ね。どうだい花をプレゼントしてみないかい?」そう言うと店員さんは立ち上がり薔薇をとってきて包装しようとしている。店員さんの中ではもう俺が購入することは決定しているらしい。プレゼントも悪くないかなと思い始めた俺は、

「あ、それ買います。」

店員さんはニコニコしながら、「はいよ、毎度あり。」

すると李花が戻ってきて、

「蓮くん、これでどうかな?」

李花が手に持っていたのはシオンという紫がかった花だった。後で調べてみたが花言葉は追想、追憶といったものらしい。

「ああ、いいんじゃないか。じゃあ、これで。」

俺たちはそれも(というよりこっちがメインだった)購入すると店を出、ここからそれほど遠くない家に向かった。ちなみに去り際に店員さんが、

「彼女を大切にしなよ」とニヤニヤしながら言ってきた。当たり前だ。

 家に着くと早速、物置を探す。目的のものはすぐに見つかった。弟はすでに家に帰っており、帰ってきてすぐに物置を探り始めた俺を不審な物をみるような目つきで見てきた。まあ、仕方ないと思うが。目的の物を見つけた俺はそんな弟の視線から逃げるように李花と再び橋へと戻る。

 橋の下にはさっき見たとおり犬の死体があった。死体がなくなってるなんてことがなくて一応安心した。

「さて、早速始めますか。」

俺はそう言うと作業に取り掛かった。李花は静かに俺の作業を眺めている。

「蓮くんは優しいね。」

「ん?あぁ、今日会ったばかりなのに、なぜかほっとけないような気がしたんだ。それより、埋め終わったからこっちに花を」

俺がそう指示すると李花はそこに花を丁寧に置き、そして俺たちは静かに目を閉じこの犬の冥福を祈った。

 三十秒ぐらいだったろうか。突然背後から男の声がした。

「そのような丁重な弔い、誠に感謝します。」

振り返ってみるとそこには案の定男がいた。声と背丈からして歳は二十歳ぐらいだろうか、白く長い髪で目が隠れてしまってる。服装は平安時代を思わせるあれは狩衣とか言ったっけ。まあとにかく風変わりな男だった。

「……」

どう応えるべきなのかもわからず黙っていると、向こうも言いたいことは言ってしまったのか無言を貫いている。このまま何時間も続くかのように思われた時間は、李花に服の袖を引っ張られて俺が言葉を発することによって終わりを迎えた。

「えっと、もしかしてこの犬の飼い主さんですか?」

男は丁寧に、

「いえ、そもそもその犬には飼い主がおりません。そして私はあなたにその犬を飼ってほしいのです。」

「?」

飼うも何もこの犬は死んでしまっている。少しずつ不穏な空気が漂い始める。俺は李花に耳をよせ、

「もしかして、妖の類いか?」

李花も少し迷ってから、

「たぶんね。でも、そんな害があるようにも…」

「あいつの要望にはなんて答えればいいんだ?」

聞こえていない俺たちの会話の内容を俺たちの表情などから理解したのか男は、

「あぁすいません。確かにこの犬は死んでますが、生きてます。」

そんなことを言い始めたので俺たちは再び男のほうに向き直る。視線を向けられた男は一瞬驚いたようだがすぐに、

「そのぅ幽霊としてですね、生きてるんです。」

「……」

「あ!誠に申し訳ありません。そろそろ時間です。それでは」

そうして立ち去ろうとする男だったが、

「あのちょっと待って下さい!この犬飼いますよ。」俺は男にそう答えた。

「え?蓮くん!?」李花はかなり驚いたようだったが、

「ま、蓮くんが言うなら仕方ないか〜」とすぐに納得していた。

男は嬉しそうに笑い、

「ありがとうございます。次、会う時には幽霊をつれてきますので。」

そう言うと、彼は去っていった。もう夕暮れもだいぶ暗くなってきた、夕方とも夜とも言える時間だった。

「彼嬉しそうな顔してたね。(多分人間じゃないけど)」と李花が言ったところで、

「あれ?結局あの人は何者だったんだ?」

と俺がそのことを訊いていないのに気付いた。

「ま、人間じゃないだろうけどな〜」


さて「逢う魔が時」という言葉を知っているだろうか。この時間帯はとにかく妖たちが活発に現れ、活動する。人間からすれば最も迷惑な時間なわけだ。どうしてこんな話をするかって?俺たちがあの男に会っていたのもこの時間だったのさ。まぁ、この話をしたのはこれだけが理由じゃない。これから話すこともこの時間が舞台になるんだ。じゃあ、続きを楽しんでくれ。



結局、男と会った日にはなにも起こらず俺たちはそれぞれの家に帰った。

「おかえり〜」

そう言ってくれたのは他でもない、不審な物のように俺を見ている弟だ。

「あ、あぁただいま。」

あまりの不審ぶりに返事が詰まってしまった。そうして兄の威厳が失墜していることを割と真剣に考えながら自分の部屋へ向かったのだが…

「あ、おかえりなさいませ!えーとご主人様って言えばよかったんだっけ?」

「……」(なんで俺の部屋から声が聞こえるんだ?)

「まあいいや、これからお世話になりま〜す。名前はユウっていいます!よろしくね☆」

「は!?」

まあ、ラノベでよく出てくるようなシーンじゃないか。そう、そこには美をつけてもいいくらいの少女がいた。服装はあの男と同じ狩衣、そして白く長い髪。

「それで白木、蓮でよかったかな?数時間ぶりだね!」

「えっと…お前に会った記憶なんてないぞ?」

「あーそういえば男の格好で話しかけたね。まあ気にすんな!」

「はははは…」(もう笑うしかねぇ)

「それでね、一つ言いたかったんだけど私、犬じゃなくて狼だから。」

「…気付かなかった…」

「それと、契約はもう君が返事をした時点で成立してるから気にしなくていいよ。」

「ちょっとまて、契約?そんな話は聞いてないぞ。」

「いやだから言ったじゃん、飼ってくださいって。つまりは主従関係だよ。あ、一応言葉を述べとくね。」

ー私は一生あなたに仕え、いつまでも誠実な騎士であることを誓いますー

少女から簡潔に語られる言葉には絶対にそれを守るという力強い響きがあり、それが信じてもいいものであると教えてくれた。のだが、


「これどうやって李花に説明しよう…」


ユウが忠実であればあるほどこれから起こるかもしれないことを考えると途方に暮れるしかない俺だった。








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