『amaze』…〜をびっくりさせる
さて、李花への告白から1日が明けたその翌日、
「OKはもらったが具体的に何をすればいいんだ?」
そんな独り言をつぶやいていると、いきなり肩をたたかれた。
「おっす白木、どうした?恋の悩みか?聴いてやるぞ。」
声をかけてきたのはクラスメイトの榎本だった。まあ、同じ中学校の友達だ。成績も普通で俺の同志でありライバルなわけだが、
「ええとだな、まぁそのなんだ、実際にその通りなわけだがどうして分かった?」
「そんなもん、お前の顔に書いてあるからな。で?フラれたのか?てかお前彼女いたっけ?」
失礼な奴だ、しかし彼女ができたのは昨日のことだがな。
「いやそんな悲しいことは起きていない。ただつき合うことになったのに何をすればいいのか分からなかっただけだ。」
「贅沢な悩みだな!こんちきしょう!デートに行け、デートに。」
そういえば榎本は最近フラれたんだったな。それにしては元気そうだが。
「もうすこし日常的な話だよ。どう接すればいいとか、それこそいつも通りでいいのかとかさ。」
「知らん!自分で考えろ。」
おい、誰だ相談にのってくれるつったのは?
「聴くとは言ったが、相談にのるなんてことは一言も言ってないぞ。」
榎本はニヤニヤと笑っている。このやろう。
「まあなんだ、一緒に帰ったりするのは当たり前なんじゃないか?」
「それは、そうだな。」
俺はおとなしく納得する。
「そうするか。ありがとな榎本、助かった。」
榎本は偉そうに腕を組んで頭をうんうんと頷かせると、最後にこう言った、
「そういえばまだ訊いてないんだが、お前誰とつき合ってんだ?ま、どうせ藤田李花だろうがよ。そんなに驚くなって。お前自分が思ってるよりも顔に表情が出やすい奴だぞ。じゃな、お幸せに〜」
そういうと榎本は去っていった。こんな簡単に見破られるとは正直驚きだ自分はあまり感情を隠すのがうまくないらしい。しかし、『一緒に帰る』か、早速今日にでも提案しよう。
放課後、日直の仕事である教室掃除に取り掛かろうとしたときに李花がやってきた。
「蓮、一緒に帰ろうよ?あれ?今日は掃除当番か〜。手伝うよ。」
李花は俺が言おうとしていたことをあっさりと言ってしまった。すこし拍子抜けしてしまったが、一緒に帰れるだけでも嬉しい。しかし、李花はなんて性格が良いんだろう案外女子にも好きな人がいるんじゃないだろうか。なんてことを考えているうちに李花は掃除ロッカーに近づき、そして扉を開けた直後だった。
「きゃっ!」
当然俺もそちらに目を向けたのだが、
「なっ!大丈夫か李花!どうしてこんなものが、俺が開けた時はなかったのに…。」
そう、掃除ロッカーの中からは血まみれの女の子の死体が転がり出てきたのだった。腰を抜かしてしまったらしい李花に手を貸し、どうすべきか考えていた俺だが何も思いつかない。とにかく職員室に連絡でもすればいいのか?
「大丈夫か?」なんとか立ち上がった李花に尋ねると、
「うん、なんとか。それよりあれは一体…。」
再び俺と李花は死体のある方へと目を向けたが、
「「あれ!?ない!」」
どうしたことか、死体は流れていた血とともに綺麗さっぱりとなくなっていた。こうしたことからはっきりしたことは、
「妖の仕業か!」
ここで言うのもなんだが妖とは霊的なものも含んでいることを分かって頂きたい。
結局、その後は何が起きるわけでもなく掃除もそこそこにした俺たちは下校する運びとなった。李花と話し合い、何かあった時は連絡する約束をしておいた。気軽に電話などができなくなったのは少し残念だがそれも今は仕方ないだろう。
家に着くとちょうど六時を回ったところだった。しかし、つき合い始めてから1日で怪異に出会ってしまうとは…。まずはこの怪異を片付けないとな…。なんて考えているうちに時計の針は八時をさしていた。すると、突然ガタンっという音が響き、驚いた俺がそちらへ目を向けると、小学校6年の弟が、俺の部屋に入ってきていて、
「兄ちゃん、お母さんが晩飯の前に醤油買ってこいって〜」という母さんのことづてを伝えると来た時と同じように音を立てて去っていった。
「ま、買いに行きますかね。」うちの親は怒ると妖よりも恐いからな。
外は思っていたよりも寒い。それが関係しているかどうかは分からないが外の人通りもそんなに多くはなかった。いつも親のお使いに行く店に向かっていると突然後ろから声をかけられた、気がした。振り返ってみるが誰もいない。ただ単に空耳だったらしい、実際なんて言われたのかすらはっきり聞こえなかったからな。俺は正面に向き直ると再び歩き出したのだが…俺はまたもや足を止めることになった。俺の前を女の子が通り過ぎることによって。
「!?」
その子は今日ロッカーに入っていた幽霊少女だ。服装が同じだし、顔の印象も似ている。俺は急いで追いかけようとした。なぜ追いかけようとしたかだって?決まってるじゃないか、なんで俺たちにあんな悪戯をしてきたのか純粋に知りたいからだ。もちろん、ついでに解決できればとも考えている。
「ちょっと、待ってくれ!!」
追いかける俺、楽しそうに逃げる少女。俺の方が少女よりも速く走れるはずなのになぜか追いつけない。とうとう曲がり角で見失ってしまった。周りを見渡すが見当たらない。諦めて引き返そうとしたそのときだった、
「わっ!」
いきなり後ろから少女が声をかけてきた。
「おわっ!」
驚き後ろを振り返ると、少女は笑いながら、
「ねぇびっくりした?びっくりした?」
と訊いてきた。俺が答えられずにいると、少女はそんなことは気にすることもなく、また楽しそうに走り出してしまった。気付けばかなり遠くまで進んでいる。
「あ、ちょっと』
呼び掛けるがあえなく無視。しかたなくまた追いかけることにするが、まずは李花に連絡だな。
「はい。蓮くん?」電話をかけて数秒で李花は出てくれた。さっきまでのことを説明し、今も追いかけていることも伝えると、
「うん、分かった。僕も追いかけよう。彼女はどの方向に向かってるの?」
「あぁ多分、天津神社のほうだな。」
「分かった、僕もそこらへんを探してみるよ。じゃあ、また何かあったら。」
そう言うと李花は電話を切ったようだ、携帯からはツーツーという音だけが聞こえる。電話を終えて少女の向かった方角を見るとまだ少女が見える。俺もそちらへ急いで走り出した。
結果的には少女は俺が李花に伝えた方面どころか天津神社へ向かって行った。天津神社に着いた頃にはすでに俺の息は上がっており、階段を上るのがとてもきつかったことを追記しておこう。特に意味はないが。運のいいことに、天津神社についてすぐに李花と会うことが出来た。
「少女は?どこいった?」俺が尋ねる。
「むこうので立ち止まってるよ。ほらあの大きな木の下。」
李花がむこうを指差しながら教えてくれる。そちらへ目を向けると少女は立ち止まって木を見ている。木は多分桜だろう、今はもう花もなく葉桜となっている。俺は息を整えながら、李花は息を潜めながら少女に近づいていく。少女から5mぐらいの距離まできただろうか、少女が俺たちへ振り向いた途端いきなり風が吹いてきた。風はかなり強く目は開けてられなかった。次に目を開けるそこには驚くべき光景が飛び込んできた。
「なんだこれ!?」と俺、「え?これは?」こちらは李花だ。
そこには、さっきまでは葉桜だった満開の桜の木があった。まさに一瞬で花が咲いたような光景だった。唖然とする俺たちに少女は、
「びっくりした?驚いた?」
笑顔で尋ねてくる。少女はとても答えて欲しそうにしている。俺は素直に感想を述べることにした。
「驚いたよ、本当にすごい。ありがとなこんな美しい景色を見せてくれて。」
たったこれだけの言葉になってしまったが、少女は嬉しそうに笑いそして、フッと消えてしまった。
結局、それ以降、少女が現れることはなかった。李花曰く、
「彼女はただ驚いてほしかっただけかもしれないし、他になにかあったのかもしれないけど、とにかく蓮くんの反応に満足したんじゃないかな。」
本当に彼女のことは何も分からなかったが、心が満たされたならそれはそれで何となく嬉しい。妖たちを理解することは難しいのは今回で学んだことだが、全部が全部害があるってわけでもないってことも学ぶことが出来てよかったと思う。
ー妖に関わるってのも悪くないかな
ちなみに醤油を買い忘れた俺は親にたっぷりと怒られたとさ。めでたしめでたしでもないな。