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【規格外】

ボソッと呟いたが、他の二人にも聞こえているだろう。

地中に穴を掘った感じだったのに、ここからは何故か建物のような気がする。

真ん中を歩くべきか端を壁伝いに進むべきか迷った。


ふと、どこからか音が漏れていることに気づく。

それはこれから向かう先から聞こえてきているようだったが、反響しているようで、音の出所がいまいち分からない。

そうこうしているうちに、左側の壁が反転した。


「さっきは、落として悪かったわね」

そういって出てきたのは、後輩と俺を落とした咲宮だった。やや口調がおとなしくなってる。

「お前どうやってここに来たんだ?落とされた穴は後ろの方だってのに、左から来るなんて別のルートか?」

その言葉に彼女は頷く。

「つまりよ。あの仕掛けに手をかざすと右は落とし穴。左は仕掛けから目が出てくるようになってて、それをはめ込むと階段。で、左側から来たってわけ。落とし穴のトラップは気づかなくて悪かったわね」


「そっちには何かあったのか?」

反転した壁を触ってみる。一方通行なのか全く動く気配がない。

「数歩歩くうちにこの壁にぶつかるの。ただ狭くて面倒な階段が続くだけよ。そして一方通行って書いてあった」

向こう側にね。という言葉を聴いてがっくりと来る。

いざって時はこの道は閉ざされて使えないのかと。

その時には、これを壊していく・・・という手も考えたかそこまで術力が残っているのかはなはだ疑問だった。

あいつは一度立ち止まって謝ってから、その奥へとまっすぐに向かっていった。

何か起きたらと警戒しているこちらがバカかのようにそれはさくさくと。そしてとあるところで立ち止った。


「志紀。ちょっとここまで来て触ってみるといいよ」

誘われるままに近づいて指差してる方向に手を伸ばす。

ぷにぷにとした弾力のある何かが目の前にある。が、それがどういったものかは分からない。

弾力はあるけれどそれが脆いのではなく、弾力性が強く拳を突き出したところでその分だけめり込むが割れたり破けたりということはない。


「これ、一応結界なんだよね。で、この先になんかあるっぽいんだけど、術力使わないで破れる?」

弾力度合いから言ってまず無理だろう。たとえ刀を持ち合わせていてもその弾力性が一瞬にして破けたとしても相手は結界だ。すぐに修復するに違いない。

「鋭利なもので抉って…だな。それで、どうにかならないなら。本当にどうにかならないだろう」

「あんた達は?なんかある?」

その弾力性のある結界から数歩離れたところにいる後輩にあいつは関心を示した。


「そのあんた達って言うのやめてください。私にはちゃんと、小鳥遊畔(たかなしほとり)っていう名前と、彼は榊原遊鳥(さかきばらゆとり)っていう名前があるんですから」


あいつはどこか遠くを見ていたが、やがてゆっくり頷いた。

「悪かった。じゃ、畔とユトリ。なんか鋭いものある?無かったら勝手にやるけど」

武器の携帯は許可されていない。よって、それ以外で何か鋭いものはあるかといってもそういうわけでもない。

あいつは彼らが何も持っていないと判断して、自分の胸に手を入れた。そこから取り出したのは先端が鋭利になっている針金…?


「お前それ、どこから出した。というか、武器の携帯は…」

「は?武器じゃないわよ。女は大体身に着けてるでしょ、金具の入った、下着。それを事前加工して何が悪いの?」

つまりなにか、こいつは、こんな時があるかもしれないと事前に下着…というか、恐らく服に入った金具っぽいものはいつ何時でも使えるように

加工しているってことか。

たしかにまぁ、服なら武器携帯には対象とされないから良いかもしれないが。とはいえ、こいつは…。


「離れてなさい。ゴムのように弾けるわよ」

小鳥遊と榊原は素直に距離を置いた。俺も続く。

あいつは、自分で何とかするだろうとそう勝手に思って。


「弾力性のある結界じゃ原初的な方法がベストね。灯りがあっても武器携帯未許可だったり鈍器では進めないというのは賢い選択よ。けれど、あたしには無駄よ、通用しない」

触れただけで切れてしまいそうなほど研ぎ澄まされた針金の先端を結界に突きたて、両手で押した。ぷつっと音がしたかと思うと四方にひびが入りぴしっという音と共に弾け飛ぶ。


「第二階層大広間。通称、粘膜の間。結界攻略おめでとう」

結界がきれいにはじけとんだ後、透明だったように思えた結界が実はマジックミラーのように何も映していなかったことを知る。

その向こうにいる見たことのある人物は、拍手をして俺らを出迎えた。



「悪いんだけどね、あんたを倒せって。噂が一人歩きしちゃった責任とでも思って、覚悟して?」

その出迎えた人が今回の倒す相手だとは思いもしなかった。

そもそも吸血鬼という話じゃないのか。想像力不足とは言われても仕方ないが、吸血鬼というと、一般的なのを想像してしまう。

だが、御伽噺のように羽根が生えているわけじゃない。犬歯が異様に尖っているわけじゃない。

そんなものは全て作り話だということを知った。だが一つだけ、真実は伝わっている。


「聖属性、光属性には弱いのよね。だから、夜にしか活動したくない。さっき上に来たのは、見てみたかったの?

永遠にも似た命を持てば知りえることが出来るもの。対象の保持魔力の質を通してどういった属性に特化しているのかとか」


この穴の場所を教えてくれた人が目の前にいた。

互いに苦笑して理解をしてくれたと思っていた人が今回の対象だった。


「そういう意味で脅威なのは、君と彼女…だね。でも、君の目的は叶えられないけれど、それでもやるの?」

咲宮は自嘲的な笑みを浮かべて肩を竦める。

「そういう仕事だから。それとも先に進ませてくれる気が有るの?」

課題という依頼じゃなく、仕事といった咲宮は何を目的としているのだろうと気になった。


「その程度ならやめてしまえば?彼らは、君への答えなんて持ってないんだから。我侭になればいい。奪ってしまえば。それで答えを見つけることは出来るだろう?だからさ…」

相手は指を一回鳴らす。パチンと音が聞こえたと思ったら、咲宮の足元にぽっかりと穴が開いて落ちていった。

手を伸ばす間もなくその穴はすでに埋まっていき、何もなかったかのようにたたいても土の感触があるだけだった。

「おい、あいつをどうしたんだ?場合によっては」

「君が気にする問題じゃないよ。一足先に招待しただけだ。君達はここにいる彼らと遊ぶといいよ。

無事倒せたら次のステージに進ませてあげる」

またね。と手を振って、男は自分の足元に穴を開けて吸い込まれていった。そこに手を伸ばそうと駆け寄ろうとしても

置き土産たちが道を塞いでいて閉じてしまった。


「しゃーねぇっ、こいつら倒すしかねーのかっ」

利き腕の拳をもう一方の掌に当てて、気合を入れる。


利き腕の拳に集中する。そこに術力が集まっていくのを感じる。あいつと合流するまでは、ムダに消耗するわけにも行かない。

「神術のアンタは後ろで控えていてくれ。支援無いんだろ?」

あいつが持っていたからって、後輩が持っているとは限らない。というか、あいつは色々と規格外だと思ってる。

だから、ここは俺が。


「ちょっと楽しませてもらうぜ」

手にこもった術力を極力使わないように、纏っていない足で壊せるかどうかを試す。

後輩の女が下がったのを目視すると、一気にその山に突っ込む。

勢いと慣性に力をこめて蹴り飛ばす。首から上が何体か飛んだが体は頑丈なものでびくともしない。

ただ視点を失った為まっすぐとはいえない足取りでのろのろと近づいてくる。


「お前ら、後ろ下がって伏せってろ」

取り出したのはピンポン球の一回り小さなもの。これに術式は一切関係ない。

「一気に片付いてくれよー?」

テンションが高くなってきているのか、楽しくてしょうがない。

破壊活動に楽しみを見出すのはよくないことだが。ここには口うるさいのもいないしなと、いうことで免除させてもらおう。

彼らの山の中に1個だけ残して他を全部撒いた。


「3・2・1・0…」

0といった瞬間、派手な音共にその邪魔な置き土産たちが一瞬赤く染まりぼろぼろと地面に土の山を作った。

「ほいっ、成功。じゃ、お前ら前進むぞ」

地面に伏せていた後輩らが軽く服を手で払って駆けてくる。

何か聞きたそうな顔をしているが、聞いてこない以上は触れることもない。


だろうなとは思う。学院に縛られるつもりはこっちにはないってことだ。

あいつはその意思関係なく縛られるだろうが。だからこその規格外。非定石-イレギュラー-


衝撃といってもさほどじゃないが、物を破壊する能力だけはそこそこにある。

肉体という柔らかいものを相手にするには殺傷能力がたいしたことない。ということだ。

これは、独自に習ったもの。学院で教わったものじゃない。だからこそ、聴きたそうな顔をしてるんだろう。

土の山を作ったその向こうに、穴が開いていた。そこに向かって歩いていく。

さすがに地面を破壊するだけの威力はない。そもそもそんな柔らかいもので作ったら、下の階がひどいことになるだろう。

後輩達は後ろをついてくる。


「志紀さん。さっきのって、学校じゃ習いませんよね?」

足元を注意しながらその穴を潜り抜ける。その先には左右に分かれて階段がある。片方が上へ片方が下へ。そのまま下へいく道を選択する。


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