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力関係はいつもこんな感じ。

出たところはだだっ広い場所だった。

でも待てども待てども咲宮は降りてこない。

天井を見上げえ見るものの光なんてものはない。そういえば開いた穴の周辺は暗かったかと思い直す。

「降りてこないつもりか。まぁ、いいや。進む方向さえわかってれば、後で来るだろう」

いっちょ携帯で聞いてみるかと思えども電波は立っていない。


「咲宮、お前なんか匂うとかそういうのあるか?」

神術の生徒の中で時折術の残り香を嗅ぎ取る人物がいる。勘ではなくて素質だから仕方がない。


「仕掛けかな。術は維持にコストがかかる。無意識の状態でも術力を強制的に吸い取って発動し続けるっていうタイプなら生贄を必要とする頻度と人数が増えても仕方ないし。でも現状の伝承と依頼が来たってことを考えると、現状の回数と人数で何とかなるような高位術師ってわけでもなさそうで。術のオンオフを仕掛けにする手もあるけど…無いなぁ」

最後の無いってのは、術の気配だと思うことにする。

言われてみればそうだ。かなり時期をあけて殆ど寄越せといってくるのは1人という少人数。これなら、いざというか地盤沈下などが起きたときの対策のために、術式展開での洞窟維持だった場合、消耗がきつい。

それと、良い事を聞いた。術式のオンオフを仕掛けにするという手もあるのかと。

使う者が1人だった場合そのものが意識のあるときがオン状態にしておいて、意識がなくなる前にオフにしておけば消耗は抑えられるということだろう。


「全体を仕掛けでオンオフを術式に頼る方法もあるけど、1つ狂ったら全体にどう影響するのかわからないし、術式は狂っても理解している分楽だけど根幹に係わってた場合最悪組み直し。…あ。魔術の痕跡は無いっぽい」

仕掛けが存分に理解していれば、魔術に頼らずそちらのほうがらくだということなのかもしれない。

オンオフの切り替えを、意味のある言葉にしておけば認証も声紋認証という手があるのか…。

そこで考え直した。考えながらぐだぐだやっていたら、咲宮に張り倒される。

目の前のことをまず終わらせてしまおうかと、目を凝らしているとひとつの不自然さに気づいた。


1つだけ苔が他のものよりも付いていないものがあった。

「志紀、ちょっとどいて」

言うが早いか咲宮は足に力をこめて思いっきりその墓石を蹴った。

「お前っ、他所の墓に何してるんだ!」

「中に眠ってるならまだしも、対象物が生きてるかも知んないのよ。しかも、文字が薄くなって見えないじゃない。これじゃ、誰の墓だかわからないわ。他の墓は綺麗だってのに…」

疑問は確かにそうだ。だが、それについて思考の海にはまろうとしたとき、すぐ近くで物音がする。

何かを掘っているような音だ。

「咲宮」

名を呼んで黙らせる。それだけで意を理解したように黙り、目を閉じた。

「志紀」

気配を忍ばせて走った。咲宮はそれを直線上に見るだけ。回り込んだ結果、音の主は彼女達に向かって走ってくる。

暗闇を利用して、足をかけ転ばせて背中を踏みつける。

「こんな時間に墓荒らし?悪癖は直したほうがいいわよ。で、悪いんだけど、地下洞窟にいく出入り口知らない?」

言葉では悪いといいつつも高圧的な態度と言葉で足で踏んづけている何かに命令した。

「お前、悪人よりも悪人らしいぞ」

咲宮は腰に手を添えて胸を張った。足に力を入れたのか、足蹴にされている人物が呻き声を上げる。


「し、知ってる…だから、その足をどけてくれ…」

「本当なんでしょうね?嘘ついたら承知しないわよ」

そんなやり取りを何度か繰り返して納得したのか踏んづけていた足を引き上げる。

やれやれといった状態でゆっくりと立ち上がると大きくため息をついた。


「ったく、まさか女に足蹴にされるとは」

愚痴を漏らしながら、その人物は苔の余りついていない墓の後ろに回った。そしておもむろに墓石の裏で何か細工を行う。

「うわっ…」

後ろに居たはずの後輩が居なくなってた。ぽっかりと空いた穴に落とされたらしい。

「礼を言うわ。ありがとう。でも墓暴きじゃなくてもこの時間はやめたほうがいいわよ」

軽く屈伸運動をして、ていっっと掛け声をかけて穴の中に飛び込んでいく咲宮を見ながら、俺とその相手は互いに肩を竦めた。


「あんた、苦労するな」

初対面の人物に同情までされてがっくりと肩を落とす俺を知らずしてか、穴の中から声が聞こえる。

急かす声だ。とっとと降りて来いというもの。

「まあな、これくらいはまだましだ」

咲宮がしたことをすまなかったと頭を下げ、礼を言ってから彼もまた穴の中へと姿を消す。

全員が中へ入り、そこに誰も居なくなったのを見てから細工を戻して入り口を閉じた。

頭上の蓋が閉まっていくのを咲宮は黙ってみていた。


「さてと、探索開始。っと、あんた達、回復手段持ってるなら自力でしなさいね。持ってないなら今この場で自己申告」

急に足元がなくなって落ちて腰をさすっている後輩二人に容赦の無い言葉を浴びせる。

これは先ほど決めたことだから、言葉を柔らかくといったところで聞き入れるような人間じゃない。

とりあえず全員持っていることは確からしい。それを確認できたようで、咲宮は満足していたようだった。

だがそれを聞いたときの後輩二人の表情が怪訝なものに変化したのは見間違いではないだろう。

そこそこに明かりはともされていた。そうじゃないと不便だということだろう。

薄暗いことには変わりない。故に壁に手をついて歩くことを必然と求められた。

俺を前にして悠々と咲宮は後ろからついてくる。

何かに躓き転びかけた所を後ろから咲宮が襟をがっつりと掴んで倒れることは防がれたが反動で咳き込んだ。


「お前…助け方にも色々あるだろうが」

思わず苦言を漏らしたが、前方から何か不気味な音がするということで、その方角を凝視した。

ガコンと音が響いたと思った直後、ガサガサというが徐々に近づいてきている。

はっと身構えたが、その音源は部屋の中央を突っ切って壁際までは来なかった。


「大量の虫…ね。良かったじゃない。虫にまみれなくて」

幻聴なのだとおもう。が、言外に聞こえる。虫まみれになりたかった?と。

あわてて首を横に振って、礼を述べた。じゃないと次は本当にやりそうで怖かった。

いや、こいつはやる。そういうやつだ。

虫が通り過ぎると俺達は歩き出した。だがすぐにT字路にぶつかる。

左右それぞれでどうにかしなくちゃいけないらしい。

右側のほうを後輩らに任せ、左側を俺らが…と思ったら、やはり、俺だけで探って来いと彼女は言った。

本人は、丁度3つが交わった中心に立ち、壁を凝視している。


「ねぇ、志紀。これ、真ん中の壁を壊したら奥に進めないかしら?」

「ちょっ…」

あわてた声は俺のほかにもう片方からも上がった。

「先輩さすがにそれ無茶すぎ」

「ほら、言われてるだろ。お前無茶しすぎなんだよ。だいたい壊すの…って、俺か。いやまて、早まるな。お前は待ってろそこで!」

足に当たったものがある。それは恐らく他にぶつかっていないことからすると、腰よりも低い物じゃないかという推測が立つ。

外部の調査に行く際にいつも持ち歩いているペンライトで周囲をかざす。

銅像があった。だが、目の部分がくりぬかれている。はめられていたのかどうかは分からない。


「そっちの2人ー聞こえてるか?俺の方に銅像あったんだけどさ、目の部分がくりぬかれてるわけ。そっちになんかあるか?」

咲宮を無視して二人に声をかける。じゃないと何をしだすか分かったものじゃない。

「ねぇ志紀。あたし暇なんだけどー?なんか適当にやっちゃっても良い?真ん中に道作んないから」

声がしたと同時に悪寒が走った。

とめる声をあげる前に何かが足元にやってきた。いや、足元だけじゃなく周辺に。

「お前っ、何したっ」

「志紀ー。ちょっとあたしの足元に這い蹲ってくれないー?気になることが出来たんだけど、届かないのよねー」

答えにはならない上に要望を突きつけられてしぶしぶ戻る。左右の分岐点に差し掛かったところで後輩達のほうから

「ちょっ…何これっ…」

あせった声が聞こえてくる。どうした?と声をかけたくとも、暇にしているあいつが何をしでかすか分からないから、あいつの元に急いだ。

「来てくれてありがと。で、悪いんだけど、そこに四つん這いになって」

丁度Tの字を描くように左右に分かれた道を区切るような壁の前におとなしく四つん這いになる。

あいつがそれでも何とか靴を脱いで背中に上ってくれたが…重たいとは口が裂けても言わないことにしよう。

「悪いけれどちょっとそのままでねー」

上をちらりと見たけれど、あいつは何か気になったところに手をかざしているようだった。

自分の身長ならかろうじて足りるところだろうが、確かにあいつからしてみれば身長が足らずに届かないのも頷ける。

平均身長より少し高めの男が腕をまっすぐ伸ばした場所に何か気になったようで、そこに手をかざした。


「うぎゃっ…!」

またもや後輩たちのほうから声が上がる。だがこのまま放り出していくわけにも行かず悩む。

「あ、志紀ありがとー。とりあえずもうちょっと調べてみるから。1年のところ行ってきてー」

届かないってことだったのに大丈夫なのか?というのは愚問だ。逆にとっとと行かないと何をされるか分かったものじゃない。

背中から降りたのを確認して立ち上がり、軽く服を払ってから後輩達のところへ行く。自分が調べていたところよりも、もっとずっと奥まで

進めるような気がした。だが、向こうとは違って銅像がない。こちらは最初から無かったのかと首をかしげる。

ペンライトを使って確認しようとするものの接触が悪いのか光が点らない。

仕方なしに歩くと、地面が無かった。

「うわぁっ…」

バランスを崩してそのままその穴に落ちていく。やっぱりあいつ、何かしたんだ。と、その時確信した。

これでは、連絡も取りようがない。あきらめて進むことにする。

「先輩。あの人って、いつもああなんですか?」

これを聞いてきたのが一年コンビの女のほう。

「まぁ…な。大体いつもあんな感じ。まぁ、回復に関しては腕は確かだ」


腕は良いがそれ以外が破滅的に駄目。というのが、彼女に付きまとう評価だ。

『それ以外』という点で、何度も呼び出しと注意を受けているのに直らない。というか直す様子がない。

あいつを置いて3人でその場所を調べることにした。

出たところもだだっ広い場所。さっきいた場所とさほど変わらないが、何かおかしい。という気分にさせられる。

「なんか仕掛けがあるっぽいな」

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