俺は、志紀。
報告があった。
そして学院に学外試練という形で依頼がきて、この程度なら外部請負を使わなくても
学生の団体行動で住むだろうと判断されて学院内で人員を募り討伐隊が結成された。
俺達は今回の依頼の舞台となる場所にたどり着く。
都会から離れた地方だが、近年良く見かけるような目立った過疎化はしておらず、自給自足で生活が賄える場所。
つまり、農業畜産にそこそこ適した場所だったということだ。ただ、村のはずれにある墓地には人気は無い。
墓地の向こう、つまり村の外れの更に外れにまた畑が広がっておりその向こうは山があった。
依頼の内容はこうだ。
最近になってその、夜人が近づかない場所から人の声が聞こえる。
誰かが悪ふざけでもしているのかと思って見回りを強化したが夜にそんな所へ出てきて叫ぶ輩は発見できなかった。
しかも、一度や二度じゃなく毎晩聞こえるときもあるという。今までは静かだったのに何故と、不思議がる村のものが多かった。
だが、この村に古くから残っている書物には伝承という形で記述が残っていたそうだ。
此処の村のどこかから入ることのできる地下洞窟に吸血鬼の棲家があると。
ただし、近年になって途端にその伝承が復活してきたようだった。ずっとあったわけでも、苦しめられてきたわけでもない。
時折思い出したかのようにその伝承に準えたことが起きるのだと、地下の住んでいるらしい吸血鬼の気まぐれと処理されてきた。
生贄を寄越せという。その生贄も女性に限ったものかといえばそうじゃない。
極々稀に、男を差し出せ。という要求があるらしい。割合的には多いものではないが、何故男?と、村人も首を傾げたそうだ。
声の被害というのは、夜に地面から響きわたるのだ。数名の声が。阿鼻叫喚ではないものの、人によっては叫んでいるようにも聞こえるという厄介な代物。
よって人は、目に見えぬ何かを恐れ、外に出ることを拒むようになってしまった。
このことが知れたのは、書簡にて報告を試みたものが居るからだ。
術師育成部門にそれが報告として降りてきた結果、学院に依頼という形式で今回の討伐隊がある。
神術科2年回復系に重きをおく咲宮と、付術科2年最低限の回復と忍術系攻撃に重きをおく俺こと、志紀。
神術科1年の女子生徒と、付術科1年の男子生徒。この1年生コンビとは話したことがある程度で術式などさっぱりだ。
咲宮は神術科の中でも、使い手が少ない全体回復を所持している。彼女が居る限り回復魔術に気を取られなくて済む。
だが、非常に性格に難がある。いっていることはわからなくもないが、難がありすぎる。
話を元に戻そう。
古き昔の伝承として記述されているのは、この地方には古くから吸血鬼と呼ばれる特殊な人種がおり、彼らにとって特別な時期になると若い娘と、極々稀に若い男を生贄として欲するのだそうだ。
若い娘は生贄に出された後、生きて帰ってくるものと帰ってこないものがいるらしい。男のほうはほぼ帰ってこないそうだ。
帰ってくる女は、生贄当初処女だったものが、出産を終えて数年立ってから戻ってくるというものだ。
つまり、地下洞窟のなかで孕まされ、子を産んだのち、子を残して生贄だけ戻ってくると。
戻ってこない男のほうは捨てられるのか殺されるのかは判らないが。一方では、子守をしているんじゃないかということ。
そして、それらが生き延びるために、この人気の無い墓場に出入り口があるんじゃないかという説がある。
この説が出たのは、数年前に生贄となったはずの男が、この墓地でふらふらとしているのを見かけた。という確認していない情報からだ。
よって、地下洞窟へはこの墓地から行くのが良いだろうということなんだが。
入り口はどのように隠されているのやら。と、現在彷徨っている所だ。
「志紀、あんた前回から術式増えた?」
俺のことをあんたというのはこいつしか居ない。咲宮。他は呼び捨てだったりと名前で呼ぶが、こいつだけは一向に直しやしない。
「ん?攻撃系を多少。お前のほうはどうなんだよ、咲宮」
こいつが増やすとしたら攻撃系だろうか、神術科の光属性回復系統魔術は全部取得していたし、拘束魔術と防御を少し持っていたような。
「あたし?回復鍛錬メインで属性防御ちょっと増やした程度。ねぇ、軟膏使えたわよね?」
軟膏というのは、神術科の回復系統とは異なった付術科の錬金術系統の回復魔術のことで、1回に3個まで作り出すことができるが、全体回復までは及ばない。自分含めて3人ならまだしも、元々神術科は許容魔力の最大値が高いから何度も使えるが、俺が所属する付術科、もう1つの体術科は許容魔力の最大値は比較すると無いにも等しい。よって軟膏作成するにも攻撃用の魔力量を残す計算をしておかなければ、いざというときに何も出来なくなってしまう。
「あるけど、お前は自分で治せよ?なんか嫌な予感でもするのか?」
咲宮は俺の腕をがっしりと掴むというよりも抱え込み、耳たぶを強引に引っ張って耳元に口を寄せた。
「悪いけどあの二人と組んだことなくって。術式もさっぱり。渚や大澤先輩みたいなケースもあるしわかんないのよ」
渚って言うのは、俺らと同学年で咲宮同様全体回復・単体回復魔術を持ち現在は範囲攻撃魔術に重点を置いている。
もう1人、大澤先輩というのは俺らの1つ上の人で、今も神術科にいるがこの人は最低限の単体回復魔術の他、単体防御・全体防御魔術を持っている。つまり、同じ神術科というだけでも、攻撃系・防御系・回復系と分かれていて組んでみるなり自己申告が無い限りはそのタイプが判断できないということだ。
まぁそれはどの専科に対しても言えることだが、回復だけは全体化があるかどうかでかなり影響が出てしまう。
多少の防御は回復でなんとか帳消しにしてしまえるからだ。
「ああ、渚や大澤さんか。お前さ、光属性攻撃って何か無かったっけ?」
「光属性攻撃は習わないわよ。有効なのは単体回復のAura、火属性でIgnisね、後は彼女…知ってるかしら?」
ちらりと後ろを見る。同じ専科の後輩がそれを知っているかどうかは実質的な賭けになってしまうからか。
同じ回復系統でも、軟膏は属性違いでダメージにはならない。つまりは光か火で対策するしかないということだろう。
「ちょっ…」
何をすると言わせないまでに俺の腕を引っ張って抱え込み、耳を貸せといって強引に耳たぶを引っ張り声量を抑えた声で囁かれた。
「最悪あんたと二人でこれ乗り切るのよ、あたしは彼ら甘やかさないから、したいんだったらあんたがすれば?」
こいつはまだ言ってるのかと、正直あきれる。進級してからずっと言っている。
答えが出ていないのか、質問しても答えが得られないのか。得られても納得が出来ていないのか。
いずれにせよまだ立ち止まっているらしい。大抵は先輩らと組むことが多いから問題にはならないし個々の系統が違うから被ることもない。
だが、後輩はやり方が違うんだろう。同じ系統なら育てるために術を使わせないといけないが、別系統ならあいつがそれをやらなくちゃいけない。
人によってのやり方も方針も違うのだから、やりづらいというのは理解できるが…何時まで悩み続けるのだろうか。
今まで何人かの教師に相談したが、結果的に納得が出来ないといっている以上、最後の砦は…。
「甘やかさないってアレか?全体回復使わないから、個人で回復しろっていう」
「そうそう、それ。だって答え出ないんだもの。最後の先生が認めてくれるなら横取りするけどそうじゃない間はね?ってことで志紀。お得意の勘でなんか見つけて?」
入り口候補とされている墓地に到着していたらしい。見渡すだけでは何も判らないような気がした。
個々に来る途中に渡された懐中電灯で照らして一つ一つを確かめていく。