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恋するフィレオ

作者: みもこちと

フィレオは彼女に一目惚れしたわけでは全くなかった。


いつが初対面だったかも覚えていない。

ただ、噂に違わない絶世の美女の後ろに同じものがいつも居る程度の認識だった。


リリアンナとかいった側室に会いにいくと彼女の侍女であるそれが必ずフィレオを案内した。


こちらにちらとも目を向けず無表情を貫く姿は若い娘にすれば珍しいと感じた。






フィレオは前を歩く侍女を観察してみた。


揺れる茶色の髪はどこにでもある上、後宮の出入り口でのみ見る髪と同じ色の丸い目がある顔もごく平凡だった。


大陸でも有名な美しさの側室と並ぶとその平凡さは顕著だった。


だが、なぜか視線が離せないことにフィレオは首を傾げた。






ある日、フィレオは特に意味もなく侍女の名を知りたいと思った。


側室の部屋から王宮に帰る、まだ夜の明けない時間、案内が終わり別れる直前に。


「侍女、名は?」

「・・・・・・テレサと申します」


たっぷり間を置いて侍女は答えた。

嫌だ言いたくないという気配が隠しきれていない。


後宮の出入り口に立つ、女騎士が侍女の不敬に顔をしかめた。


だが、フィレオはむしろ笑い出しそうになってしまった。


「覚えておこう」


後宮に背を向け、護衛が男にかわるのを確認しながら、自分の部屋へ戻る。


思えばまともに会話したのはこれが始めてだったかもしれない。


テレサ、テレサ、と頭の中で繰り返す。


「・・・陛下?顔が赤いですが酒でも飲んだのですか?」


通りすがりの宰相に問われて、フィレオはやっと妙に顔が熱いことに気づいた。






名前を覚えたら、呼びたくなる。


「テレサ。・・・リリアンナは息災か」


しかし呼んでも何を言えばいいのかわからないフィレオは結局、テレサの主について聞くしかない。


「健やかにお過ごしです」


珍しく返事が素早かった。


フィレオはおや、と思った。

今日は天気が良かったな、とかいくつだ、とか言ってみても彼女は間をあけて、できたら聞こえないふりをしたいという様子だったからだ。


ついでリリアンナのことをいろいろと尋ねてみれば比較的に言葉多く返してきた。


「リリアンナは美しいな」


ネタがきれた頃、フィレオが苦しまぎれに誉めてみれば、テレサは輝くような笑顔を見せた。


「そうです!そうなのです!リリアンナ様は世界で一番美しい姫君なのです!」


すぐにテレサはしまった、と言いたげな顔をした。

一国の王に対する口調ではないと気付いたのだろう。


フィレオはそれどころじゃなかった。


お湯をかぶったんじゃないかと思うほど、顔が熱をもっていた。


手で顔を覆って小さく頭を振るが、かわいいという単語しか頭に浮かばず、まったく正常な思考に戻らない。


フィレオは今日は帰る、ときびすを返した。


実はリリアンナのところへ行く途中だった。


王宮で、会った宰相がフィレオを嫌そうな顔で見た。


「陛下、なんですか。その締まりのない顔は。非常にきも、いえ、威厳がありません。水でも被ってこられたらどうです」


失礼な、と怒る余裕もなかったフィレオは大人しく従った。


寝台に寝転んでもテレサの笑顔が忘れられず、一人悶々とした。






次の夜、テレサの機嫌はたいそう悪かった。


フィレオが戸惑っているうちに、リリアンナの部屋についた。


「昨日はなぜ、来てくれなかったのですか?」


おずおずと尋ねられて、フィレオはやっとテレサの不機嫌の理由に気付いた。


あのあと、自分の主にフィレオが途中で帰ったことを伝えるはめになり、嫌な思いをしたのだろう。


特に理由はない、と伝えながら、これから気をつけねばと思った。






テレサはリリアンナがとてもとても好きなようだった。


フィレオがリリアンナを誉めると惜しみない笑顔をくれる。


とことん誉めて、テレサに会うためにリリアンナの元へ通ううちにリリアンナは寵姫と呼ばれるようになった。


フィレオはテレサが嬉しそうなので訂正しなかった。






後宮は魑魅魍魎の集まりでもある。

嫌がらせ、毒入り菓子、暗殺は当たり前だ。


まだ正妃のいないフィレオの寵姫となればなおさらである。


妙に剣を使えるテレサは、女騎士を差し置いてリリアンナを守った。


そんなテレサの武勇伝を聞く度にフィレオの肝は冷えた。


注意をしても聞きやしない彼女をいっそ牢に閉じ込めて誰からの危害も受けないようにしてやろうかと何度思ったかしれない。


しかし嫌われると思うとフィレオが実行することはできなかった。


ただでさえ好かれてない気がするのに。


腹いせにテレサを傷つけた側室と刺客に厳しい処罰を与えた。






フィレオは恋をしている。が自覚はないに等しかった。


彼の態度にリリアンナとテレサはたいそう困り苛立つのだが、知るよしもなかった。


ゆっくりと想いを育てるフィレオは今日もただ後宮に通うのみである。





おわらない・・・!


連載にしたほうが良かったかもしれません。まだ話が増えたらまとめます。


テレサはリリアンナが誉められたらその場では嬉しいけど、後になって、自慢か!と怒ってます。

更にフィレオが嫌いになる悪循環。


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