猫ちゃん、救出作戦
まだ暗い中、1台の車が走っていた。
運転手は小林といい、愛車のジープに乗っている。
暗い中、目を細めながら注意深く進んでいくと、右側から何かが飛び出してきた。
「うわ!!」
とっさにブレーキを踏んだが、何かがぶつかる感触があったので、まずいと思い、小林は車から降りる。
車のライトを頼りに探すと、猫のようだった。
「大丈夫か、おい。大丈夫か?」
猫に触れながら声をかけると、猫は横たわった状態から何とか起き上がったが、ふらふらしており、心もとなかった。
ー動物病院に連れて行ったほうがいいな。
仕事の新聞配達は後回しにして、三毛猫を救おうと、スマホを取り出す。
電話番号を調べ、かけてみると、女性が出た。
「はい。何でしょうか?」
「あ、あの、猫をひいてしまったのですが…」
小林はちらりと猫を見、答える。
首輪をしているので、飼い猫だと分かる。
本当は飼い主に言ったほうがいいのだが、そんな余裕はなかった。
「今すぐ連れて来てもらえますか?」
「今…。…しょうがない」
新聞配達は遅くなるが、小さな命を守るために、小林は承諾する。
「分かりました。今すぐ連れて行きます」
電話を切ると、猫をそっと抱き上げ、助手席に乗せる。
猫は具合が悪いのが、大人しかった。
ごめんな、と一言かけて撫でてやると、分かるのか「ニャー」と答えてきた。
ー少しスピードをあげるか。
動物病院まで時間がかからないが、とにかく猫のこどで頭がいっぱいで、小林は祈るように連れて行く。
「ーあ、見えてきた」
動物病院の建物が見えてきて、ほっとすると、ジープを駐車場に置く。
猫を抱えると、小走りで動物病院のドアを開ける。
「あ、あの…!! 今、電話した小林と申しますが…」
緊張しながら言うと、女性が出てくる。
30代くらいだろうか。
どうやら女の先生のようだった。ネームプレートに、黒川と書いてあった。
「せ、先生、よろしくお願いいたします」
「はい、それではお預かりします」
「それで、その、俺、新聞配達しないといけないので、一旦、離れても大丈夫ですか?」
「新聞配達…。それはお疲れ様です」
「はい。待っている人達がいるので」
申し訳ありませんと、続けると、先生は薄く微笑んだ。
「新聞配達が終わったら、必ず来てくださいね」
「もちろんです!! 行ってきます」
小林は車に戻ると、助手席を確認する。
血は出ていないようだが、猫のことが頭から離れない。
ー無事でいろよ!!
そう願って、ジープのエンジンをかける。
車の全く通らない道路を進みつつ、元へ戻っていく。
頭は猫のことを忘れようと、ハンドルを握りしめる。
飼い主に会ったらどうしようかとか考えるのを止めた。
ーそうなれば、ままよ!!
そう吹っ切ると、小林は新聞配達へ戻っていく。
まだ早いので、電気のついている家は少ないが、郵便ポストへ入れていく。
ー猫のはねたところに…。
新聞を配りつつ、道路を確認するが、何もなかった。
スピードは新聞を配るために落としていたので、それが良かったのかもしれない。
「よし、待っているよ、猫ちゃん」
さすがにご主人達は寝ているらしく、小林だけが正義感強く、仕事をこなしていく。
段々と明るくなってきており、この瞬間が好きなんだよなとほっとする。
暗さと明るさの混じった空。
まるで魔法でもかけられたように、ピンク色をしており、天の愛情を感じる。
小林は車に戻ると、前方に注意しながら進んでいく。
あと少しで、終わりだった。
よし、とやる気を出すと、次々とこなしていく。
「終わった…。早く猫ちゃんのところに戻らないと」
小林は休むことなく、動物病院へ向かう。
何ともないといいけれどと思いつつ、アクセルを踏み込む。
急いでいたせいか、あっという間に着いてしまい、車から降りる。
「黒川先生、猫は…猫はどうですか?」
勢いよく中に入ると、先生は優しくほほ笑んでくれる。
「大丈夫ですよ。軽い怪我で済んだみたいです」
「…良かった…。はあ」
その場に座り込むと、先生が「大丈夫ですか?」と聞いてくる。
「大丈夫じゃないですよ、全く。こっちは生きた心地がしなかった…」
「そうですか。もう心配いりませんからね」
「はい」
先生にはっきりと答えると、待合室の椅子に座る。
すぐに先生が猫を抱えて出てきて、小林は立ち上がる。
「ご主人に言ったほうがいいんでしょうか?」
「言えたら言ったほうがいいですよ。ただ動物病院に来なくていいですからね」
「そうですか。分かりました」
小林はそう言うと、猫を受け取り、治療代を払う。
痛い出費だが、しょうがない。
会計を済ますと、先生に頭を下げ、ジープへ向かう。
「お前、びっくりさせるなよ」
横たわった猫の頭を撫でてやると、猫は分かるらしく、「ニャー」と鳴いた。
小林はびっくりしたが、本当に何もなくて良かったと一安心する。
「暗いうちは、家の中にいること。分かったか?」
猫に語りながら、愛車を転がす。
ご主人様のいるうちに戻るつもりだった。
ーどんな命でも、救うものは救う。
小林のモットーで、猫の様子を伺いながら、進んで行く。
ご主人に何と言おうと考えながら、ジープはまだ黒いカーテンが開かない中、信号待ちをするでもなく、走って行くのだった。




