表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界探偵コンビ  作者: ボッソン氏
1/1

第1章

「こんにちは。俺の名前はカイオ――カイオ・ネオシグマだ。」


……まあ、自己紹介のところにもう書いてあると思うけどね。


俺は今、28歳。渋谷のカフェで働いている。


本当はスイスにカフェを出したかったんだけど――アラキが反対した。


いや、別にアイツが怖いわけじゃない。ただ、長いこと一緒に住んでるし……たまには譲ってもいいかなって。それだけ。


で、渋谷でカフェを開いたわけだけど、まぁ、うまくいってない。


客も少ないし、なにより――


「俺とアラキのせいだと思う。」


そう、自覚はある。理由は簡単だ。


アラキは身長4メートル、俺は3メートル。


この巨体コンビが接客してたら、そりゃ客もビビるわな。


さらにアラキの声はやたら低くて重い。最初の「いらっしゃいませ」で帰られることもある。


……仕方ないけどさ。


【2025年8月5日(木)】


夕方、店の片付けをしていると、アラキが静かに言った。


「カイオ、俺たち……他の仕事を考えるべきかもな。」


「え?マジで?」


俺は一瞬手を止めた。


「もう5年もこの仕事してるんだぞ?」


「分かってる。でも、最近は客が少なすぎる。このままだと生活も厳しい。」


確かにそうだ。貯金も底をつきかけてる。


「で、俺たち……何すりゃいいんだ?」


「お前、何かやりたいことはあるか?」


「いや……特にないな。自分に向いてることも分からん。」


「夢とか、あった?」


夢、ね……。


あった気がする。けど、それは――


「探偵……昔、なりたかった。」


「探偵?今どきそんな職業……まだ残ってるのか?」


「一部の、働きたくないけど情報漁りは好きなヤツだけな。」


「ま、俺はゴメンだけどな。」


そう言って、会話は終わった。俺たちはまた黙々と片付けを続ける。


そして、俺はぽつりと呟いた。


「……異世界に転生できたらな。」


アラキは無言。どうやらスベったらしい。


五分後。


片付けを終え、帰ろうとしたその時――


ドカン!!


店の扉が、吹き飛んだ。


「……は?」


驚く間もなく、獣耳を持った連中が店の中になだれ込んできた。


俺は反射的に叫ぶ。


「お、お前ら誰だよ!?」


金髪の女が一歩前に出て、大声で叫んだ。


「シポクイウ、メティリア・オッカ!」


「……は?どこの言語だよ?」


わけが分からない。


「なあ、ここ撮影現場って聞いてないぞ?監督呼んで?今すぐクレーム入れるから!」


ドン!!


今度は鉄の球が、壁を突き破って飛んできた。


「ぎゃああああ!! 壁ぇぇぇ!! 修理いくらかかると思ってんだ!」


怒鳴ろうとした瞬間、その鉄球が変形した。


……え、メカ!?


しかも、アラキよりデカい。


「……この撮影、特撮使いすぎじゃね?」


「ミケラ・ドツァトス!」


「いや、だから!日本語喋れやぁあああ!!」


そのメカが、俺たちに向かって腕を振りかざす――


「しゃがめ、カイオ!」


アラキが俺の頭を押さえて――


バキィィン!!


アラキのキックが、メカを吹っ飛ばした。


それは倉庫の壁を突き破って、外まで転がっていった。


俺は目を見開いた。


「……お前、なんでそんなに強いんだよ!?」


「知らん。けど、それは後にしろ。」


「こっちの問題の方が先だ。」


メカは再び起き上がり、全く傷一つない。


「……ステンレスか?」


「チタン製だ。」


「いや、どうやって分かんだよ。」


「匂いだ。」


……どんな鼻してんだよ、お前。


アラキはテーブルを持ち上げ、天板を破壊した。


「おい、何壊してんだよ!? 店の備品だぞ!」


「後で弁償する。」


「……いや、俺から言うセリフじゃなくね?(てか、オーナーお前だし)」


アラキがその破片を投げつける。


メカが少しよろめいた瞬間、アラキは距離を詰め、膝蹴り。


さらに拳で胸をぶち抜き、中からコアのようなものを引っこ抜いた。


「……作り込みすげぇな。」


「この撮影班、相当金かけてるぞ。」


「モティティク・ムラココ!」


「だから! 日本語を喋れぇぇえええ!!」


「待て、カイオ。」


アラキは金髪の獣耳少女に近づき、その耳を引っ張った。


「……これ、本物だ。」


「……はぁ?」


アラキが窓の外を見た。


俺もつられて見て――絶句した。


そこには、もはや俺たちの知っている渋谷はなかった。


高層ビルも、コンビニも、スマホをいじる人々もいない。


代わりに――古風な建物と、見たことのない種族の人々。


そして、全員が俺たちのカフェを見ていた。


アラキが静かに言った。


「俺たち、もう元の世界にはいない。」


【2025年8月5日(木)】

《転移》

【1590年30月45日(金)】


― 第1章 終わり ―

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ