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ライバル令嬢が婚約破棄されたらしいので俺が貰うことにした。

作者: 紗希










俺達二人は、幼馴染だった。

親同士が職場の同僚で仲が良かったのだ。


親同士が仲良しなら子も仲良し?そんな事はなく、何なら俺達は––––ライバルだった。


小さい頃はよく喧嘩した。喧嘩するほど仲が良い、なんてよく聞くが…。


「あっはっはっ!リディア、また俺の勝ちだ」

「くっ!次こそは勝つわよ!」


お互い貴族の子息令嬢で、お互い両親が王家に仕えている身。そして二人とも同じ師を持つがゆえ、試験やテストがあるたびにどちらの方が優秀かを競い合った。

筆記、実技、技能試験…。


「このままいけば、俺の方が先に婚約も決まるかもな」

「ふっ、婚約が決まっても先に結婚すれば良いのよ」

「お前、貴族が婚約をすっ飛ばして結婚するつもりか?」

「最終的に勝てば良いの!」

「おいおい…」


こんな感じで、昔からずっと何かしら勝負し続けていた。俺達からすれば、この関係性で楽しかったし満足もしていた。競い合う相手がいるのは、お互いに切磋琢磨するのにぴったりだからだ。


「結婚しても、その先だって勝負し続けるわよ」

「家庭を持ったら勝負続けられないだろ」

「あら、弱気?今からもう負けを宣言するのかしら」

「いや、勝負より家族を大切にしろよって話…」

「私はずっと貴方に勝ち続けるわよ。それが私の生き甲斐だもの」


俺のライバル、リディア・ヒューリストン。誰もが振り返る美人だが勝負事が大好きで、令嬢なのに剣も振るうし頭も良く文武両道。

欠点はというと、俺との勝負に熱中しすぎて浮いた噂がない事。

男遊びがないのは美点だが、恋の一つもしないのはライバルとして心配するレベル。


負けん気が強く、負けず嫌い。その性格が災いしてか、中々縁談が来ない事を、俺は知っている。


…………こっそり、俺に、その相手として縁談の話が持ち上がっているほどに。


「子供ができたら勝負とか言ってられないぞ?お前、子育ての大変さ知らないだろ」

「それはそれよ!良いのよ!私は私がやりたいようにやるんだから!」


俺としては、リディアと関われるこの時間が、割と好きだった。

何を隠そう、俺は、彼女に片想いしているのだ。











結婚適齢期になり、世の貴族の間では誰々が何処どこの令嬢に求婚しただの婚約発表しただのそういう結婚にまつわる噂やニュースが飛び回る。

俺達も当然その渦中にいるわけだが、俺は乗り気にはなれなかった。

リディアとの勝負の過程で得た称号や階級により、令嬢やその親からの見合いの打診は山ほど来るが…


「……その為に勝負してるわけじゃないんだけどな」


手紙を読む気になれず、開封すらせず、受け取ってはため息の日々。

こんな事なら、求婚してしまおうか。

やけくそではないが、そんな風にも感じ始める。




そんな時だった。




「………殿下が、リディアに…?」

「ああ。先日、ヒューリストン公爵が教えてくれたよ。直々に、リディア嬢へ手紙を書かれたそうだ」


ある日父上から速報が伝えられる。

殿下とは、この国の王位継承権第二位の王子。第一王子とは違い……まあ、良い噂のない男だ。


「リディアは…」

「王家との繋がりになるのならと、お受けしたらしい」

「………」


リディアなら、そうするか。

正直、女遊びが激しいとすら噂されている第二王子だ。噂を鵜呑みにするのはいけない事だが、一度親の職場見学にリディアと王城へ訪れた際、まだ10にも満たないようなリディアに下心のある視線を向けていた記憶がある。


ぞわり、と悪寒が背中を駆け抜けたのを、当時の俺はしっかりと覚えていた。


俺達とそう変わらぬ年齢のはずの王子からの下卑た笑み。かなりの衝撃を受けたものだ。

あの王子が、リディアに求婚?本当に?


「部外者が口を挟むものではないのは重々承知ですが…」

「言いたい事は分かっている。……私も、知らぬ仲ではないから公爵に打診してはみたんだ。だが…」

「………」


父上の反応を見るに、良い答えは得られなかったらしい。


「…では、近々正式に婚約発表でしょうか」

「恐らくな…」


じ、と父上の視線。何だろうと思い、首を傾げる。


「…父上?どうされました?」

「……お前は、それで良いのか」

「良いのか、と申しますと」

「…………私が、お前のリディア嬢に抱く想いに気付いていないとでも思っているのか」

「…気付いておられたので」

「私を誰だと思っている。お前の父で、リディア嬢とのやり取りを最も近くで見てきたのだぞ」

「お恥ずかしい」

「微睡もそのような事、思っておらぬ癖に」

「バレましたか」


そういや父上も、昔は母上とよく喧嘩していたと聞いた。幼馴染だったと。

まさかこんな所が似るとは思わなかった。今ではとても仲の良い両親だから。


「……リディアとは、“婚約するのはどちらが先か”と話した事があります。あいつの心の中に、俺はいませんでした。……人生最大の勝負に、俺は負けたようですね」


引き際は美しく。それが例え周りから何と言われようとも、俺は後悔しないつもりだ。


父上はそれ以上、何も言わなかった。












第二王子とリディアの婚約の噂は瞬く間に広まり、王城の号外誌に載った事でそれは信ぴょう性を増した。

すると俺の所へは令嬢からの茶会への招待状が山ほど届くようになった。

恐らく、幼馴染が婚約した事による嫁取り合戦ならぬ婿取り合戦のようなものだ。はた迷惑だが。


「坊ちゃ〜ん、またこんなに招待状が届いています〜!」

「うわ…」


俺付きのメイド、アンナが両手いっぱいの手紙を部屋へ持ってくる。一応箱に入っているが、溢れんばかりだ。

…これ全部見るの?てか、これ全部茶会の招待状?


「独り身だからってこんなによこしやがって…」

「坊ちゃんがリディア様一筋なのご存知ないのでしょうね〜」

「…俺、そんなに分かりやすい?」

「あら、ラングウェル家に仕える者達の間では有名ですよ〜」

「…。へ」


ふわふわとした口調のアンナに言われてようやく自覚した。

上手く隠せていると思っていたのだ。…父上は別として。


「どうなさいますか〜?中身を見ずに焼却しても差し支えないとは思いますが〜」

「え、しょうきゃ、え?」

「これ、実は一度お断りしている家ばかりで〜、数撃ちゃ当たるとでも思ってるのか一人で何枚も出してたりするんですよ〜」


全く失礼ですよね〜、と穏やかに話すが、目が笑ってない。

見てみれば確かに、シーリングの同じものが複数入っている。え、これって普通一人一通じゃないか??


「…燃やしても問題ないか?」

「大丈夫ですよ〜。逆にこういうのは差出人の品性が疑われるので普通はやりませんよ〜」


貴族の知識を叩き込まれているアンナが言うなら、間違いないだろう。


「じゃあ、すまないが、初見じゃない手紙は燃やしてくれ」

「承知いたしました〜。全部燃やしますね〜」

「全部!?」


バッと暖炉に放り込み手際良く火を付けた。

心なしか、アンナの背後に修羅が見える。


「あ、そういえば坊ちゃん」

「な、なに」


ぐりん、と振り返ったアンナが、間延びしてない口調で呼んだので少しギクッとなる。

そして次の瞬間、俺の目が見開いた。


「例の第二王子殿下。どうやら二股をかけているようです」

「…………は?」







アンナが言うには、俺付きの従者であるロベルトが街へ買い出しに出かけた際、見知らぬ女と歩く第二王子を見かけたらしい。

単なる友人かと思いきや、腕を組み密着し、あたかも恋人のような雰囲気だったと。

それでも、勘違いしてはいけないとロベルトは二人の後を着いていき、もし気のせいであったなら見なかった事にするつもりでいた。


––––結果、第二王子は人目につかない路地裏で、女と抱き合い唇を……。


この国では、王位継承争いを避けるため、国王含め王子達にも側室を取る事は推奨されていない。女児にしか恵まれない、もしくは男女どちらかに子を成せない原因が考えられる場合のみ、然るべき手順をもって側室が認められている。


…それを知っていて、第二王子はリディアに求婚した立場でありながら他の女にうつつを抜かしているのか?


「ロベルトが言うには、二人の関係性は完全にクロ、言い逃れようのない真っ黒だそうです」

「…その事、リディアは知ってるのか」

「噂程度のものであればご存知かと。しかし実際にその目で確認するのとでは雲泥の差がありますね」

「……ひとまず、この話は俺達の間だけで。父上には、俺から話しておく」

「かしこまりました」

「………悪いんだが、引き続き、第二王子に関して目撃情報があれば教えてくれ」

「承知いたしました」


………この時は、まだ杞憂であってくれと、俺は願っていた。

リディアを本当に妻にしたくて、愛しているのなら、今は女癖が悪くても、二股をしていても、我慢できると思って。


けれどもそれはあっさりと裏切られる。











二股発覚から数ヶ月後、俺は王城のパーティへ招待された。噂では、リディアとの婚約発表だと言われている。

内心、例の女はどうなったのか気が気じゃない。何しろあれからもちょくちょく第二王子の二股現場が目撃されている。


…最悪な事に、俺も一度見てしまった。弁明しておくが、ロベルトのように尾行したわけではない。街に仕事で出かけた時、路地裏から話し声が聞こえて喧嘩かと思って様子を見に行った。


そしたらいたんだ。


仲睦まじくイチャイチャしている第二王子の浮気現場。

何をしていたのかは、もう気持ち悪いので言いたくない。


もうそれからは第二王子が全く信用できなくて、どうにかしたくて浮気の証拠をロベルトとアンナに手伝ってもらって必死にかき集めた。


その証拠をヒューリストン公爵に直接掛け合い説得したけれど、結果それでリディアの婚約が白紙に戻る事はなく。


浮気癖のある第二王子なのはリディア本人も承諾済みだと、婚約は継続された。


悔しかった。こんな事なら、もっと早くに…。


そんな胸中など誰も知らずに(両親とメイド達は知ってる)、俺はかなり憂鬱な気分でパーティ会場に入る。すでに多くの貴族が集まっていた。


「…はぁ、帰りたい」


シャンパンを受け取るが、乾杯する気分になんかなれるわけない。


「カルロス様。仮にも王家主催のパーティです。辛気臭い表情はお控えください」


俺の姿勢に苦言を呈するのは俺の従者であるロベルトだ。今回パーティへの同行に指名した。…俺一人だと、色々心打ち砕かれそうだったので。


「…第二王子の悪癖が無ければ、俺も安心してリディアを祝えるんだ」

「幼馴染という立場に甘んじて、いつまでも関係を進展させなかったのはご自身でしょう」

「俺の事ライバルとしか思ってないような相手に求婚は無理だろ」

「それで今後悔なさってるのはどこのどなたですか」

「…お前、今日はいつにも増して言葉の殺傷能力高いな」


グサグサ突き刺さる従者の非難の数々。俺一応主なのに…。


「……結局、第二王子は先週まで二股を続けていたのか」

「はい。リディア様とは手紙のやり取りのみ、更には婚約も実は浮気相手が本命ではないかという噂も」

「……くそ、」


悪態をついていると、一際会場内が賑やかになった。周囲の視線を追った先にはパーティドレスを身に纏うリディアの姿。

こうして見ると、すっかり令嬢らしく美しくなったなと思う。


そしてそのリディアの視線の先。

てっきり婚約相手の第二王子かと思いきや、そこにいたのは第二王子と例の女で。


二人は、仲睦まじく腕を組んでいた。…まさか。

第二王子は意気揚々と声を上げる。会場隅々にまで響き渡るように高らかと。


「今ここに、第二王子として告げる!リディア・ヒューリストン、貴様との婚約を破棄し、新たにモモ・ランピエール嬢との婚約を宣言する!」


––––は?


周囲が騒つく。


「…殿下。本気なのですか」

「本気も何も、今はっきりと宣言しただろう」


久々に聴いた、リディアの声。心なしか震えているようにも思える。


「お手紙で、甘い言葉をくださったのは……嘘、だったのですね…」

「恋心など移ろいやすいものだ。あの時はそうだったのかもしれないが、今はこのモモを愛している」


もはや隣の女の事しか目に見えていない第二王子に、彼女は…


「……かしこまりました。殿下、どうぞ末永くお幸せに」


ドレスの裾を持ち上げ、綺麗なカーテシーを披露したリディア。

彼女は公の場で婚約破棄されたというのに、食い下がる事なく最後まで令嬢としての威厳を示した。天晴れだ。


周囲の貴族達もそんな彼女に尊敬の眼差しを送っていた。その時、とある事に気付く。


「……ロベルト。今、リディアは婚約破棄されたんだよな?」

「…さようでございますね」

「つまり、リディアは今婚約者もいない独り身だな?」

「……何を仰りたいのかは大体察しがついておりますが」


念の為である。

俺が今見た光景が正しい認識なのか、ロベルトに確認した。ともなれば、俺は頭で考えるより先に足が動いた。


「––––リディア」

「……カルロス」


人混みを掻き分け、今退場せんとするリディアの手首を掴み取る。相手が俺だと分かると、驚いたリディアの表情に一瞬で影が落ちた。


「…格好悪いところ、見られちゃったわ。先に婚約して、カルロスに勝つつもりだったのに」

「…リディア」

「……第二王子殿下から婚約破棄された令嬢なんて、そう簡単には次の縁談も来ないでしょうね…。おめでとう、カルロス。きっと、婚約も結婚も、貴方の勝ちよ」

「リディア」

「な、に…」


皮肉がたっぷり含まれたリディアの敗北宣言。やめろ、俺はそんな言葉を聞きたくてお前を呼び止めたんじゃない。


お前にそんな顔をさせたくてここへ来たんじゃない。


リディアの前で跪く。手は掴んだままだ。逃さぬように。


「カ、カルロス。何…」

「リディア・ヒューリストン。どうか私と婚約していただけませんか」

「え」

「…ずっと前から好きだ。今も、リディアが好きだ。…俺と、結婚してほしい」


瞬間、貴族達から歓声が湧き起こる。

…貴族令嬢は特に、こういう恋愛小説で見るような求婚のシーンが好きなので尚更なのだろう。


「えっ、あの、カルロス?私、今婚約破棄されたばかりなのよ?」

「知ってる。見てた。…破棄されたから、チャンスだと思ったんだ」

「チャンスって…」


赤らめた顔でオロオロする彼女が、あまりにも可愛くて愛おしくて。幼馴染でライバルという関係性に甘んじていた俺を許してほしいと願いながら、彼女の返事を待つ。


「わ、私は…っ」


真っ赤っかな彼女を見上げていると、今の俺にとっては邪魔でしかない女が声を上げる。


「お待ちください!!」

「……」


声のする方を睨みつける。第二王子に絡みついていた女だ。いつの間にか、第二王子そっちのけで俺達の方へ来ようとしていた。


「…何か?」

「リディア様は、今!殿下から婚約破棄を宣言されたんですよ!?」

「聴いていたが」

「なのに、その直後に求婚するなんて…!」

「リディアはもう第二王子の婚約者ではない。なら、求婚するのは自由だ」


正論でそう突き返せば、女はワナワナと震え出す。


「ッリ、リディア様と婚約なんてしたら、きっとカルロス様だって嫌な思いをします!」

「……………は?」


聞き捨てならぬ言葉を吐くので、つい底冷えするような声が出た。

……俺が、リディアと婚約する事でどうなるって?


「モモ、どうしたんだ突然」

「殿下、彼をおとめください!リディア様に求婚したんです!」

「…?モモが気にするほどの事か?」


すると、女は爆弾発言をかました。


「あんな子が、あんなカッコいい人に求婚されるはずがないんです!!」

「……なに?」

「殿下だって、モモの方が可愛いと仰ってくださったじゃないですか!」

「待て、どういう事だ?」


支離滅裂な事を言い出し、とうとう第二王子も理解が追いつかなくなった。


「モモは、今まで出会ってきた男性みんなに“可愛い”と言われてきたんです!カッコいい男性は、みんながモモを好きになってくれたんです!…だからッ!」


周囲の視線をもろともせず、女は問題発言を口にした。


「カルロス様は、モモと婚約した方が幸せになれるんです!」









それは、まさに第二王子の婚約を裏切る発言。

別に第二王子の肩を持つわけではない。断じてない。

しかし、俺からしたら棚からぼたもち…じゃない、降って湧いた幸運をまた横から奪われるくらいに等しいもので。


まあつまり、こいつは可愛い(死語)と自負している己が、他の令嬢に美貌で負けるはずがないと思っているのだ。


醜い嫉妬。それに尽きる。


「…カルロス」

「…リディアは下がって」

「でも…」

「大丈夫。……俺が何年、お前に片想いしていたと思ってる」


半狂乱な女を目の前に、俺の心配をするリディアを背に庇い、なるべく彼女に害が及ばないようにする。漢を見せる時だ、気張れ。


「…失礼だが、リディアに求婚を申し込んだのは俺の意志だ。彼女は、どの令嬢よりも気高く美しい。…貴女の出る幕ではない」

「!!リディア様よりモモの方が…!」

「…忘れておられるようだが、貴女の方が、立場が危ういのでは?…つい先ほど、第二王子から婚約の宣言があったはずなのだが」


俺のその言葉で、女はようやく我にかえった。

––––第二王子から直々に婚約宣言をされたその直後に、他の男に目移りをしている事に。


そして慌てて第二王子へ視線を移すが、その本人は…。


「…モモ、今のは、どういう意味なんだ…?」


“愛している”と公言した第二王子は、早くも失恋のショックで表情が固まっていた。

同情するつもりはない。婚約破棄したのは、本人の意志である。


「っち、違うんです、殿下!モモは、ただ…!」

「先ほど、私の求婚を君は受け入れてくれた。…私は、そう思っていたのだが…。君は、違っていたのか…?」

「…っ!」

「………私を、もてあそんでいたのか」


もはや、会話にすらならなくなり。

第二王子はふらつく足元を従者に支えられ、会場を出た。最後に何かを呟いていたが、あの女が衛兵によって退場させられているところを見ると…恐らく、別室に連れて行かれたのか、もしくは。


あんなに賑わっていた会場が一転、断罪の場面のように静まり返った。第二王子の婚約発表のはずが、とんでもない事態である。

しかし。


「…そういえば、求婚の返事、聞かせてくれないのか?」

「いっ今っ!?」


俺にしてみれば、この状況こそ渡りに船だろう。物理的にも、もう邪魔者はいない。

経緯は最悪だったが、この際終わり良ければ、というやつだ。


「聞きたい。頼む」

「〜〜〜〜っ」


今までになく、真剣な表情でそう見つめればリディアはまた真っ赤になって目を逸らす。幼い頃から、照れた時や恥ずかしい時の素振りは変わらないなと、また愛しさが込み上げた。


「〜〜〜〜し、幸せにしてくれないと、怒る、わよ……っ」


語尾にいくほど小さくなった声だが、俺の地獄耳はしっかと聴き取った。

嬉しくて、幸せすぎて、自分の顔が綻ぶのが分かる。


「………生涯をかけて、幸せにしてやるから覚悟しろよ?」





これではどちらが勝ったのか永遠に分からないなと、拍手に包まれながらリディアを抱き締めた。









後に知った事だが、アレ以降第二王子は女性不信で引きこもるようになり、例の女は男好きという悪評がつき婚約どころか男が近寄らなくなったそうだ。

ざまぁみろである。








俺とリディアだが。


あの後正式に婚約し、まもなく結婚。貴族としては盛大な披露宴を行った。

どうやらパーティ会場での一部始終を見ていた貴族達が、是非とも祝わせてほしいと進んで参列してくれて、全員を招待したらまあまあな規模になってしまったのだ。


そして俺の妻となりラングウェル家に嫁いできたリディアは––––


「あっ、今お腹を蹴ったわ」

「…どれどれ。……おお、元気に育ってるな」

「ふふ。産まれたら、私と貴方、どちらを先に呼ぶのかしらね」

「…悔しいけど、そこはリディアだろうな」

「あら、今のうちから敗北宣言?」

「こればっかりは父親より母親なんだよ」


くすくすと笑うリディアのお腹の中には、あと数ヶ月もすれば産まれる新しい命が宿っている。


「……ねえカルロス。私はこの先もずっと、貴方と勝負を続けたいわ」

「…もう勝てる気がしないよ」


愛おしそうにお腹を撫でるリディアに、愛情を込めて口付ける。







知っているか。

恋愛ってのは、先に惚れた方が負けらしいぞ。

人物紹介


カルロス・ラングウェル

幼馴染兼ライバル令嬢に片想いしてる。婚約破棄の現場に居合わせたので求婚した。



リディア・ヒューリストン

婚約者から婚約破棄を言い渡されたら直後にライバルから求婚された。


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