病み上がり
3年間お世話になった先生が殺人で被害者と加害者になり、密かに憧れていた同級生には利用され…
1ヶ月以上、入院と療養でぶっ倒れていた。
女子高生探偵なんて囃し立てられ、とんでもない目にあった。
でも、ベッドで寝てると横で寝息を立てて眠り姫みたいな楊世が寝てる。
寝顔見てるだけで幸せがジワジワ押し寄せる。
お粥を作ってくれてリンゴも剥いて食べさせて貰った。
こんな生活を1ヶ月もさせて貰った。
もしかして…私は果報者か?
「ごめん!いつの間にか布団占領してたね!」楊世が飛び起きた。
1ヶ月悪夢と不眠症でヒーヒーと苦しんだが、その間も楊世が手を握ったり抱き締めたりしてくれていた。
出席日数が足りる11月からは学校を休んで付き合ってくれた。
先生と進学で揉めるのも、周りで女子が親衛隊とか出来て仕切られるのが不快になったそうだ。
「もしシンドかったら、夏希も後1ヶ月で出席日数足りるから、後は寝てな。ずっと看病したげるよ。」
楊世は何だかこの方が良いみたいだ。
前は心配して眉間にシワが寄ることも多かったが、今はいつもニコニコしてる。
ヒロはマリアちゃんとデートしてるし、サキはダンス事務所受かってレオンの妹と一緒にデビューに向けて汗流してる。
思えば…個人的には結果オーライなのでは?
「王麗明のインスタに苦情送ったら、夏希を思う存分独占できるぞ!って言われたよ。
確かに夏希が辛そうなのは見ててシンドかったけど、
僕は安心して暮らせたよ。」頭をなでなでして微笑んでいる。
「ずっと心配ばっかり掛けてゴメンね。
これからは良い子にするからね。」ジワッときて思わず楊世に抱きついた。
「まあ元気になったら、無理だと思うけど…たまには僕の注意に耳を貸してね。」楊世の身体は暖かくてホッとする。
久々に登校したクラスは、なんだかどんよりしてる。
担任が亡くなった直後でも文化祭準備でガヤガヤとにぎやかだったのに。
推薦の子達は面接練習したり、一般試験の子は休み時間も問題解いたりしてるのだが…
入って来た日高さんを見て驚いた。
いつの間にか化粧が濃くなり、ポニテールも茶色の巻き髪になってる!
まるでお水みたいな…
「久しぶり〜元気なった?」なんか話し方も気怠く指もジェルネイルを無理に剥がしたような…
机に置いた学生カバンのサブバックはバーキンだし、スカーフが柄に巻かれている。
「それ本物なの?」思わず聞いてしまう。
「うん、彼氏がプレゼントでくれたの♪良いでしょう〜?」
ツケマとマスカラでまつ毛がえらくカスカスになってる。
化粧しすぎで抜け落ちてる。
「聞いてくれる?
成績が上がって東大も合格ラインに見えてきたから父が現役東大生を家庭教師に雇ったのよ!
そしたら、まさかの富豪で教え方もすごく上手くて!
で成績上がって親が感謝して食事会したら…
将来結婚を見据えたお付き合いを娘さんとさせて下さいって!キャ〜ッ♪」日高さんがキャラ変してる!
こんな話し聞いても、「ふ〜ん、そう」って落ち着いて受け流す人だったのに…
それに富豪の東大生ってのが、なんか不吉な気がする。
なんかクラスの雰囲気から浮いてるのが、分かる。
「まあ、こんな話し面白くないよね。
夏希、
エラくやつれたね〜可哀想に」
その瞬間、またビックリする。
さんとか君とかちゃんと付ける人だったのに、タメ口!
それに人に「可哀想に」なんて言うキャラじゃなかったから。
思いやりがあって、相手に寄り添おうとする配慮がある子だったのに!
「内緒とか一人でとか」言う人間を夏希は無視しバカにしているが、
人に無神経に「かわいそうに」を言う人もまたバカにしてる。
夏希は無言で憐れみの顔で日高明奈を見てしまう。
日高さんは気付かず自分の席に座った。