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第13話 封印の番人

【 目覚めの気配 】


封印の間は静かだった。

しかし、その静寂には“異質”が混じっていた。


「空気が違う……」アレンがぽつりと呟いた。

調査のために訪れた古代の神殿の最奥。その扉の向こうに広がっていたのは、誰も踏み入れたことのない“封印領域”。


ルシア、リオン、ラウルと共に、アレンは静かに歩を進めた。天井のない円形の空間には、中央に巨大な魔法陣が刻まれている。古代語で書かれたその紋様は、見る者の意識を吸い込むような深さを持っていた。


「この模様……どこかで……」

アレンが近づこうとしたその時、空気がビリッと音を立てて裂けた。


ズンッ。

低く、重い響きと共に、魔法陣の中央に“何か”が現れた。

それは、鎧のような肉体に、仮面をつけた巨人――「番人」だった。


「侵入者、確認。記録にない魔導反応……処理対象。」

無機質な声が空間に響き渡ると、巨人の両腕に青白い刃が生じた。


「来るよ――!」リオンが叫んだ瞬間、空気を裂いて斬撃が放たれる。


「【インヴォケイション・シールド】!」

アレンが反射的に防御魔法を発動するも、番人の一撃は強烈だった。魔力の盾は音を立てて砕け、アレンは床に吹き飛ばされた。


「くっ……強い……!」

起き上がりながら、アレンは右手が震えているのに気づいた。


その瞬間だった。


――《目覚めよ。お前の中の“それ”を》


脳内に響いたのは、かつて封印の間で聞いた、あの“声”。

アレンの視界が、ふっと白く染まった。



【 囁くもの 】


白く染まった世界の中で、アレンは一人だった。

耳元で、あの“声”が囁く。


――《月の輪は、ただの鍵ではない。お前は扉そのものとなるだろう》

――《知りたいか? 真の名を。かつてこの地に何が封じられたのかを》


「……誰なんだ、お前は……!」


アレンが声を上げると、白い霧の中に何かの影が浮かび上がる。

それは、どこか懐かしい――いや、今のアレン自身に酷似した“誰か”の姿。


《我は、お前の可能性。お前がこのまま、誰も信じず、力に溺れた未来の果て》

《選べ。力を封じて、滅びを待つか。力を解き放ち、自らを喰らいながら生きるか――》


「……そんな選択、したくない……!」


怒鳴った瞬間、視界が黒く染まり、意識が現実に引き戻された。



【 裂け目の向こうに 】


アレンが目を開けると、仲間たちが番人に押されていた。


「アレン! 大丈夫!?」ルシアの声が飛ぶ。

番人の攻撃をリオンとラウルが必死に受け止めているが、力の差は明らかだった。


「このままじゃ全滅する……!」


アレンは震える右手を見た。先ほどまでうまく使えなかった魔力が、今は暴れるように渦を巻いている。


「くるな、アレン! 今のお前が魔法を放てば――!」リオンが叫ぶ。


(わかってる。けど……このままじゃ、誰かが……)


アレンは心を決め、両手を掲げた。


「――開け、〈月環式封陣・第零層〉!」


その瞬間、魔法陣が蒼く輝き、空間が軋んだ。番人の動きが一瞬止まる。


「認識不能……封印解除……記録外の術式――」

番人の仮面が割れ、その奥から無数の目が覗いた。


「……何だ、こいつ……!」


だが、アレンの魔力は止まらなかった。魔力が空間ごと裂き、奥の壁に“もう一つの扉”が現れる。


それは、本来の封印ではなかった。

“封印された封印”。

決して開けてはならぬ、もう一段階奥の「何か」。


「……これが、封印の……本体……?」


その時、仲間の背後で、誰かが静かに囁いた。


「やはり、ここまで来てしまったか……アレン」


アレンが振り向くと、そこに立っていたのは――



【 揺らぐ意思 】


「――ロシュ?」


それは、かつて学院を去ったはずの上級生、ロシュだった。失踪したと噂されていたが、今ここに、封印の奥から姿を現したのだ。


「まさか君が……この封印の番を……?」


ロシュは微笑んだ。「番? いや、僕は“目撃者”さ。君たちが、この“世界のほころび”に触れてしまう瞬間を、待っていただけさ」


アレンは息を呑む。ロシュの背後に広がる扉から、うっすらと黒い“何か”が滲み出ていた。


「次の選択は、君に委ねられる。封印を破って進むか――それとも、全てを忘れて日常に戻るか」

「そんな選択……!」


「いずれ決める時が来るよ。アレン。“君の中のもう一人”も、きっと目を覚ます」


その言葉とともに、ロシュは再び闇の中へと溶けていった。

魔力の波が収まり、番人はその場に崩れ落ち、ただの器へと戻った。


「……大丈夫か?」ルシアが肩を貸してくれる。アレンは無言で頷いた。


静寂が戻った神殿に、再び“真の封印”がぽつりと佇んでいた。


アレンはその前に立ち、思った。


(僕はきっと、この先を――開けることになる)

あとがき


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第13話では、ついに「封印の番人」との接触、そしてアレンの中に眠る力の兆しが明らかになりました。


“封印の向こうに何があるのか?”

“ロシュは敵か味方か?”

そして、“アレンの選択”が何を呼ぶのか――物語はいよいよ深い闇に足を踏み入れ始めます。


今回は、バトル・覚醒・幻視・再会と、盛りだくさんな一話となりましたが、読んでくださったあなたの中に、何か少しでも残るものがあれば嬉しいです。


次回もどうぞ、よろしくお願いします。

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