第1話 はじまりは目立ちたくなかっただけなのに
【虹色の魔法と目立ちたくない僕】
「ん……今日も静かだなあ」
朝の教室はざわついていたけれど、僕の周りだけは空気が澄んでいるように静かだった。
誰も話しかけてこないし、僕も誰とも話さない。いつも通りの、完璧な“空気”生活。
「おーいアレン! 今日の模擬戦、前衛やるだろ?」
クラスの中心人物、筋肉系美男子・ロイドの声が響く。
彼に呼ばれたのはもちろん僕じゃない。
僕の名前はアレン・グレイ。
2年C組、魔法適性ギリギリの地味な生徒だ。
ただ――僕には今、少し困ったことがある。
なぜかというと。
昨日拾った古代魔導書の魔法が、大爆発したからだ。
「あれ……教室の床、少し焦げてるよね?」
昨日の放課後、魔法具室の掃除当番だった僕は、床下に落ちていた古びた本を見つけた。
タイトルは《虹の書》。ファンタジー小説のような装丁だったけれど、ページを開くと意外と使えそうな呪文が載っていた。
『虹の指先は、七つの光を解き放つ』
ためしに唱えてみたら、教室中に虹色の光が炸裂。
床が焦げたのもそのせいだと思う。
「やば……先生に見つかったら停学かも」
慌てて書をカバンに押し込み、何事もなかったように今日の授業に向かう。
【模擬戦、始まる。そしてバレる(かも)】
魔導実技の模擬戦は、基本的に「魔力の応酬」だ。
実際に怪我をするほどの魔法は禁止されていて、結界と制御装置のおかげで安全にはなっている。たぶん。
ただ、問題なのは――
「アレン・グレイくん、準備はいいですか?」
目の前に立つエリナ・セレスティアが、微笑みながらも完全に“やる気モード”なことだ。
(やばい……めっちゃ強そう……というか本当に僕で大丈夫!?)
「え、えっと……無理しない程度にお願いします」
「はい。私、模擬戦は“本気”で臨む主義なので」
(だめだ、この人、優しい顔してガチのやつだ)
「試合開始!」
――シュバッ!
エリナが放ったのは、鋭く細い氷の槍。
瞬間、僕は反射的に手を伸ばしていた。
「七色の指先――結ばれし光よ」
出た。やばい。魔法陣が光る。虹色に。
(ちょ、また発動しちゃった!?)
「《虹閃》!!」
ズドォォォォンッ!!
――気がついたら、教室の半分がまばゆい虹の光に包まれていた。
エリナは魔法障壁を張って無傷。
だけど、観戦していた他の生徒たちは呆然。そして先生が言った。
「……アレン・グレイくん。今のは、何の魔法かね?」
「……し、知りません。たぶん、風魔法の派生……とか……?」
教室は静まり返る。
(あっ……これ、目立ったな……)
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
主人公アレンくん、あまり目立ちたくないのに、うっかり虹色の魔法を使ってしまいました。
これからも、のんびりマイペースで進んでいく予定です。
魔法学園の空気を、ふんわり楽しんでいただけたらうれしいです。
また続きでお会いしましょう〜!