08-歯車の街
放課後。
空はまだ明るかった。
特に理由はないけど、
拓海は、少しだけ遠回りして帰ることにした。
駅前の通り。
賑やかな商店街。
行き交う人たちの声。
──本来なら、当たり前に感じるはずの光景。
だけど、今日の拓海には、
世界全体がどこかぎこちなく見えた。
⸻
すれ違うサラリーマンたち。
スマホをいじりながら歩く女子高生。
アイスを食べながらしゃべる子供たち。
誰もが、
どこか同じリズムで動いているような──
まるで、
見えない歯車に動かされているような。
(……気のせい、だよな?)
立ち止まって、コンビニに入る。
入口のドアが開く音。
軽く俯いて店内に入る客。
右手の棚を一度見る動き。
──さっきも、見た気がする。
いや、それだけじゃない。
三回目、四回目。
どの客も、微妙に同じ行動パターンを繰り返していた。
⸻
会計を済ませ、外に出る。
駅前のベンチに座って缶コーヒーを開けた。
目の前を通り過ぎる人々。
(──どこか、おかしい。)
確信ではない。
でも、
胸の中でざらつく違和感が、
さっきよりもずっと大きくなっていた。
⸻
翌日。
教室。
席に着いた拓海は、ふと周りを見渡した。
──女子二人が、笑い合いながら机を叩いている。
昨日と、
一昨日と、
ほとんど同じ光景。
昨日落とした教科書を、今日も同じやり方で拾う男子。
(まさか……)
拓海は、背筋が少しだけ冷たくなるのを感じた。
それでも、
まだ心のどこかで、“気のせいだ”と打ち消そうとする。
(いや、考えすぎだ。)
パン、と机にノートを置き、
何でもない顔で窓の外を見た。
──青空は、今日もきれいだった。
だけど。
その向こうにある世界は、
少しずつ、壊れ始めているのかもしれない。