05-誰かと並んで
昼休み。
「なぁ、たまにはメシ行こうぜ。」
井上が、何気ない口調で声をかけてきた。
特に理由もない、気まぐれみたいな誘いだったけれど、
拓海は自然と立ち上がっていた。
学校近くのコンビニでパンを買い、
二人並んで、公園のベンチに腰掛ける。
春の陽気が、少しだけ眠気を誘った。
「バイト、やってんの?」
パンにかじりつきながら、拓海が聞く。
「いや、そろそろ探さねーとな。
金、マジでやべぇ。」
井上は、ジュースの缶を軽く振って、ポンと開けた。
「お前は?」
「……探してる。ってか、どこも倍率高すぎ。」
「まーな。バイト先すら、椅子取りゲームかよって感じだよな。」
笑いながら、井上は空を仰いだ。
一見、何でもない会話。
でも、拓海の胸の奥では、
微かに”普通”じゃない違和感が膨らみ始めていた。
⸻
昼休みの終わりが近づく。
ベンチから立ち上がった拓海は、
何気なく校舎の方へ視線を向けた。
教室の窓際で、二人の女子が笑い合っているのが見える。
その一人が、何かを落とし、もう一人が拾う──
遠目に見ただけの、ぼやけた光景。
けれど、拓海の脳裏に、はっきりと昨日の映像が重なった。
(……昨日も、同じ光景を見た気がする。)
ざらり、と胸の奥が冷えた。
ほんの小さな、けれど確かな違和感。
「……デジャヴ、か?」
拓海が呟くと、井上は肩をすくめた。
「あるある。気にすんな。」
それ以上、井上は何も言わなかった。
まるで、それが当然の現象だとでもいうように。
⸻
放課後。
校門を出たところで、拓海と井上は自然に並んで歩き出す。
特に誘ったわけでも、誘われたわけでもない。
ただ、何となく。
自然に。
歩幅も、呼吸も、妙に合っている気がした。
(誰かと、並んで歩く。)
(こんな牢獄でも──)
拓海は、歩きながら小さく息を吐いた。
(……悪くない、か。)
そんな小さな油断が、
胸の奥で、静かに波紋を広げていった。