04-それでも、話せる奴
昼休み。
昨日、進路希望票の回収は終わった。
けれど、教室には、どこか重たい空気が漂っていた。
かといって、みんなが真剣に悩んでいるかと言えば、そうでもない。
「お前、第一希望どこにした?」
「えー、知らねぇ、なんか適当。」
そんな適当な会話が、あちこちから漏れていた。
拓海は、昼飯も食わずに机に突っ伏していた。
──こんな牢獄に、未来なんかあるのか。
そんな投げやりな思いを飲み込みかけたその時、
机の横に、紙パックのコーヒー牛乳がストンと置かれた。
顔を上げると、井上が立っていた。
「……なんか、甘いもんでも飲んどけよ。」
そう言って、悪びれた様子もなく自分の席へ戻っていく。
別に、特別仲がいいわけじゃない。
特別な会話をしたこともない。
けれど。
(……こいつといると、変に疲れないな。)
拓海は紙パックを指で回しながら、
ぽつりと、何の気なしに聞いた。
「お前、進路どうすんの?」
井上は肩をすくめて、机に頬杖をついたまま答えた。
「さぁな。どこ行っても……まあ、結局スタートは一緒だろ。」
その言い方は、
まるでこの世界の仕組みを知っているかのように、
あっさりしていた。
拓海は、その言葉の妙な重さに、少しだけ眉をひそめた。
「……ふーん。」
それ以上、井上は何も言わなかった。
普通なら「どこ行くつもり?」とか「就職するの?」とか、
どうでもいい話が続くはずだった。
けれど井上は、
まるで”これ以上この話題を続ける意味はない”とでも言うように、
あっさりと話を切った。
その沈黙が、なぜか心地よかった。
⸻
放課後。
駅へ向かう帰り道、拓海はふと井上と並んで歩いている自分に気付く。
特に誘ったわけでも、誘われたわけでもない。
ただ、何となく。
自然に。
歩幅も、呼吸も、妙に合っている気がした。
拓海は、夕焼けに照らされる空を見上げながら思った。
(こんな牢獄にも、居場所くらいは、あるのかもな。)