02-正しいレール
朝の空気は、妙にぬるかった。
白石拓海は、制服の袖を片手で通しながら、片方の肩に鞄を引っかける。
寝ぼけた頭を無理やり起こすように、玄関を出た。
駅までの道は、いつも通り。
顔見知りでもない同級生たちが、無言で同じ方向へ歩いていく。
誰も彼も、同じ制服、同じ鞄、同じ足取り。
──まるで、“正しさ”の制服でも着せられているみたいだ。
拓海は、小さく息をつき、歩幅を合わせた。
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教室に入ると、ざわざわとした空気。
ホームルームの開始と同時に、担任が進路希望調査票を配り始めた。
「第一希望校、志望理由、将来の夢──だってさ。」
クラスメートたちが、プリントをめくりながら半笑いで悪態をつく。
進路希望調査票、というやつだ。
「就職かー。いやマジ無理だわ、オレ。」
「親が大学行けってうるせぇし、仕方ねーよなー。」
クラスメートたちの声が、無責任な熱気を帯びて飛び交う。
拓海は自分の机に座り、配られたプリントをぼんやりと眺めた。
“第一希望校”
“志望理由”
“将来の夢”
──将来の夢、ねぇ。
カリカリとボールペンを走らせる隣の席の男子に目を向ける。
彼は、まるでプログラムされたかのようにプリントを埋めていた。
「……はや。」
拓海は、小さくつぶやき、ペンをくるくると指に回した。
隣の男子は、一切こちらを気にすることなく、次の欄へと進んでいく。
(なんか……機械みたいだな。)
そんな違和感を覚えながらも、
拓海は結局、プリントを半分白紙のままカバンに突っ込んだ。
⸻
帰り道。
薄暗くなりかけた空を見上げながら、拓海はポケットをまさぐった。
──クシャ、と指に触れる感触。
取り出すと、折りたたまれた紙が一枚。
広げると、そこには、南国の市場らしき背景をバックに、
現地のおばちゃんたちと一緒に笑う姉・カナの姿があった。
「I'm Kana !」
カナはいつだって、世界中のどこでも、そんなふうに笑っている。
写真の裏には、走り書きのメッセージ。
【自分で決めた道なら、どこを歩いても正解だよー!】
拓海は、写真をそっとポケットに戻した。
どこを歩いても正解──か。
駅へ続く道。
同じ制服を着た、同じ顔の群れの中で、
拓海はほんの少しだけ、足取りを遅らせた。