18-追跡
交差した日の夜、
拓海は一睡もできなかった。
目を閉じれば、ノイズが焼き付いたように視界にちらつく。
脳裏には、黒パーカーの“視線”と、“世界が揺らいだ感触”が残り続けていた。
あれは、偶然なんかじゃなかった。
この世界には、何かがある。
──いや、“何者かがいる”。
そして、あいつはそれを“知っていた”。
──
翌日の放課後。
拓海は井上を誘って、昨日の駅前に向かった。
「また、探すの?」
「……確認したいことがある」
昨日と同じ道、同じ信号、同じ人波。
でも、昨日とまったく同じではない──それがわかる。
たとえば、駅前の大型モニター。
昨日は保険のCMだったはずが、今日は新車の広告に変わっていた。
……いや、本当に変わったのか? それとも最初からそうだったのか?
そんな疑念が、頭の片隅に居座る。
「なぁ、井上」
「ん?」
「……昨日、ここで何があったか、覚えてるか?」
井上は数秒の沈黙のあと、ぼんやりと答えた。
「駅前で……誰かを見た、って言ってたよね」
──やっぱり、認識のズレがある。
拓海が感じたあの“時間の歪み”も、“視線の衝突”も、
井上にはただの“見間違い”でしかなかったのだろう。
──
雑踏の中で、拓海の足が止まる。
(……いた場所だ)
人の流れの切れ目。
昨日、黒パーカーが立っていた、まさにそのスポット。
目を凝らすと、地面に転がるペットボトル。
ラベルは半分剥がれ、色も薄れていたが──間違いない。
拓海が拾い上げた瞬間、
ザザッ……と、視界が一瞬だけ乱れた。
ノイズ。昨日と同じ、あの歪み。
わずかだが、確かに“残滓”がある。
「なぁ、これ──」
拓海が井上にペットボトルを見せる。
だが、井上は軽く首を傾げただけだった。
「ただのゴミじゃん。捨てときなよ」
見えている。だが“それが何か”は、認識できていない。
情報としての“意味”が、処理されていない。
(この世界の構造は、プレイヤーによって“階層”が違う)
(俺は、見てしまった──そして、触れてしまった)
拓海はゆっくりとポケットにペットボトルをしまい、井上に向き直った。
「……ありがとな、付き合ってくれて」
「え? う、うん……」
拓海は笑ってみせたが、その奥で何かが確かに決まった。
(ここから先は、きっと“自分の足”で行かなきゃならない)
(井上には、悪いけど──もう、同じ景色は見えてない)
空を見上げると、雲がゆっくりと流れていた。
だがそれは──昨日よりも、“薄く”“浅く”感じられた。




