バイト先は「また」お城
さてレッドアークまで後少し。ディアナが何故帰りたがらないのか不思議だが、……まあ無視をしよう
解析使用は卑怯なのでやりません。やらなくても予想出来るし
「トラ」
『んー?』
「ディアナと先に行ってくれないか? 俺は後から行くから街で遊んでいてくれ。はいお小遣い」
『あいー♪』
返事をするとそのままディアナを背に乗せ、楽しげに尻尾を振っていく
……金はもう一銭もないが、俺の目的の第一段階はクリア
= = = =
ディアナ達門を潜ったのを確認した後、能力で髪と瞳を紫に変える。今までの経験上、黒髪だと厄介事に巻き込まれる確率が異常に高い。今回ばかりはそれではダメだ。冗談抜きで余裕がないのだから
「バイト探さないとな」
大飯食らいがいるせいで食費がキツいのだ
金を渡したから今頃は遊んでいるだろうディアナ達に邪魔される心配もない
そう、渡した小遣いはバイトの邪魔をされないように取っておいた金だ。コレで金稼ぎに専念出来る
さて、という訳でギルドに来たんだが……鬱だ
おじいさん、俺は男です。お姉さん何故化粧を持ってくるんですか。鼻息荒い方は半径30万㎞以内に入らないでくださいお願いします
「ほうほう、君は男の娘なのか」
「当たり前だ! どっからどう見ても立派な男だろうが!」
「ホッホッ。まあ、それはそうと、金貨5枚以上稼げる仕事は家にはないねぇ。全部の依頼をクリアすればそれくらいにはなるかもしれないけど、10や20じゃないしねぇ」
「そりゃ確かに無理だな。……というか、安いのしかないな」
「まあこの国はもう終わりかけてるからねぇ」
それは道中でも噂を聞いたので知っている
あの戦争以来、仲が最悪になったシルディア
もともと国そのものが弱っていたのに部下の暴走で更に悪化。シルディアからの援助はもちろんなくなった。更に悪い事は続き、皇帝陛下が急死し、新たに即位した……なんたらかんたら皇子はまだ幼く、周りにいる宰相とかが好き勝手やってるらしい
要するにボロボロな訳よ。権力はもはや皇子に無いし
「ともかく、ある程度稼げる仕事でいいからさ。何かないか?」
「むぅ、急募の中に銀貨17枚稼げる仕事もあるんじゃが、いかんせん。アレは人を選ぶからねぇ」
「へえ? どんな仕事なの?」
「……怒らんか?」
つまり、怒るような内容という事か。だが現在俺は金欠という最悪の立場にいる。あっちの世界なら人脈やら脅しやらして生活出来るが、こっちでは無理だ。故に多少の事なら怒らない自信はある
「どんな仕事?」
「皇子のメ、……付き人じゃよ」
「なんだそれくらいか。何日だ?」
「一週間だったかの」
「よし、やる」
こちとらどこぞの犬姫やら変態暴走王子を相手にしてたんだ。アイツ等の世話するのに比べたら楽な仕事だ
= = = =
「よ、よよッ、余が! だ第13代目皇帝の」
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「はぅ! な、なんで、じゃない。な、なんだ!」
「何故に玉座の後ろに隠れていらっしゃるんでしょうか?」
仕事に来て5分未だに玉座の後ろから、犬耳だけを除かせた皇帝陛下
……ああ、なんだろうか。非常に嫌な予感がする
「……だ、だって、アリアみたいに……裏切るんでしょ?」
「裏切る裏切らない以前に、まだ顔を合わせてすらいません」
「でも……」
「ご安心を。私は契約は守ります。契約期間は裏切る事はありません」
暗に契約期間過ぎたら裏切りますと言っているが気付けるだろうか?
まあ、気付かれていないならいないで楽なんだが
「な、なら、一週間は大丈夫なの?」
「はい。それはそうと、口調が最初と違うんですが?」
「えッ?!」
玉座の後ろから聞こえる可愛らしい声。やはり兄弟(?)だからだろうか、ディアナの声によく似ている
「そ、その、ま、まだ慣れてなくて」
「でしたら私との会話は話しやすい口調で話してください。貴方はまだ若い。無理をする必要はありません」
子供に無理なんてして欲しくない。小さい子は自分に素直に生きてさえいれば問題ないのだ。例外として、ディアナのような底無し胃袋等の謎能力を持った者は我慢してもらう。食費って割と高いんだよね
「う、うん。ありがとうお姉ちゃん」
「……あの、私は男ですよ」
「え? でもグレゴリーさんはメイドさんが来ますって」
「──────」
つまり、俺は付き人ではなく「メイド」か。そうかそうか
嫌な予感の正体はもしかしなくてもコレだろう。というか、コレ以外認めない
「ふっ……」
あのジジイ ただですむとは 思うなよ す巻き確定 海まで流す
「ど、どうしたのお姉ちゃん?」
「い、いえ、気にしないでください。あと、しつこいようですが私は男です」
「う、うん、分かった」
ようやく、玉座の後ろから姿を表した少年陛下
まだガ、……幼いからだろたうが、中性的な容姿をしている。高確率で女に間違えられる俺が言うのもなんだが、本当に男なのだろうか?
「あのねお姉ちゃん」
「…………なんでしょうか」
訂正するのは諦めた方がいいかもしれない。何故だろうか、無駄な労力になる気がする。いや、確信か?
「その、これから一週間よろしくお願いします」
ただのバイトに向かって頭を下げる皇帝
正直、子犬───イメージはキャバリア───が頭を撫でてと甘えてるようにしか見えない。そして、可愛い物───ただし動物に限る───に目がない俺が
「ふわぁッ!」
そんな可愛すぎる誘惑に勝てる訳がない。もう無言で撫で続ける。何せ、久々に現れた癒しなのだ。逃す訳にはいかない
「ぁ、うぅ、お姉ちゃん、いつまで、撫でるの?」
「も、もう少しだけお願いします」
「あうぅ〜」
その後、二時間程撫で続けてしまった。特に何も言われなかったのでこれからもやろうと思った
この仕事は……いいものだ……!
刹那の口調が違いのは仕事中だからです。ご了承ください