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俺の異世界物語  作者: 夜つ七
刹那とディアナの世界旅行
52/65

決着と別れ



切り(ワイルドカード)

それは一つで戦況を覆す程の力を持つ物である

そして、刹那の手に握られている漆黒のナイフは、切り札と呼ぶに相応しい力を持っていた



「なぁ、お前は「もし、どんな願いでも叶える事が出来る」としたらどうする? 今の俺の願いは一つだけだ」



そう言い、ナイフを領主に向かって投げる……が、カスリもせずに後方に消えた



「おい、ふざけてるのか? 投げるならせめて当てるくらいしろ」

「当てたよ。だから、この勝負は俺の勝ちだ」



直後、真上から轟音が聞こえる。上を見ると、仲間だった肉片が落ちてくる所だった



「なッ?!」

『■■■■■■!!』



何かが響き渡る。それは、どこか聞き覚えのあり、本能的な恐怖に意識を失いそうになる『咆哮』だ




「ま、まさか……!」



そんなのふざけている。あり得ていい筈がない。いくらなんでもルールから外れすぎだ



だが、後ろから近付いてくる唸り声は……




「何で死体が動いてるんだよ?!」



先程死んだ筈のタイガードラゴンの物だった




=  =  =  =



その後、タイガードラゴンによる一方的な惨劇が始まった

もともと傭兵達は力の弱い子供を捕えたという嘘を盾にタイガードラゴンを捕獲したのだ

もし、タイガードラゴンに子供を守る必要が無いと分かれば、……待っているのは『死』だ



「『敵対者にイチイの毒の裁きを。苦痛による死だけが免罪符であるとしれ【毒の(ポイズンドロップ)】」


例え魔法を使おうと



「えッ?! ひ、ギヒィ!」



その毛皮に弾かれ、爪による一撃で絶命する


そもそも、タイガードラゴンの毛皮の価値が高いのは魔力に対する抵抗力が高いからだ。それを理解していない者が生き残れる筈もない


「クソッ、魔法ではなく接近して戦え! あの巨体なら懐に入れば勝機がある!」

「バカ野郎! よせ、行くな!」


そして、接近戦を挑むのは愚の骨頂だ

何故ならば……タイガードラゴンは魔物の中で最も機敏な動きをするからだ



駆けていった傭兵達は、半分も行かない内に叩き潰された



残るは一人の傭兵と、角で震えている領主のみ

品定めするかのように2人を見ると、ゆっくりと傭兵の方に近付いていく。領主は殺す価値もないと判断されたのだ

だが、噛み付く前に刹那に止められた



『……』

「ダメだ。あいつは半殺しにするからな」

『……』



刹那がそう言うとゆっくりと丸まり、傍観を決め込む。どうやら「好きにしろ」という意味らしい



「……領主さんよ、腹くくろうぜ」

「離せ!私を今すぐ屋敷に帰せ!」

「そりゃ無理だ。魔法使いは2人しか居なかったからな。俺は魔法使えないしな。あっちの兄さんにでも頼みなよ」

「つ、使えんヤツめ! き、如月様! わ、私はこの者共に騙されていただけでございます! 屋敷に戻り次第どんな事でもしますので、どうかいの、ちばァッ?!」



刹那に泣き付こうとしていた領主は刹那の蹴りにより膝を付く。領主からしてみれば何が起きたか分かりすらしなかっただろう。今までこの方法で助かって来たのに通じないのだ



「見苦しいわこの豚が。何が命だけはだ。お前は、今まで金の為にどれだけの魔物を殺しやがった? 自分の命が大事なら、他の命も大事にしろよ。魔物だって生きてんだよ? 勝手な理由で殺していいわけあるか!」



まだ何か言いたそうな領主に向かってナイフを向け



「じゃあなクソヤロウ」



容赦無く振り下ろした




=  =  =  =




「おい、今のナイフ何処から出した? 拾ってなんかないよな?」

「ああ、コレはこのナイフの能力だ」



強欲のナイフ

普段はただのナイフだが、刹那が願えばどんな事でも実現させる能力を持っている。だが……代償もある



「どんな願いでも叶える代わりに、俺が産まれてから過ごしたという現実を、知り合いの中から一時間分消す能力(ちから)を持ってるんだ」




刹那は忘れない。だけど共有した思い出が無くなっていく。それは、相手の中から自分を少しずつ消すようなものだ



「しかも、一時間分しか消さないせいか、一時間しか願いは叶わない」



そう、振り向きながら言うと後ろのタイガードラゴンが徐々に姿が薄れ始めた

それも叶えた代償か、生き返った者は土に還れず、まるで霧が晴れるかのように消えてしまうのだ


「ごめんな。結局助けれなかった」

『気にするな。儂はもう充分生きた。だが……息子が、心配でな』

「それは、俺が責任を持って護るよ。介入したんだ。最後まで責任を持つさ」

『……ふふ、若いのに苦労性だな』

「苦労性でも無責任より遥かにマシだ」



2人(正確には一人と一匹)で笑い合っているその時



『主、人の部屋にディアナさんとアホ虎入れないでください』



いきなり、ラストの声が聞こえてきた



「あれ、何故かラストの声が聞こえる?」

『どこぞのタイトルで年齢偽装してる魔王な魔法使い(いや魔女?)の物語に出てくる念話です。まあそれはともかく。今、私の部屋に来てるんですよ。そしたら大量のドングリ食べてるアホ虎とその近くで何故かいじけてるディアナがいたんですよ! 訳分かりませんから!  という訳で送り帰します。受け取ってください馬鹿主♪』

「え、ちょっ……!」



いきなり、真上に孔が開き、その中から驚いてるディアナとリスのように頬を膨らませたトラが……



「って流石に死、ぎゃあああぁぁぁ……」



もちろん、トラ(おそらく300kgを超えてるだろう)を受け止められる筈もなく、潰される事になった



=  =  =  =



なんとか脱け出した後、トラの父親が嬉しそうに笑いだした


『まさか……最後に息子に会えるとはな。本当に、感謝するぞ少年』

「いや、結果的に会えただけだ。本当は死んでる姿を見せるつもりはなかったんだ」

『ならば余計に感謝せねばな。息子の心をを気遣ってくれるとは、本当に感謝する。だが……息子なら大丈夫だ』

「それは……どういう意味だ?」

『こういう意味だ。トラよ。早いが、継承だ』

『うんー。悲しいけど分かったー』



継承?

その言葉に疑問を抱く前に、トラは父親と額を重ねた


『じゃあねー父さんー』

『優しさと誇りを胸に抱き続け、いつか大切な者を護りなさい。……さらばだ。愛しい子よ』



額を合わせたまま2人の咆哮が響き渡る

そして、変化は突然現れた。トラの赤い瞳が左目だけ深い緑に変わっていったのだ



『これで本当にお別れだ。……それでは、息子を頼む我が親族の兄君殿よ』

「ああ、任され……って親族? え、ちょっと待て! まさかお前……!」




最後まで聞き終わる前に、俺の目の前で霞のように消えてしまった。しょうがない。ディンに聞くか

でも……今は止めておこう


『悲しいー、でも泣かないぞー』

「泣いていいぞ。どうせ」


いまだに後ろでいじけてたディアナと諦めてくつろぎまくってる傭兵を地上まで転移させる



「見てるのは俺だけだからな」

『そっかー、じゃあ、少しだけ、我慢するの、やめる』




その後、暫くの間悲しそうな唸り声が地下室に響いた




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