村を助ける? まさか、俺は俺がしたい事をするだけだ(後編)
扉を開らく前から覚悟はしていた
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
部屋の中は不気味なぐらいに赤一色だ。むせかえる程濃い鉄の臭いが充満し、それよりも更に強い腐敗臭に胃液が逆流しそうになる
「……これだけ、殺されたって事か」
辺りを見れば頑丈そうな檻や用途不明な壺のような物がある
その近くにある黄ばんだ骨は魔物の物だろうか?
『臭くて鼻痛いー』
「流石に元気ないか。にしても、ディアナ閉じ込めといてよかった」
こんな光景をディアナが見たら発狂するかもしれなかった
『父さんの臭い、あっちー』
「分かった行くぞ」
トラちゃんと共に奥に進んだ。通路を進んで行くと、大きな爪痕がくっきりと残っている。その近くには何人かの死体が転がっていた。運ぶ途中に暴れられたのだろう
同情する気はない。自業自得だ。だけど……
「やっぱり甘いよな」
『どうしたー?』
「何でもないぞ。何でも、な」
彼等に冥福を祈るくらいは良いだろう
= = = =
ある程度まで進むと大きな扉が現れた
おそらく、この中にいるのだろう
「トラちゃ、……いちいちちゃん付けめんどいからトラでいいか?」
『別にいいぞー』
「トラ、ここで待ってろ。俺がお父さんを連れてくるから、な?」
『トラも行きたいー』
「ダメだ。ディアナと同じ所で待っててくれ。頼む! あっちに沢山食べ物あるからさ!」
『ご飯ー? 分かったー♪』
了承を得たのでトラをディアナと同じ場所に送る
まあドングリとかも大量に置いといたから勝手に食べてる事だろう
「さて、行きますか」
= = = =
扉を開けた瞬間、巨大な虎が吼えた。まるで泣いているかのように、まるで何かを祈るかのように
虎の周りには7人程の人影がある
その内の一人が口を開いた
「……血液の枯渇を確認しました」
「そうか。流石は森林の守護獣、なかなかにしぶとかったな」
血液の枯渇、それはつまり……遅かったのか
「なぁ、アンタ等」
「なっ?! 貴様どうやって此処に?!」
「き、如月様?! な、何故このような場所に?!」
「そんな事はどうでもいい事だ。疑問や驚愕は捨てろ。今から動かすのは口だけでいい。俺の質問に嘘偽りなく答えろ」
答えなんて解析でもう見えている。だからどんな答えを言っても俺は許さない。正直に言うなら楽に殺してやる
だが、嘘ならば……
「何故、こんな事をする?」
「そ、それは村の収入だけだと生活が苦し」
「金だよ」
「なっ?! き、貴様何を!」
「無駄だよ。セブルさんよぉ? このお兄さん、どんな答えでも殺す気だよ」
「鋭いな。全く持ってその通りだよ。何で分かったんだ?」
「へへ、傭兵やってると命の危機ってやつには敏感になっちまうのよ」
「そうか。じゃあもう一つ聞く。金貨一枚と、その魔獣の命……どっちが重たいんだ?」
「傭兵としては……金貨ですかね。個人的には何もされなかったのにこんな事はしたくなかったんですがね? 仕事だったんでね」
「分かった。お前だけ半殺しで許してやる。だがそれ以外の奴等はダメだ。お前等は偽りを語ろうとするだけじゃなく、命よりも金貨を選んだ。だから」
地獄の苦しみの中で殺し尽くしてやる
= = = =
【傭兵視点】
目の前の男が小さく何かを呟くと赤い、片刃の剣が現れる
「お前等に選択する権利を与えてやる。俺に殺されるか、それとも俺に滅殺されるか」
「はぁ? お前数すら数えられないのか? お前一人でどうやってこの人数を殺すつもりだよ?」
「逆に切り刻まれるだけだーつの、ははッ!」
今叫んだのは最近入団した新入り達だ
じゃなきゃ、アイツを見てあんな言葉が出る筈がない
俺、いや少なくとも領主と今の新入りを除いた全員は分かってる
───こんなバケモノ見た事ねぇ……!
鍛えられた傭兵は恐怖の中でどう生き残るか、どうやれば勝てるかを一瞬の間に考えられる。いや、むしろ考える事が出来ないならば早々に死ぬだけだ
だが……目の前の相手は違う
(自分が生き残る姿が見えない。いや、そうじゃねぇ……死んだ姿しか想像出来ねぇ!)
こんなのは龍人に睨まれた時以来だ
いや、あの時はあくまで遊びだった。だが今回は実戦だ。確実に……殺される
「分かった。お前等は滅殺されたいんだな
『時すら捕える闇の牢獄よ』」
2人の言葉を聞き、視覚出来る程のどす黒い魔力がヤツの体から噴き上がる
しかもヤツが唱えているのは……上位属性の?!
「『逃げる事は出来ぬ。此処は真なる闇の中。永遠にして一瞬の死を味わえ』」
闇の最上位魔法……まさか、使える奴がいたのか!
「【闇の牢獄】」
突然、先程までバカにしたように笑っていた者の影が自らの本体を飲み込む
悲鳴は聞こえない。聞こえる筈もない。気付く前にもう消えたのだ
「さて」
「……ッ!」
「魔法で死にたいか? 物理的に死にたいか? 選べ」
その言葉を聞き、俺達は一斉に襲い始める。僅かでも生き残れる可能性を信じて
= = = =
人には才能という物がある。もちろん才能があっても、努力がなければ何かを掴める程世の中は甘くない。だが、努力だけでは限界があるのは確かだ
そして、こと剣術において、如月刹那には才能がない。そして……それは実戦になった時、ハッキリと形になる
「クソがっ……!」
四方から迫る剣や槍を捌く事しか出来ない
怒りに身を任せた良いが、圧倒的な技量の差と物量によって僅かだが押され初めている
(何故、俺達はこんな弱いヤツに恐怖を抱いたんだ?)
傭兵も疑問に思う
先程の恐怖はなんだったのか、先程の殺意もなんだったのか? そして、今感じている圧力はなんなのか?
(やっぱり付け焼き刃の剣術じゃ無理か。せめて鎌の方が良かったか?)
「何故だ?」
不意に、先程の傭兵が話し掛けて来た。これだけの攻防(いや、一方的ですが)をしてるのに余裕のようだ
「お前、何で手加減して戦うんだ?」
「さっきか、らッ! 全力だ!」
「嘘だな。なら、何故悪寒が止まない!」
「しッ、るかぁッ!」
俺が大振りの一撃を振るうと、何故か傭兵達が下がった
「どうした? どう考えても今のチャンスだったよな?」
「確かにチャンスだ。だが、罠の可能性もあったからな」
「ねーよ馬鹿。にしても、俺剣苦手みたいだわ。カッコいいから憧れてたんだけどな……」
「そうか。なら死ぬだけだろうな」
まったく反論が出来ない。確かにこのままなら確実に死ぬだろう。剣の戦いならな
俺は【憤怒の太刀】を戻し、一度も使った事【大罪】を使う事を決意する
「ああ、本当に嫌だ。本当にアイツを使うのは嫌だった……!」
「何を言って……?」
「……七つの大罪、起動」
普段は楽に出来る能力行使も、【アイツ】を使おうとした瞬間、全身の血が逆流したかのような痛みが走る
そう、創る事が出来たのに……レベルの問題で使えないのだ
【エラーが発生しました。レベルが足りません。後92の能力使用をした後、再度アクセ】
「うるせぇよ!」
頭の中で鳴り響く警告を無視し、無理矢理能力を使用する
この程度の痛みで止まるくらいなら、止まってトラを悲しませたまま、終わるくらいなら……!
【エラー。エラー。プロテクト発動。保護と隔離を優せ、ん? ゆう、ラー、イルスの、入をかく】
今ここで死んだ方がマシだ!
【魂が龍と同等のレベルになったのを確認。次回よりレベル2としての能力使用が可能となりました。七つの大罪【強欲】の使用許可がおりました】
出てこい。そして、俺の望む物をお前の力で実現してくれ!
「掴み獲れ【強欲のナイフ】!」