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翔太郎と外に出ると、普通の光景がそこには広がっていた。異常事態はどこにも見当たらない。
「さて、どこ行きますか?」
翔太郎と歩きながら相談する。まだどこで食べるか決まってないのに、2人の足は自然と動いている。
「決まってるだろ。いつもの油そば屋だよ。」
2人で昼食をとる時は決まって油そばを食べる。店も同じで、いつもすぐ近所の油そば屋だ。あそこの油そばは不思議と飽きがこない。味変が簡単に出来るのがいいのかも。
そんな事を考えながら歩いていると、油そば屋に着いた。駅前だと言うのに、いつもながら繁盛していない。
「大将、やってるかい!」
翔太郎が勢いよくドアを開けて店内に入る。細長い店内。右側に通路とカウンター席があって、左側に厨房がある。そして、店長は大抵厨房にいる。しかし店長からの返答はなかった。
「いらっしゃいませ。翔太郎さん、あやかさん。」
代わりにそこに居たのは店長の一人娘のみおちゃんだった。日に焼けた肌に、短く切りそろえた髪。まだ高校生だが、休みにはこうして店を手伝っているらしい。
「あれ、店長は?またいつものヤツ?」
「そうなんです。お父さんまたお店サボってどっか行っちゃったんですよ。」
翔太郎の問いに、みおちゃんは申し訳なさそうに言う。
「またなの?店長もよくやるわね。」
まあ、店長の事なんてほおっておけばいいか。
「とりあえず、油そば1つちょうだい。」
「オレも同じので。」
「それが……お父さんがタレの油も持っていってしまって。今日は油そばお出しできないんです。」
「えっ?それホントなの?」
思わず聞き返す。油そば屋が油そばを出せないなんて、そんな話ある?しかも店長のせいで。
「はい……すみません。」
「みおちゃんが謝らなくていいのよ。それなら今日はオニオンチーズ丼でもいただくわ。」
「オレはチャーシュー丼をお願い。」
「本当にすみません。お父さんが帰ってきたらお母さんによく言って貰うので。」
「ははっ。そりゃいい。店長の奥さんはおっかないからなあ。」
いつものように会話を楽しみながらお腹を満たした。この油そば屋が持っているのはみおちゃんのおかげだろう。
その帰り、翔太郎と店長の事を話した。
「さすがにおかしいわよね。タレに使う油を持っていっちゃうなんて。」
「ああ。これもなんかのことわざなんだろうな。」
「ふう。疲れた。」
家に帰るなり、翔太郎はソファに倒れ込んだ。
「全然歩いてないでしょうが。つくならもっとマシな嘘にしなさいよ。」
「いやいや、俺が今まで嘘をついたことがあったか?」
「数え切れないほどあったわよ。」
翔太郎はすぐ軽口をたたく。
「それはお前が嘘だと思ってるだけだろ?実際は全部ホントなんだぜ。俺が実は超大金持ちってのもホントだし、超能力を持ってるってのもホントだし、次期総理大臣ってのもホントなんだ。」
「はいはい。そんな事言うのは大学生の内だけにしといてね。」
その時、外で大きな音がした。
「ゔぉおおおおおおおお!!」
その音は、何回も何回も聞こえてきた。奇妙なのは、その音がだんだん大きくなってきていること。
そして"それ"は鍵をかけていなかったドアから容易に侵入して、リビングまでやってきた。
「お、鬼?」
そこには鬼がいた。言い伝え通りの、赤い肌と巨大な金棒。
人間は野性を失ったとか、そんなの嘘だと分かった。あたしは今、本能的に恐怖を感じてるんだから。足がすくんで動かなかった。それは翔太郎も同じようで、2人とも微動だに出来ない。その静寂を破ったのは鬼だった。
「オマエ、ウソツキ。」
鬼は翔太郎に近づき、金棒を振り下ろす。
「うおおっ!」
間一髪、翔太郎は横に転がって避ける。金棒が床にめり込む。逃げないと。
「翔太郎こっち!」
呆然としたままの翔太郎を大声で正気に戻して、リビングから飛び出して、ドアから逃げる。




