現れる
カーテンから漏れる日光が、目に刺さる。
「もう朝か……」
すぐ横で充電してあったスマホを手に取り、電源を入れる。
そこには九時十分という数字と、髭も剃っていないだらしない俺の顔が映った。
半目開きの状態で体を起こし、あくびをする。
その視線上には植木鉢に植えた、薔薇の花が置いてあった。
暗い赤の花びらの色が濁っているように見える。
普通は外で育てるものだろうが、そんなスペースがないため仕方なく部屋にスペースをとっていた。
その薔薇は兄から貰ったものだ。
昔から兄とは仲が悪かった。
原因なんて明白なものだ。
喧嘩するたびに、小さい頃から親は俺を贔屓しているからである。
今だって、こんなニートを面倒見てくれている。
そんな家族関係に嫌気がさしたのか、兄は高校に入って間も無く家を出た。
ある日薔薇が気色悪いと訳のわからないことを言って、それを押し付けてきた。
その後兄とは連絡がつかず、この様だ。
薔薇の面倒はしばらく見ていない。
だんだん萎れていっているのが、目視で分かるほどにだ。
カーテンからの光がうまく働いて、さらに薔薇が寂しく見えてきた。
その時。
……………………!
一瞬、パッと白い光に視界が満たされ、何事かと周りを見渡す。
すると、掛け布団に肘をつく十代くらいの女の子がこちらを見つめてた。
髪は短く、赤く、艶やかで、そんな彼女が僕に放った一声。
「花に水をやれ」
何も考えていないような、冷たい声だ。
急なことにうまく頭が回らず、言われたことしてしまう俺。
近くに置いてあったコップの水を花(薔薇)にやった。
よくわからないまま、彼女は次々に命令し出す。
着替え。
食事。
しないと何をされるかわからない、彼女が何を考えているのかもわからない。
次第にそんなことは考えなくなっていき、言われるがままだ。
その命令は生活する上で必要なことばかりだが、そんなことでも疲れてしまった自分の普段のだらしなさを身に染みて感じのだった。
早くも、気づくと夜になり、彼女もいつのまにかいなくなっている。
今何が起きていたのか。
彼女は誰だったのか。
とても早い一日は、それを考える前にとてつもない睡魔によって締められた。
そしてその翌日。
もはや、昨日で耐性がついてしまったのか。
またも彼女は、布団に頬杖をつき、こちらを見つめていていることに、驚きはしなかった。
「おはよう」
彼女の声は相変わらず冷めていた。