第7話
「あんたが、六美さんを好きだって……?」
「……だとしたら?」
わなわなと肩を震わせる荻野が、静かに咆えた。
「ぶち殺す」
(なんで!?)
いくら俺がキモオタ眼鏡だからって、誰を好きになったっていいだろう!?
試しに問い返してみたつもりが、とんだ修羅場を招いてしまったようだ。
てゆーか……
「どうして荻野がそこまで怒るんだよ!? てか、むつ姉に関してはもしもの話で! 俺の好きな人はむつ姉じゃなくて……!」
「は!?!? どっちなんだよ、はっきりしろよ!?」
何これ、キレてる!? バンギャ怖い!!
「なんでそんなキレてんの!? てか、ぶち殺すって何!? なんでむつ姉好きだと、ぶち殺されなきゃならないんだ!」
満身創痍の問いかけに、荻野はハッとしたように固まった。
そして……
「あ、あたしが……六美さんを好きだから……」
真っ赤な顔で、そう呟いたのだ。
俺たちを包む、時間が止まる。
「は????」
立場逆転。俺は一変して問い返す。
「は? 何? わけわからないんだけど? 荻野がむつ姉を好き? なにそれ、どういう意味? 姉御として慕ってるってこと? いや、そういう顔じゃねぇよな、ソレ。え? それって、恋愛的な意味でむつ姉が好きってことなの?」
「…………」
顔を真っ赤にして答えない荻野に、俺は矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「たしかに、俺がさっき言った『好きな人』が、むつ姉じゃないってのは本当だ。でも、それとこれとは話が違うんだよ。俺は家族としてむつ姉が好きだし、むつ姉に可愛がられてる自負もあるし、従姉妹同士だけど、ぶっちゃけ自称・弟だよ。だから、今の発言はちょっと聞き捨てならないっていうか。で、結局どうなの? それは恋愛的な意味なの?」
荻野は、「うるせー、早口オタク」と呟いて、俺を見据えた。
「……恋愛的な意味だよ」
「……!」
「ついでに、性的な意味でも…………好き」
「……!?」
「あたしは六美さんと、恋人同士になりたいんだ。だから、バイトの勧誘を受けた。『もしよければ、一緒にバイトしない?』なんて言ってくれたんだ、少なくとも嫌われてはいないでしょ……? 六美さんは、誰にでも好かれる超聖人みたいな高嶺の花だけど、あたしだって、ちょっとくらい期待しても……」
ひとりでに盛り上がり、くねくねと語りだす荻野に、俺は宣言する。
「恋人…………だと?」
「は?」
「俺の目が黒いうちは、そんじょそこらの奴に、むつ姉に手ぇ出させん……」
だって、俺は、そのために。
勉強だけはがんばってきたんだから。
留守がちな両親に代わって、むつ姉はいつも遊び相手になって、勉強やその他のことを教えてくれた。
近所に住んでいる親戚ってだけで、親切にしてくれて、本当の弟みたいに可愛がってくれて。
今だって、勉強に詰まっていると一緒に考えながら教えてくれる。
『はは。もう勉強じゃあゆっきぃに敵わないかも〜』なんて。きれいで優しい笑みを浮かべて。
『困ったらいつでもウチにおいで。ゆっきぃ』
って……
(むつ姉……)
今までたくさん助けてもらった分、将来、むつ姉が困ったときに、せめて金銭的に助けてあげられるような男になろうって。
ただならぬ想いを感じ取ったのか、荻野が半歩後ずさる。
「……ッ!」
「別に、女同士だからどうこうとか言うつもりはない。ただ、俺は、(自称)弟として。むつ姉と交際したきゃ、俺を倒してからにしろっていうか……とにかく。むつ姉が認めなきゃ、俺は認めないから」
「誰が誰を好きになろうと、勝手なんじゃないの?」
「そうだよ。だから……」
本来なら、何を言ってもムダだし、ダメだ。
俺が認めるとか認めないとか、そんなものに意味はないし、しゃしゃりでる権利はない。
「でも……」
どこの馬の骨とも知れない女に、むつ姉を取られたくないこの気持ちは何だ……!
自覚がないだけで、俺はやっぱりむつ姉のことが?
いや、ちがう。いやいや、違う。
だって俺が好きなのは……
「あぁ……うぁ……」
「おい。真壁、しっかりしろ。うずくまるな」
「お前にだけは心配されたくないぃ……」
「だいぶこじらせてんな、シスコン(仮)野郎」
「うぅ……」
「で。あんたの好きな人って、結局誰なの?」
「教えたくないぃ……」
「めんどくせー奴」
そんなやり取りを繰り返していると、店先にひとりのJKがやってきた。
ふたりして、驚いたように目を丸くする。
……坂巻だ。
(なんで……こんな、閉店ギリギリに……?)
ひとまず、俺と荻野は声を合わせる。
「「い、いらっしゃいませぇー……」」




