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第57話

 どうしよう。

 白咲さんが好きだ。


 目の前で笑う女の子が、さっきから天使にしか見えない。


「ごちそうさまでした。美味しかったよ、ありがとう」


 両手を合わせて礼を述べると、白咲さんは「お粗末さまでした」と微笑む。


 やばい。天使。超天使……アルティメット白咲さん天使……


「えっと、このあとどうする……?」


 ふたり分の食器を、なんだか満ち足りた気持ちで洗いながら声をかける。

 「もし帰るなら、駅まで送るよ」。

 そういう気持ちで、なんとなしに声をかけただけだった。

 頭の中は「白咲さん超好き」ばっかりで、バグったようにそれしか考えていなかった俺は、その言葉の意味を深く理解しないまま、白咲さんに視線を向ける。


 テーブルを拭いていた白咲さんは、きょとんと一瞬目を見開いて、それから、俯く。

 顔も耳も真っ赤に染めて、一言……


「……の前に。……お、お風呂、借りてもいいですか……?」


「え?」


 お風呂?


 問い返すように見つめると、紅潮して、潤んだ瞳と目が合った。


 その一瞬で、理解する。

 俺は理解してしまった。


「白咲さん、ひょっとして……泊まってく?」


 こくり、と遠慮がちに頷かれてから、心臓がバクバクいって止まらない。


 やばい、やばい、どうしよう……!


 女の子を家に招くにあたって、この可能性を考えなかったかと言われれば、ゼロとは言えない。

 だが、フラれた直後でまさかここまで元気になるとは思っていなかったし、白咲さんに河原で抱き締めてもらったのがなんだか幸せ過ぎたから、もうちょっとぎゅーって、ハグしてもらえたらいいなぁ、なんて。そんな期待くらいだった。


 なのに……


(お泊り……お泊り!? それって、アレだよね!?)


 凄まじい勢いで部屋を片付け、掃除機をかけながら、階下からのシャワーの音ばかりが頭にこべりついてくる。


(白咲さんが、ウチでシャワー浴びてる……)


 それだけでもうなんか色々とやばい。


 白咲さんには、以前ホテルの前で「ダメ……ですか?」と言われた仲だ。

 今更ナシだなんて思えない。

 泊まると言い出した白咲さんは、絶対に《《その気》》だ。


 ――俺の気持ち? 


 今はすっきりさっぱりフラれてしまったうえに、あそこまで完膚なきまでに惚れさせられてしまったんだ。大歓迎だよ。大歓迎。

 むしろ勘違いだったらどうしよう。このアガってしまったテンションを、どうやっておさめたらいいのか……


 俺は机の引き出しを開け、未開封だった0.01(ゴム)を取り出した。

 これは、俺がアイス屋でバイトを始めて急速にモテはじめ、「もしかして、いつかワンチャン?」と調子こいて購入したときのものだ。

 後日、その増長っぷりが我がことながら恥ずかしくなって封印していた特級黒歴史(仮)。


 まさか。本当に使う日が来るとは。


(えっ。でもどうしよう……あからさまにベッドに置いておいたらヘン? だよな……?)


 もう、初めてのこと過ぎて何をどうしたらいいのかわからない。


 俺は、そのハコを隠すようにベッド下において、綺麗になった部屋をあとにした。

 一階に戻ると、「お風呂、ありがとうございました」と、わずかに濡れた髪の残った白咲さんが、セーラー服を着直していた。

 元から薄化粧なのか、メイクが落ちても落ちなくてもくそ可愛い。


「あ。そっか、着替え……ちょっと待ってて!」


 急いで二階に戻り、何か着れそうなものはないかと、両手にいっぱいの服を抱えて舞い戻る。いくら白咲さんが女の子とはいえ、母親の服を着せたくはない。なんとなく。


「これ、俺ので悪いけど……着れそうなものがあったら使っていいから」


「え……でも……」


「全部洗濯はしてあるよ。着れそうなものがなかったら申し訳ないけど、その辺に置いておいてくれるかな? じゃ、俺もシャワー浴びてくるね。今掃除したから、先に部屋あがってて。二階の左端だよ」


「あ。ゆきさん……!」


 戸惑う白咲さんに全ての選択を任せつつ、まっしろな頭のままシャワー浴びる。普段より念入りに、これでもかってくらい身体を綺麗に洗って、落ち着かない心地で自室に戻ると……


 出迎えてくれたのは、ぶかっとしたワイシャツ一枚に身を包んだ白咲さんだった。


 普段はおしとやかなスカート丈なのに、今は真っ白な太腿を惜しげもなく晒して。

 俺のベッドの上にちょこんと遠慮がちに腰をかけ、白咲さんがはにかむ。


「えへへ……お借りしちゃいました。やっぱり、大きいですね」


 ああ、くそ。やばい……!


 『彼シャツ』だ……!!


 我ながら、なんてことをしてしまったんだ。


 白咲さんはご機嫌に、裾のあまった萌え袖をひらひらさせながら、恥ずかしそうに口元をおさえて――


「なんか、ちょっとゆきさんの匂いがするかも……? ふふふっ!」


 なんて。


 可愛すぎる。もうダメだ。


 俺はそのまま、ベッドにもつれるようにして、倒れ込んだ。

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