第49話
荻野によって半ば強引にファーストキスを奪われた俺だったが、なんやかんやで荻野とはこれからもいい友達でいられそうだと、ひとまず安心する。
だが、これだけは念押しをしておきたい。
俺は押し倒され、仰向けの正面に荻野を見据えたまま口を開いた。
「言っておくけど、俺はむつ姉じゃないぞ」
「確かに似てるとは言ったけど。そうじゃなくて、真壁とチューしたいと思ったからしたんだよ。そこは安心して」
何をどう安心すればいいのか、よくわからんが。
荻野いわく、俺にむつ姉を重ねてキスした、ということではないようだ。
でも……
「むつ姉が、好きなんじゃなかったのかよ」
問いかけると、荻野は思いのほかあっけらかんと答える。
「真壁、知らないの? あたしはレズじゃない。バイだ」
……はい。初耳です。
「人の気持ちは、進化するんだよ。友情が、ときに愛情に。あたしは今、真壁のことも好きになった。今までだって好きだったけど、今度は、恋愛対象として。六美さんのことだって、変わらず愛しているけれど、あたしは真壁のことも好き」
「……は?」
「ほんとに好きなんだってば。うん、《《食べちゃいたいくらい好きだよ》》」
ぺろり、と舌なめずりする荻野に、俺は貞操の危機を感じた。
「前に言ったじゃん。あたしはさぁ、誰が誰を、何人好きになってもいいと思ってるって」
「!」
荻野は、先程まで自分がおさまっていた俺の腕を、愛おしそうに撫でる。
「どんな姿の自分でも受け入れてくれる人がいるのは嬉しいよ。好きになっちゃう。あたしがカッコ悪くったって、苦手なものがあったって、真壁はあたしを笑わないでいてくれた。微笑んでくれた」
「それは……」
あのとき俺は、いっつも強い荻野にも苦手なものがあるんだな、って。親近感っていうか、荻野を身近に感じられた気がして、嬉しくて。そのギャップを、なんだか可愛いなって……
「ねぇ。好きな人がたくさんいるのって、おかしいかな? ダメなのかな? あたしは、六美さんも真壁も、大好きだよ」
つい先日は、LGBT系のクローズアップ特集やバズり記事を見て、己の生きづらさに打ちひしがれたり、「特別扱いすんな!」って怒ったり、悲しんだりしていたと思ったのに。
やっぱり荻野は、強かった。
こんなまっすぐな瞳に、嘘なんてあるわけがない。
そんな瞳で「大好き」なんて言われたら……
好きに、なっちまうだろうが……
「俺は、加賀美さんが好きなのに……」
ぽつり、とこぼすと、荻野は指を二本立て、ピースサインを作る。
「あたし、二番目でいいよ」
「……は?」
「なんなら三番目でもいい。四番目でも。とにかく、あたしは真壁と、ずっと仲良しでいられればそれでいいから」
俺の時間が、再び止まる。
荻野は再び、俺に覆いかぶさって……
「でもあたし、真壁とシたいなぁ……」
「!?」
「お互いキライじゃないんなら、ちょっとくらい……ダメ?」
いや。いやいや……
「ダメ? じゃないだろ……だって、それって……」
セフレって……こと!?




