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第45話


「気持ちは嬉しいんだけどさ、その……言っておくけど、俺、好きな人いるよ?」


 その言葉に、坂巻は俺を二度見する。


 「は? え?」。信じられない、といった表情で。

 相当ショックがデカいのか、「誰?」とは聞けないようだった。


 俺と他人のふりをしながら、好意を伝える。そのことにいっぱいいっぱいで、俺に好きな人がいる可能性に、気がつく余裕がなかったんだろう。


「ここのところ色々あって、好きな人についてもう一度、じっくり考えてみたんだよ。俺はやっぱり、あの人が好きだ。近々、告白したいと思ってる」


「…………」


「坂巻がどれだけ尽くしてくれたとしても、場合によっては、その想いに応えることができないかもしれない。それでもいいの?」


 白咲さんのときのような、同じ轍は踏まない。

 それが、坂巻の気持ちに対するせめてもの礼儀だと思った。

 正直に告げると、しばし動揺していた坂巻は、震える唇を開いた。

 

「……いい。それでもあたしは、真壁が好き。少しでもいい。せめて、その告白が終わって、真壁に恋人ができるまで……ちょっとの間でもいいから、隣にいさせて欲しい。それくらい……好きなの」


 燃えるような、それでいてまっすぐなその瞳に、思わず赤面してしまう。

 好意の熱と圧におされて、「どうして?」というその一言が出てこない。


 白咲さんといい、坂巻といい……


 女子って、強ぇなぁ。


「……わ、わかった……か、考えとく……」


 顔が赤いのを隠すように、視線を逸らす。

 その様子がなんだか面白かったのか、それとも緊張がほぐれたのか。坂巻は最後に、にへら、と笑った。


「へへ。メール……待ってるね」


 ◇


 体育祭が無事終わり、俺は、いつものごとくバイトに向かっていた。

 内心では、白咲さんと坂巻の言葉が、ずっと渦を巻いている。


『私、きっとゆきさんを振り向かせ……手に入れてみせます』

『それでもあたしは、真壁が好き』


(やっぱ、このままじゃあ、よくないよなぁ……)


 できるだけ早く。俺も、俺の気持ちにケリをつけなければならないという気がしている。


 あれから白咲さんとは、何回かLINEでやり取りはしていた。

 『デズニーでの写真、送りますね』

 と。普段と変わらない様子で接してくれる白咲さんが、とても強くて、思いやりのある女性なんだということは、ひしひしと伝わっていた。


(でも、告白かぁ……)


 いざやらねば、と思うと、緊張と恐怖で胃が縮み上がりそうだ。これをやってのけたふたりは、やっぱりすごい。すごいなぁ……


 なんとも言えない心地で、店長に挨拶をして、バックヤードに入る。すると、先に来ていた荻野がテンション高めの声をあげた。


「真壁っ! 真壁ぇっ! 見て! これ見て!」


 ぴょんぴょん、とカラフルな紙を手に、喜び勇んで駆け寄ってくる。元来ダウナーな荻野にしては、珍しい反応だ。どうやら、相当嬉しいことでもあったみたい。


 楽しそうに揺れる銀髪に、にこにことした無邪気な笑み……

 あぁ、安心する。緊張がほぐれる。


「どうしたの?」


 問いかけると、荻野は夏の新しいフレーバーが記載されたメニュー表を手にしていた。

 そのうちのひとつ、透き通る水色の美しいシャーベットを指差して、破顔する。


「今年! ダイキュリーアイス復活なの!」


「ダイキュリーアイス?」


 それは、ラムとライムの風味が爽やかな、ダイキリというカクテルをイメージした、少し大人な味のアイスだった。

 夏にぴったりなアイスなのだが、酸味が強めで、好みが分かれることから、定番化していない商品だ。

 出るのは大抵夏だけど、その年にあるかないかはわからない。だから、荻野のようなダイキュリーアイスのファンは、毎年、祈るようにその復刻を楽しみにしているわけで……


「へー、今年は出るんだ」


 荻野のわくわくをお裾分けしてもらいながら、メニュー表を受け取る。

 かくいう荻野は、「待ちきれない!」といった表情で、アイスを掬う素振りをしていた。


「ダイキュリーアイスが来たら、あたしは俄然ダイキュリーアイスを推していく! 布教して、沢山の人に食べてもらって、夏のレギュラーにするんだ! そしたら毎年、ダイキュリーアイスが食べられる!」


 ふんす、と意気込む荻野に、更なる朗報が。


 俺たちと交代しようとバックヤードに戻ってきた店長が、冷凍庫を指差して言う。


「お疲れ〜。ふたりとも、夏の新作の試食分が来てるから、時間あるときに食べてみて。味を覚えて、お客さんに説明できるようになるのも、立派なお仕事だからねっ」


 その言葉に、俺と荻野は、ぱぁあ! と顔を見合わせた。

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