表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/60

第36話

 当たり前のように差し出された華奢な手に、思わず固まる。


(えっと、これは……?)


 困ったように視線を右往左往させる。

 待ち合わせの人で溢れる改札前。気がつくと、周りは皆んな手を繋いでいた。

 友人同士、恋人同士で。さも、それが『この国のルールだ』言わんばかりに。


 俺は、異世界に迷い込んだ異邦人になった錯覚に陥る。


 なんだ、ここ。

 俺の知ってる日本じゃねぇぞ。


 とんでもねぇデートスポットだ!!


 周囲にこんなに人が多いのに、全く気にせず、どいつもこいつも自分らの世界に入り浸って、ハートを散らしまくっている。


 学校での坂巻たちの会話では、デズニーは友達同士で遊びに行く場所、っぽい雰囲気が出てたから、油断(というか、大丈夫だろうと勘違い)していた。


「人が多いですから、迷子になっちゃいますよ」


 指先をちょいちょいと揺らして、繋ぐように促す白咲さん。


 俺は再び周囲を見回す。

 何度見ようが、結果は同じだ。

 繋がないと超アウェイなことだけは、よくわかった。


 ズボンの裾で手汗を拭いて、決意を固める。


「うん。じゃあ……」


 触れた瞬間。ひたり、と指の腹に肌の吸い付く感触がする。表面はさらさらなのに、柔らかくて……


(わ。なにこれ、すごいすべすべ……)


 超気持ちいい。ずっとさわっていたい……


 初体験の感触に内心で感動していると、白咲さんは、にこ、と目配せをして、遊ぶようにその指先を絡ませる。


 うっかりすると握りつぶしてしまいそうな手を、そっーとそーっと握り返すと、隣でプリンセスが笑った。


  ◇


 最近のデズニーランドは、入場券やアトラクションの搭乗チケット、ショーの抽選など。全てをアプリ経由で管理する形になっている。


 白咲さんは慣れた手つきでスマホを操作し、俺に電子チケットを送った。


「ありがとう。いくらだった? お金渡すよ」


 すると、白咲さんは「受け取れません」と、首を横に振る。


「これは、先日のお礼です。せっかくのお休みをいただいてしまった上に、チケット代まで取るわけにはいきません。遊園地に行きたいと言ったのは私ですし、そもそも、ゆきさんと、その……デート……したいというのは、私の身勝手な願いですから……」


 そう言って、顔を赤らめる白咲さん。

 マジくそ可愛い。なんだこれ。

 そんな顔されたら、見ててこっちがドキドキしちゃうってば。


「えっ。でも。さすがにそんなの悪いよ。俺だって、誘ってもらわなかったらこういうところ一生来る機会はなかったかもしれない。白咲さんとなら行ってみたいと思ったから、来たわけだし……ちゃんと払うよ」


 その言葉に、一瞬、ぱぁ、と目を輝かせた白咲さんは、結局チケット代は払うといって譲らなかった。見かけによらず、結構頑固なところがあるようだ。


 再三の「これはお礼ですから」という主張に、これ以上抵抗するのも失礼だろう。

 俺はありがたくチケット代を奢られた。その代わり、園内での飲食の一切まで払おうとしていた白咲さんに、自分の分は自分で払う、と約束をさせて。


「それくらいきちんと出させて。もう。俺はホストじゃないよ。友達でしょう?」


 そう言うと、白咲さんは驚いたように目を丸くし、ふわりと細めて、頬を染める。


「はい……! お友達……。ふふっ。そうですね!」


 どこか嬉しそうな白咲さんと共に、俺たちはデズニーランドを満喫した。いや、正確にはデズニーシーだっけ。

 詳しい違いはわからない。俺にとっては、何もかもが初めてみたいなことばかりだったから。


 そうして。

 その日は、色んな意味で、忘れられない一日になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ