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第32話

「まさか……彼氏??」


 的場さんの一言に、荻野はなぜか不敵に笑った。


「……に、見えます?」


 すると、的場さんは顎に手を当てて、俺の顔をまじまじと覗き込む。


「うーん……見えるか見えないかで言ったら、ワンチャン見えるかな。リョーコちゃん、色白細身系好きだし、彼、その、のび太君みたいな眼鏡の下は結構イケてない?」


「おっ。よくおわかりで。でも残念、彼氏じゃありませーん」


 荻野はまるで「勝った」と言わんばかりのドヤ顔で俺の背を叩くと、的場さんの前に突き出す。


「友達なんです。コーディネートしてくださいよ。こいつ、週末女子とデートなんで」


 その一言に、的場さんはにやりと笑った。まるで、いいおもちゃを見つけたとでも言いたげな、世にも楽しそうな笑みで。


「へぇ〜? じゃあ、めちゃくちゃカッコよくして、リョーコちゃんがデートを阻止したくなるくらいにしちゃおうかな?」


「やってみてくださいよ。そしたら、あたし達はそのコーディネートを元にして、もうちょい安いとこで似た感じのやつ探しますから」


「えっ。最悪。せめて一着くらいウチで買ってってくんないの?」


「兄貴へのツケ。こないだテキーラのショット対決で的場さんが負けた分、払ってもらってないって言ってましたよ。私がマリカ(マリオカート)でボコしたら、悔しさのあまり忘れたっぽいけど。あと数回なら、兄貴の気ぃ逸らして、忘れたままにさせといたげる」


「ふぃ〜わかりましたぁ〜〜。あーあー、最近の子はちゃっかりしてるよなぁ。ま、ツケなんて無くても、リョーコちゃんの頼みなら、それくらいいつでもやってあげるよ」


 それからというもの、的場さんはノリノリで、それこそ一時間近く試着などを繰り返して、俺をコーディネートしてくれた。

 おかげで、(拙くも脳内で)思い描いていたものより数段カッコいい、インテリイケメンコーディネートが完成する。


「あの、ありがとうございます。この服、一式買っていきます」


 そう言うと、的場さんはヒラヒラと手を振った。


「いーよ、いーよ。インナーと下はシンプルめだから、他で探せば似たようなのもあると思う。違いがあるとすれば素材、手触りとか着心地かな。でもジャケットは、シルエットがイケてるでしょう? 何よりこの軽さと着心地! 真壁くんは細身だから、Iラインが似合うと思う。着回しもできるから、一着持っておいて損はないと思うし、俺の社割使えば、高校生でも手が出せなくないはずだから、どうかな?」


 にこっ。と爽やかな笑みに、思わずオチそうになった。


 鬼のようにシフトに入っているせいで、幸い懐はそれなりにあったかい。とはいえ、あくまで高校生レベルのあったかい、だ。

 俺はオススメされたとおり、的場さんのお店ではジャケットを。他はもう少しお値段の優しい店で購入することにした。


 ショップバッグを持って、店先まで見送りに来てくれた的場さんが、楽しそうに話しかける。向こうで別の店員さんと話している、荻野には聞こえないような小声で。


「リョーコちゃんが、こういう風に男の友達を連れて来てくれるなんて、なんだか嬉しいな」


「?」


 それはどういう意味なのか。きょとんとしていると、的場さんは目を優しく細める。


「リョーコちゃんね、中学の頃、ちょっと男性関係でトラブルっていうか、トラウマがあって。ほら、リョーコちゃんは可愛いし美人だし、それでいて性格は強めでしょう? それでね、以来、男の子が苦手なんだ。中学にもなると、腕力では男に敵わないからね。それがわかって、ちょっと怖くなっちゃったみたいで」


 ……それは。初耳だ。


「とりあえずの療法として、ヴィジュアル系バンドを観に連れて行ったのがよかったみたいで。メイクの濃い男性バンドってさ、一種のファンタジーみたいだろ? いや、間違いなく現実なんだけど。三次元なのに非日常で溢れてるっていうか。おかげで、兄貴や俺みたいな身近な男以外とも、普通に話せるようになってさ。だから今日、キミみたいな男友達といて、すごく楽しそうにするリョーコちゃんを見て、なんか安心したっていうか……ありがとね、真壁くん」


「いや、俺は、その……バイト先が同じってだけで、何もしてないですし……」


「何もしてない……そういう、美人に下手に媚びを売ったり、意識し過ぎない姿勢が、リョーコちゃんには居心地よかったのかもしれないな」


 的場さんは、「あは。なんかシリアスな話しちゃってごめん。リョーコちゃんには内緒ね」と、人差し指を口元に当てる。そうして、「真壁くんなら、またいつでもコーディネートしてあげる」とも。


 話を終えた荻野がこちらに来るのを視認して、的場さんは改めて、笑みを浮かべて問いかける。


「で。週末デートする子、どんな子なの? 可愛いの?」


 なんとも言い淀む俺に代わって、荻野が。


「ロリ巨乳っす」


「マ? サイコーかよ。超うらやま」


 真顔でそう漏らす的場さんに手を振って、俺たちは店を後にした。


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