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第24話

「加賀美さん……」


 しゃなりとした品の良い足取り。

 黒曜石のような黒々とした瞳の上で、長い睫毛をしばたたかせて、加賀美さんがやってきた。


 ショーケースに並ぶ、色とりどりのアイスをその瞳に映して、迷うように視線を行き来させる。


 その様子を、俺は胸のドキドキを抑えながら固唾を飲んで見守っていた。


(な、なんで加賀美さんがウチの店に……!? いや、アイス屋なんだからJKは誰だって来るよな(偏見)。いやでも、加賀美さんって普段は部活で忙しいし、寄り道とかあまりしないイメージなのに……)


 てか。俺が真壁だって、やっぱり気づいてない感じ……?


 バレてないなら、それはそれで良いのだが。

 こうも誰にも気づかれないと、それはそれで悲しいような。

 加賀美さんの中で、俺への印象が薄いことを改めて実感して、ひとり虚しい心地でディッシャーをカチャカチャと鳴らす。


 アイスを選ぶその横顔を、ぼーっと、見惚れるように眺めていたら、荻野に足を踏まれた。

 鋭い視線を俺に向け、荻野が「いらっしゃいませぇ~」とハイトーンな猫撫で声を出す。そうだ、挨拶。忘れてた。


 俺も慌てて声を出す。


「いっ。いらっしゃ、い、ませぇぇ……」


 急な想い人の襲来に、おのずと声が上擦る。おまけに思いきり噛んだ。

 営業スマイルだってキメているつもりだが、今の俺は、きちんと笑えているだろうか。自信がない。だって、緊張でバクバクしすぎて、ぶっちゃけそれどころじゃないから……ああっ、にやにやすんな荻野! 余計に緊張するだろう!


 にしても、まさか、加賀美さんが店に来るとは思ってなかった。

 しかもひとりで。部活帰り?

 何を選ぶんだろう。何が好きなんだろう。


 俺は、加賀美さんの好きなものを、あまり知らない。


 ドキドキと早鐘を打つ心臓を、営業スマイルで押し殺しながら、俺は注文を待った。


 しばらくすると、加賀美さんは、長らくジャモカアーモンドファッジのところで留めていた視線を不意に下に逸らして、顔をあげる。


「抹茶をひとつ、ください」


 俺は耳を疑った。


(え……抹茶? …………抹茶!?)


 あんなにジャモカアーモンドファッジ見てたのに!?


 俺の手元は、すっかりジャモカアーモンドファッジの気持ちだった。

 ともすると、片手ではジャモカアーモンドファッジの扉を開ける準備すらしていたのに。……抹茶ですか?


 抹茶……確かに美味しいけどさ。

 ハーゲンダッツでよくない?


 俺はウチの店の抹茶も勿論好きだが、抹茶を食べるなら、どちらかというとハーゲンダッツが好きだ。

 店員だからって贔屓はしない。抹茶を食べるならハーゲンダッツ。

 あくまで俺の好みの問題だ。

 加賀美さんにも、是非あのハーゲンダッツの抹茶の美味さを知って欲しい。


 ……って。

 ああ、いかん。今はそれどころじゃなかった。


(ひとつ……ひとつ、って、シングルって意味だよな?)


 俺は動揺を抑えながら尋ねる。


「サイズはいかがなさいますか?」


 その問いに、加賀美さんはびくりと目を大きくさせる。


「……サイズ?」


 あっ。

 えっ、あっ、どうしよう。目が合った。


 言葉が飛ぶ、日本語が飛ぶ。

 頭の中が真っ白になる。


 やばいやばい。

 目を覚ませ俺。

 浮かべよ日本語、話せよ言語。

 俺は今、アイスクリーム屋の店員、真壁幸村だぞ!


「えっ。あ、はい。スモールサイズと、レギュラーサイズ。二種類からお選びいただけます」


 もっと言えば、サンデーとかパイント(三人分)とかクォート(六人分)とかあるけど、基本はこの二択でいいはず。


 その問いに、加賀美さんは再び固まる。


「スモール……レギュラー……?」


 きょとんとした、綺麗な瞳が究極かわいい。やばい。素敵。

 普段、しっかり者で凛としている加賀美さんしか見たことのない俺からすれば、脳みそが沸騰する勢いのギャップ萌えだ。


 だが。

 まるで、スタバのレジで唸るおばあちゃんのようなこの反応……


 ひょっとして加賀美さん、アイス屋は初めて?


 どうしよう。加賀美さんの初めてが、俺だなんて……!

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