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第16話

「手ぇ引っ込めろよ。グズ」


 もはや聞き慣れて(俺の中では)お馴染みとなった、荻野印の舌打ちをかますと、男は目に見えてビビリだす。


「なんだ、てめぇ……」


 尻すぼみな威嚇に、思わず嗤いが零れそうになった。


 なんだこいつ。チンピラ以下か。

 もう怖くもなんともない。


 言っとくけど、本物の荻野パイセンはもっと怖ぇぞ。

 引き継ぎミスってドライアイス切らしたときなんて、あの蒼い眼光だけで、冷凍庫に詰められるかと思ったもん。


「……行こ」


 呆然と佇んでいたキャラメルの君の手を取って、早足で駅へと歩き出す。

 何か言いたげだった彼女は、俺がアイス屋のあの店員だと気づくと、手を握り返してついてきた。


 会社帰りの人波に紛れるようにして、彼女の帰り方向のホームに向かった。

 丁度来た電車を見送ると、辺りは比較的人が少なくなる。

 静かになったタイミングで、彼女が口を開いた。


「あ、あの……ありがとう、ございました……!」


 へし折れんばかりに頭を下げられて、思わず面食らう。

 そして、我に返った――もとい、いつもの俺こと、コンタクトをしただけのキモオタ眼鏡に戻った。

 ぺこぺこと下げられる頭に、どもりながら慌てふためく。


「あっ。いやっ。そのっ。俺もなにが何だか……よかったんだよね? あれで」


 助けたことが間違いだったらどうしよう。

 だが、それも杞憂だったらしい。


 キャラメルの君は首をこくこくと縦に振って肯定する。

 そりゃそうだよな、あんなに怯えた顔してたんだもん。


 何度も何度も、お礼を言いながら頭を下げるキャラメルの君に、俺は尋ねた。


「なんでこんな時間にあんなとこいたの? 言っちゃナンだけど、あの公園前広場は、夜はちょっとしたナンパの名所って、良くない噂があって……」


「そ、そうだったんですか!? 知らなかった……気を付けます……」


 こげ茶の髪をふわりと垂らし、しょんもりと俯く様子が庇護欲をそそる。

 『お人形さん』……こりゃあ噂にもなるわけだ。

 どうしようもなく守りたいっていうか、囲いたいっていうか。可愛い服着せて部屋に置いて愛でたくなるっていうか……


 むむ、いかん! 余計な妄想が……!


「わ、私……ビルのあっち側って普段あんまり行かなくて。でも、従業員出入口があそこにあるって知って……」


 ぽつぽつと話し始めたキャラメルの君は、思いもよらぬ言葉を口にする。


「私……お兄さんを待っていたんです」


「へ……?」


 それって……僕ですか?

 ユアブラザー? お兄様でなく? 俺?


 と聞く前に、まっすぐに見上げる瞳が「そうだ」と告げている。


「な……なんで?」


 思わず首を傾げると、キャラメルの君は頬を染め、いじいじとスカートの裾を弄りだした。


「み、見ちゃったから……」


「??」


「私、こないだお兄さんがお客さんの子と一緒に帰るところをたまたま目撃してしまって……親しげなわけでもないのに不思議だなって、自習室の窓から眺めてたんです。そしたら、女の子を駅まで送ったお兄さんが、反対方向に帰っていくのが見えて……」


「ああ、こないだの……」


 坂巻を送っていったのを見られていたらしい。


「それで……『あ。《《そういうの》》アリなんだぁ』って……」


 ……えーと。《《どういうの》》?


「わ、私もお兄さんと一緒にお話して……帰ってみたくって、出待ち、してました……」


 言い切るや否や、かぁぁ! と赤くなった顔を両手でおさえる。

 俺は、その言葉を、ゲシュタルト崩壊が起きる勢いで反芻していた。


(出待ち……出待ち……? アイドルとか、バンドマンが、ファンの子にされるっていう、アレのこと?)


 なんと。


 ……出待ちですってよ!

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