第13話
なんとか食事を終えた俺たち(苦労したのは俺だけだが)は、食後のお茶を手にリラックスしていた。
久しぶりで緊張していたむつ姉の部屋は、いつのまにか、まるで自室のような居心地の良さになっている。
俺が風邪気味かもしれないという(間違った)疑念を完全に忘れてしまったむつ姉は、「これ懐かしくない?」「よくやったよねぇ!」とか言いながら、小型のゲーム機を取り出す。
懐かしい話に花を咲かせていると、むつ姉は、ハッと思い出したように声をあげた。
「そうだ! そういえば、ゆっきぃに彼女できたって本当!?」
「は? 彼女?」
若干どころでなく、話が飛躍しすぎているぞ。
「そうだ、そうだよ! 今日はそれを聞こうと思って連れてきたんだった!」
あ。そうだったの?
風邪の心配をしたのは本当らしいが、わざわざ家にまで連れてきたのはそういう理由らしい。
「で。どうなの、どうなの!?」
わくわくと瞳を輝かせられても、言葉を濁すことしかできない。
だって本当に、あのデートは流れで決まったものに他ならないわけだし。
「ええと……デート、は一応するけど、別に彼女とかじゃないよ。ただ連絡先聞かれて、お茶しようって言われただけで。俺自身はあの子のこと、どうこう思ってるわけじゃないし……」
「えーっ! そうなの!?」
「なんか、あんまり必死だったから断れなくて、それで……」
困ったように目を伏せると、むつ姉は天井に向かって、はーっと大きな息を吐いた。
「なぁ〜んだ、そういうことだったのぉ〜」
「恋バナのネタ提供っていう意味では、期待に添えなくてごめん」
「ああ、今のは別に、残念だなぁとかそういう意味じゃなくて。いやさ、もしゆっきぃに彼女ができたらさ、もう気軽に遊んでくれなくなっちゃうのかなぁ〜?って思って。ちょっと心配だったんだ」
「え?」
「なぁんだ、彼女じゃないのね。だったらいいや。ゆっきぃはまだ、私と遊んでくれるんだよね? いやぁ〜、もし彼女だったら寂しいなぁ……な〜んて。でも、いつかゆっきぃにも彼女ができる日が来るんだよね? は〜っ、そしたらどうしよう〜! 私寂しくて、旅に出ちゃうかも〜」
「えっっ。なにそれ」
旅立っちゃうの!?
「えっ。むつ姉がいなくなっちゃったら、俺も寂しいんだけど」
「困るぅ〜!」
えっ。てか。逆に。
今の今まで考えたことなかった自分がクソばかなんだけど、
むつ姉に彼氏できたらどうしよう……!
ってか、むしろ、既にいたらどうしよう!!
「えっ。無理。寂しい。マジで無理」
もうこうやって家に来ることもできなくなるのか?
バイト先で気軽に声かけるのもダメ? 相手が束縛系だったらどうしよう! 何しても殺される感じ?
いや、そんなんじゃなくて。相手のことはどうでもいいんだよ。
むつ姉と話してても、いつも笑顔の向こう側に男の影がちらつくってことぉ?
うわ、それヤダ。すごくヤダ!
「そっかぁ、ゆっきぃも寂しいか〜。じゃあ旅に出るのはやめよう」
「そっちじゃなくて!!」
俺は思わず、隣にあったむつ姉の手首を掴んだ。
「むつ姉ってさ、その……彼氏とか、いるの?」




