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妄想の帝国

妄想の帝国 その57 新公職選挙法(ファクトチェック法)施行

作者: 天城冴

デマ、嘘、印象操作がとびかった前回までの選挙の反省をうけ施行された新公職選挙法、通称ファクトチェック法。施行された直後の解散総選挙で第三政党だったメイジの党は…

ニホン国、西の某大都市。第102代総理による衆議院解散に伴い、総選挙が行われた直後、第三政党だったメイジの党の党首マツイダは選挙結果をみて唖然としていた。

「くそ、第三政党から激減か!与党ジコウ党も度重なる不祥事でかなり議席を減らしたし。中選挙区制で全国比例代表にしたら、メイジの党がとれなくなるのか!確かに前回の選挙でも得票数では共産ニッポンにすら負けていたとはいえ、全国でマスコミ使っていろいろ宣伝したのにいい」

と肩を落としていたところ、

「マツイダ党首大変です、ヨジムラ府知事が逮捕されました!」

秘書ヒトジが飛び込んできた。

「へ?オーサカン府知事で、俺のライバル…じゃない右腕のヨジムラが!それはまたどうして」

「そ、それがその、新公職選挙法違反だとかで…。なんでも、選挙期間中のSNS発言に虚偽があったとかで」

「え?なんだ、そりゃ」

「オーサカン府は看護師が減っているのに増えたとか、国産ワクチンを確保したとか、高校無償化かとか。それが全てファクトチェックしたら虚偽だと判明したとかで」

「そ、それぐらい、前回の選挙ではなんでもなかっただろ。国民だって気にしてないだろ!」

「そ、その前回の選挙で、“選挙期間中にいってた公約破りまくっているだろ”とか“嘘の情報流して他党を貶めて票減らさせたのはズルイ”とか、わが党もだいぶ批判を受けまして、そのため、国民からの強い要請で、ファクトチェック法、すなわち新公職選挙法が成立したわけで…。メイジの党も法案成立に賛成したはずですが」

「それは、そうだ。そうでないと野党側として変だろとか言われたからだ!第一、俺らの党でもファクトチェックやってただろ、それはどうした!」

「自分とこの批判意見を封じる、脅すためだろ、と当初から評判悪くて、ファクトチェックになってないって、結局閉鎖させられたじゃないですか」

「そ、そういえば、そうだったな。…し、しかし、テレビでさんざん放映してたじゃないか、ヨジムラたちの発言は。別にクレームは入らなかっただろ」

「その、在西メディアでわが党ヨイショ…ではなく好意的なところはすべてファクトチェックされて、虚偽報道疑惑がもちあがり、各局は放映権停止の危機に陥っています。そのため、幹部やら番組スタッフやらが刷新されるとのことで、そうなるとうちの党贔屓の奴らは左遷、降格、へたすりゃクビ。逆に批判的な連中ばかりに」

「よ、ヨジモト興業はどうした!ヒトジ、お前の古巣だろ!」

「ヨジモトは、社員というか芸人が、その、わが党やら与党よりの奴らがすべてひっかかりまして、SNS停止されるとか、番組を干されるとか、はては警察に任意同行までされた奴がいるというこです…。後輩の芸人たちがその、ヨジモトはもう潰されるって、泣きついてきましたし」

「こ、広告会社の便通は!あそこは大きいし、現政権も利用してるだろ!」

「与党のデマ発言をそのまま各社の広告に載せた件ほかで家宅捜索中です。パワハラ、セクハラ体質改善してないので労基署も合同ではいったそうで」

「ひょ、ひょっとして、ジコウ党や俺らの党とつるんでたとこ全部やられたのか!ま、まさか悪徳派遣会社といわれるダソナのダケナカも」

「選挙のコンパニオン派遣の際の虚偽の求人募集やら労働条件の誇張、選挙費用の誤魔化しに加担、そのほかもろもろで、アワジジ島の本社のパソコンが持ち出されたとか」

「ぎょえええ、ま、まさか、選挙にかこつけて、今までの全部を明らかにするつもりか!今までのモリモリカケカケ疑惑の土地の問題に俺らの会社が関与したとか、新型ウイルスの時の持続化給付金でダソナを下請けにして旨い汁吸わせて云々とか、そ、それもバレて」

「そ、その件もありますが、まずは新公職選挙法違反の件です!こ、これにひっかかりますと、連座制で、わが党の議員の数が一気に半減、下手するとゼロに」

「ひいいい!そ、そんな馬鹿な。ヨジムラだけだろ、ひっかかったのは!」

「いえ、その、選挙中、口をすべらせたのか、“共産ニッポンはテロ集団”とか言い出した候補とか、実績を書いてチラシにした選挙スタッフとか」

「実績を書いたのが、なんでダメなんだ!」

「半分はレイワン新進組と共産ニッポンが提出した政策でして、うちの党の実績じゃないんです。半分は実現してないか不完全なところなんですうう…。つまりデマ」

「そ、そいつらは自業自得だろうが、な、なんで全員なんだ」

「言いにくいんですが、マツイダ党首ご自身のご発言も、その」

「お、俺が」

「高校無償化とか身を切る改革とか、嘘ではないかと。オーサカン府も市も高校無償化にはなってないとか、その市長時代の給与は減らしたけど、退職金は増やしてプラマイゼロ、つまり身を切っていないとか。前回の選挙での府と市の財政調整基金が減ってるのに増えたような発言をしたとか」

「そ、そんなことがダメなんて。前回の選挙ではおとがめなしだったろ」

「嘘は嘘だと。かなり前の分裂するときに政党助成金を返さず、そのままこっちの金庫にいれたとか、メイジ党議員が自分で文書通信滞在費の領収書を自分で作ってたとか、メイジの党に寄付してちゃっかりメイジの金にしたとかいうことまで」

「それは今の選挙とか関係ないだろー」

「そ、それが“以前の誤魔化し、虚偽を訂正せず、隠蔽していないのは悪質”とかで」

「い、いったい公職選挙法違反だとかいっているのは誰だ!選挙管理員会の奴らか!チクショー、オーサカン黄泉瓜テレビだのに働きかけ、いやオーサカンに住めなく…」

「ですから、うちの党の贔屓してくれたメディアは全部抑えられたんですってば。それにそういう脅し、いや物言いは通じません、AIですから」

「は?」

「今回、ファクトチェックが膨大ってことで、ニホンが誇る第二位のスパコン富岳がやってるんだそうです。新スパコン京令が運用始めたんで、富岳は政治関連のデータチェックに使うって。解散前の国会でも取り上げられてたんですが。うちの党も賛成にまわってますよお」

「AIには何言っても無駄か、ヨイショも睨みもつうじないのか!当たり前だな、機械だもん。し、しかし、ま、まさか、こ、こんなことになるとは思ってなかったんだー」

「そこがうちの党のアホなとこ…いえ、選挙不正を見逃さない政策をとるというのは野党として当然ということで賛成したのがまずかったんです。ジコウ党が引っ掛かってくれればと、実際、ジコウ党の議席はかなり減るらしいですが」

「し、しかし、俺らだって新公職選挙法のファクトチェックには警戒してたはずだろ!俺らのファクトチェックは閉鎖したが、前代表ハシゲンさんが顧問としてやってくれたはず」

「そうですが、なにしろハシゲンさんなんで、チェックが甘いというか。本人がトーク番組の発言をチェックされて論破されました。そのほかTNBS番組で自分に有利な編集させて野党党首を貶めたってことで番組スタッフともども事情聴取受けてます、強制のやつ」

「あ、あの人まで引っ張られたとは、ど、どうすりゃいいんだ」

「に、逃げますか」

「そ、そんなことできるか…いや、そうしたほうがいいのか」

“はい、そこまでです”

と部屋のドアが開いた。にこやかな顔の中年男性が何人か入ってきた。

“マツイダ党首、今回のメイジの党の公職選挙法違反でお話を伺いたいです”

「な、なんだ、お、お前らは」

“私共は新選挙管理委員会実働部隊です、おとなしく投降してください”

腕をつかまれたマツイダは思わず

「なんだと、この野郎」

振りほどこうとしたが、逆に

「イテテエエ!お、お前」

腕をねじあげられ、おさえつけられてしまった。

“私共は人に似せて作られた超高級アンドロイドです、人の皮膚そっくりですが。遠隔操作で動いております。なにしろ過激な抵抗をなさる方、懐柔しようとする方もおりますので。試験採用として実働部隊に配属されました。成績により本採用になりますんで、成績向上にご協力を”

「AIとかいって、かなり人間的じゃねえか」

“それでも嘘やデマは言えません。いや、ミヤコ構想の住民投票の時のデータを閲覧しましたが、住民投票で都になるわけでないのに、あたかもなるような印象操作、そのほかもろもろ。あのような嘘八百はとても私共AIには無理です。論理矛盾で回路が壊れそうですし”

「そ、そんな昔のことまで」

“つい数年前のことですよ。そうか、そんなに記憶力がないので、嘘がついても平気なんですかね。記憶力がよいほうが嘘をつけるというデータはあるのですが、ニホン国では異なるのでしょうか。富岳のほうにデータを送って解析すべきですかね”

「ごちゃごちゃいってないで、離せ」

“いえ、お連れします。あ、秘書の方はどうしましょうかね”

「え、わ、私ですか。わ、私はただの下っ端です」

ブルブル震える秘書ヒトジを実働部隊の一人がチェックした。

“データ照合…。確かに秘書ですが、最近雇われた人ですね。前の人はすでに確保して、今いろいろしゃべってくれてますから”

「じゃ、無罪放免ですが」

ホッとしたような秘書ヒトジに向かって、どなるマツイダ党首。

「き、貴様、一人だけ逃げる気かあ!こ、殺してやるう!」

“本当に乱暴な方ですねえ。やはり我々が来てよかった”

とさりげなくマツイダ党首の首筋に手刀を叩き込む実働部隊。あっけなく気絶したマツイダ党首を背負い、関係書類やらパソコンを担ぎ上げて出て行った。

 一人残された秘書ヒトジ。

「ああ、まったく、どうしようもないな。自分とこがヤバくなるような法案通しちゃったからなあ。まあ、実はメイジの党はミンミン党にも共産ニッポンにも得票は負けてるんだよね、前回の選挙も。選挙制度に欠陥があるからとメディアにヨイショされてデマ吐いてもおとがめなしだったから勝っただけで。ファクトチェックされて、そのうえ、次は選挙改革も言われてる。一部に有利な小選挙区制を改革されて全国比例、中選挙区制にしたら、自分の首絞めるって、なんでわかんなかったんだろうな。ま、秘書を次々変えるし、芸人上がりのオレをいれるようなところだからかな。早いとこオレも退散するか。…実働部隊のやつらが根こそぎもっていったから、今月の給与も退職金もナシか。仕方ない、捕まるよりマシだ」

と、独り言をいいながら部屋を出た。


どこぞの国では得票数が少ない政党でも第三政党だとか、誤情報を訂正せずに選挙中にいいまくったとか、討論番組で代表の発言を大幅削りとか疑惑てんこもりだそうです。これで民意反映とか言われてもねえ、と言いたいことはかありますが、まずは市民側の意識も大事かもしれませんね。少なくとも数年前にどの党が何やったかとか覚えておいた方がいいんじゃないのかなあ。あと何々党のは綱領とか長すぎとかいう批判もありますが、グローバル社会でそれ言ってると契約時に足元みられて大損とかありえますよ、英文とかすげー長いし、何気にきっちり理解しとかないとヤバい文言が盛り込まれてるらしいですから。

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