恥ずかしい検索履歴
「むしゃむしゃ。もちゃもちゃ」
「……お姉ちゃん? それ何を食べている音?」
いや、焼きそばを食べているんだけど。
お姉ちゃんはどこからかそんな声を発した。
「てんちゃんを笑わせたくてやってみた。どう?」
「どうって言われてもな〜」
今のどこに笑うポイントがあったのか謎である。
さては、お祭りムードに飲まれちゃってるなー。
気持ちが高ぶると、そんなよくわかんないことをやってしまう気持ちも、まぁある程度はわかる。
だけど。それほど今の時間を楽しんでるんだなって、嬉しい気持ちにもなる。
私も、かなり楽しんじゃっているけど。
舞台のダンスとか眺めながら、こうしてゆっくり過ごす時間は心地がいい。
「まぁ。面白かったかなー。何でそんなことしたの?」
「笑わせたかったから」
「なるほど?」
頷く。
結局何もわからない。
私は、焼きそばに向き直り食事を再開する。
美味しい美味しい。
※※※※※※
「ごちそうさまー。美味しかったね」
「うん。美味しかった」
焼きそば美味しかった。
たこ焼き美味しかった。
かき氷。水だった。
「あ。てんちゃん。私、捨てにいってくる。さっき持たせちゃったし」
ごちそうさまをして、ゴミをまとめているお姉ちゃん。
かなり気のきいたことを言ってくれる。
結構お腹いっぱいになっちゃって、動けなかったしめっちゃありがたい。
「お! やさしー!」
遠慮もせずに、食べた後のパックをビニール入れ、お姉ちゃんに手渡す。
「いってくる」
「頑張ってー!」
両手にゴミ袋を持ったお姉ちゃんを目で見送る。
もう七時。
真っ暗では無いけど、夕日が出ていた。
私は冷たい長机に、腕を枕にして顔を横に倒す。
あと一時間で花火かと、少し残念な気持ちになる。
もうすぐ、この楽しい時間も終わってしまうのだ。
どうしようかなー。
というのも、お姉ちゃんとどうするかについてだった。
どうするか。それは、告白のことだ。
もちろん今日は告白しない。
だから。今後、いつ告白するのかが問題だった。
いつでもいいんだろうけど。今日のようなムードは必要なものだろう。
じゃあ、再来週の街の方のお祭りとかがいいかな?
うーん。それか、明日とかデートに誘ってみたり……。
私は、あることを思いつき、
頭をむくりと机から起こして、無意識的にスマホを操作する。
「『女の子同士 デート』っと」
インターネットでそう検索をしてみた。
そもそも私は、デートというのをよくわからない。
明日デートに誘うときのために調べとこうと思ったのだ。
数秒の読み込み時間を経て、出てきた検索結果に目を通した。
ふむふむ。なるほど。何も分からない。
そもそも、『女の子同士』というのが特定的なのかもしれない。
検索方法を変えてみよう。
『デート 何をする』
こんな小学生みたいな検索方法でちゃんと出るかな。
えっと。
……手を繋ぐ。
これはやったけど……。
どういう記事かな?
『初デートの締めは恋人繋ぎ!』
へー。そんなのあるんだ。
恋人繋ぎ。存在すら知らなかった。
恋愛の勉強もしなきゃな。
それはともかく、恋人繋ぎとはどのようなものなのだろう。
と、再び調べてみる。
『恋人繋ぎ』
えっと。記事じゃなくて。
画像画像──っと。
「えっ」
私は、そこに出てきた画像に思わず驚愕した。
なぜなら、そこに写った画像は、いつも私たちがしている手の繋ぎ方だったのだから。
一瞬思考が停止してしまう。
あれ?
お姉ちゃん、もしかして知っててこれを?
恋人繋ぎ。……つまり。え?
もう恋人だった?
いや、それはさすがに無いけど。
待て待て。私は今、パニッている。
ちょっと冷静になろう。
「スーハー。スーハー」
うん。よし。
やっぱ、お姉ちゃん……。絶対知っててやってた。
知らない私が馬鹿だったかもしれないだけかもだけど。
でも確かに、あの繋ぎ方は親しい人同士がしそうな印象だし、ちょっと違和感があった。
「……まじか」
思わず漏れる。
だって。ねぇ。
今まで当たり前のようにしていた、手の繋ぎ方の名称が『恋人繋ぎ』だもん。
そりゃあ驚いちゃうよ。
「まじかって何が?」
「わ」
後ろから声が飛んできて、肩が震えた。
反射的に振り返る。
「お、お、おお、お。お姉ちゃん!」
何を言えばいいか戸惑った私は、
「こ、これ!」
私はさっきの、こ、恋人繋ぎの画像をお姉ちゃんに突きつけた。
「恋人繋ぎって、知ってたんでしょ!」
「逆に知らなかったの?」
と、すぐに反論を食らってしまった。
お姉ちゃんの方が、どこか驚いた様子。
「……え」
「てんちゃん、スマホちょっとみせて」
「あ、うん」
流れるように何故か私のスマホを取り上げるお姉ちゃん。
私に画面を隠しながらちょちょいと指を動かし出す。
「お姉ちゃん? なにしてるの?」
「……てんちゃん。ふーん。へー」
んー。本当に何してんだろ。
スマホの画面を見て、ニマニマしている。
……。
嫌な予感がした。
「さ、さては! み、見せろー!」
「やだ。──あ!」
無理やり取り上げ、その中身を確認する。
……やっぱり。
履歴を見られていた。
その事実に赤面していくのを感じる。
だって『デート』とか『恋人繋ぎ』とか調べてるのがバレたから。
……そこまでなら、そんなに変じゃない?
いや。待て。
……私、確か。
昨日? 一昨日?
そのどっちかに、キスに関して調べたような……。
い、いやー。流石にね。気のせいだよね。うんうん。
現実逃避をする。が、
その答え合わせをするかの如く、お姉ちゃんがゆっくり口を動かしてこう言ってきた。
「てんちゃん。その、キスしたいの? しかも『女の子同士 キス』って……」
「わぁぁぁぁぁ! やめて、やめて、やめて! 私を殺さないでぇ‼︎」
ブルーシートの上で、私は叫びながら、浴衣が汚れることなんて御構い無しに転び回った。