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わたあめ

 会場には既に多くの人がいた。

 堤防沿いから見下ろしたその場所は、以前見たがらんとした場所とは思えないほどに、多くの屋台が立ち並んでいて栄えていた。


 あたりを近所の小、中学生が楽しそうにはしゃぎ回っていて楽しそう。

 こんな早くからそんなに騒いでて、最後まで持つのか少し気になるところではあるけど。


 手を繋いだままの私たちは、コンクリートの割と急な階段を降りる。

 草履が脱げそうなので、一段一段、着実に降りて行った。

 地面へと足をつけ、改めて、お祭りの会場にやってきたのだと実感する。


「ついたついたー」

「うん。ついた」


「……何する?」

「なんか食べたい」


 くいしんぼーだなー。

 なんて、心の中で思って。

 お姉ちゃん、お昼ご飯はそんな食べてなかったなと思い返す。


「とりあえず、回ってみよっか?」

「うん」


 そういう提案をするのだった。



※※※※※※



「てんちゃん。ここ」


 適当にぶらついて、そしたらお姉ちゃんが不意に、私の浴衣を引っ張る。

 見れば、お姉ちゃんは一つの屋台を指していた。

 その指から出る、見えない線を辿って、そこに目をやる。


「あ。綿あめ屋さんだ! お姉ちゃん好きなの?」

「うん。好きだよ」


 好きだよ。

 うん。綿あめね。わかってるわかってる。


 誰も並んでいないっぽいのでラッキーって思いつつ、その場へと向かう。


「あの。二つください」


 奥で何かを作業している店員に呼びかけた。

 別に味とかはないっぽい。白いやつだけだと思う。

 一つ100円。めちゃ安い。


 私は巾着を漁り、小銭入れから200円を取り出し、カウンターの上へと置く。


「はいはい。二つね。ちょっと待っててね」


 おばさん店員にそう言われる。

 割り箸を、綿あめメーカーみたいなのに入れてグルグルと巻き始めた。

 オレンジ色のプラスチック製のケースから見える綿あめが大きくなっていく様は、いつ見てもなんか楽しい気持ちになる。


「はい! 二つ! お待たせ! 200円しっかり頂きました!」

「あ。ありがとうございます」


 それを受け取って。

 後ろに突っ立ってるお姉ちゃんに大きい方を手渡した。


「ありがと」

「うんうん。じゃ、早速」


 屋台から少し離れたところで綿あめをペロリと舐めてみる。

 お姉ちゃんもそれに続くようにかぶりつく。


 ふわりと溶ける綿の感触。

 ザラザラと触れる、甘くて柔らかい砂糖。

 すっごくあんまーい。

 でも。


「美味しいね! お姉ちゃん!」

「うん。すごく美味しい」


 笑顔を向けると、お姉ちゃんもつられるように笑って言った。


 そして、綿あめに顔を隠す様にしながら、


「えへへ。来てよかった」


 恥ずかしそうに。

 それでいて本当に嬉しそうに、そう零すのだった。

 ……可愛すぎる。


「私も、来てよかった!」


 お姉ちゃんの無邪気な笑顔。

 それを見れて、今日は間違い無くいい日になると思う。


 でも。だんだんと、私の中の何かが疼く。震える。


 すぐ食べ終わって、ゴミ箱にポイした。

 お姉ちゃんは、綿あめがなくなった割り箸をぺろって舐めて「美味しい」と言ってから捨てていた。

 結構、いやしんぼなのかな。

 偏見だけど、お姉ちゃんは二個入りのショートケーキのフィルムをぺろぺろ舐めるタイプだと思う。


「てんちゃん。どうしたの?」


 不思議そうな顔で問われる。


「いやーあはは。可愛いなーって」

「ほんと?」

「……うん」


 ショートケーキのフィルムをぺろぺろと舐めてそう、だなんて口が裂けても言うことができず、思わずこう答えてしまう。


「へー! てんちゃんも可愛いよ」


 不意打ちをくらう。

 またまた無邪気にそう言われた。

 上半身をちょっと曲げて、上目遣いで。

 こういうところが、ずるい。

 今度こそ可愛いなって思ってしまった。

 お姉ちゃんは、この夏祭りの雰囲気にすっかりあてられているようだ。

 でも。私もかな。


 そういえばお姉ちゃんのこと、ずっと可愛いって思いっぱなしだ。

 ……前まで、私がお姉ちゃんに可愛いってずっと言われていたのに。

 うん。実際可愛いし、


「まぁいいや」


「……なにが?」

「あ。ひとりごとひとりごとー」


 そうやって誤魔化して、また手を繋ぐ。

 目的地も特に決めずに歩き出す。


 明日になったら、今日という日が間違いなく恋しくなる。

 昨日に戻りたいって思う。

 それは毎年思うこと。

 だから、それを自覚している今の内にめいっぱい楽しもう。



もうすぐ終わりそうです

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