つきはきれい
「お姉ちゃん! ほんっとに何やってんの!」
モールの外でお姉ちゃんに説教をしている今。
両手に服の入った袋をぶら下げたお姉ちゃんは、申し訳なさそうに地面を見つめている。
「ご、ごめん。……だって、可愛すぎたもん」
「だからってさ……」
そんな悲しそうに言われて、すぐに熱が冷めてしまう自分が情けない。
でも。
せっかく遊びにきたのに、お姉ちゃんも怒られるなんて受け付けないだろうし。
まぁ……。
「まぁ。今回は許してあげる」
説教時間。
およそ十秒。
※※※※※※
その後はなんだろうか。
いっぱい語ることはあるのだけど、いっぱいありすぎて、どれから語ればいいのか。
まず、一緒にオシャレっぽいカフェに行って、お昼ご飯はオムライス。
水族館に行った時もオムライスだったけど、私はオムライス大好き人間なので、また食べた。
それで次は、初めてのプリクラを撮った。
ゲーセンの中にあるやつで……たしか、中学生でゲーセン入るのは校則違反だけど、撮ってみたい欲が勝ってしまった。
映画も見たかったけど、見たいのが無かった。大人向け作品が多かった。
……後は、モール内を探検したかな。
お化け屋敷とかあったみたいだけど、怖いの苦手だしやめといた。
それに。暗闇のなかで、お姉ちゃんにセクハラされる未来が私には見える。
まぁ。今日の収穫は、プリクラとお姉ちゃんが選んだ服かなー。
服は収穫なのか。
あのメルヘン服を収穫と言ってもいいのか。
……他にも色々買っていたみたいだし、それには期待しておこう。
なんて思いながら、私たちは夕日に晒された堤防沿いを歩いて、帰路に就いていた。
「あぁ〜。今日は楽しかったね! ……あのメルヘン服事件はいただけないけど」
夕方五時半。
夏というのはこんな時間でもかなり明るい。
夏のこの時間は、なんというか子供にとって凄く楽しいというか、キラキラ眩いてる時間というか、そんなのがある。
子供の私がいうのもなんだけど。
「そうだね。でも、足疲れた。……そういえば、人生初のプリクラだったね」
荷物を大量にぶら下げ、八尺様ファッションのお姉ちゃんが、しみじみと言ってくる。
荷物、重そう。
「うん。あの空間、なんか照れ臭かった。『じゃあ、次はキメ顔〜』って、どこからか飛んでくる謎の声に言われても、なんやそれって感じだった」
「あはは。確かにね」
バッグから、取り出してそのプリを眺めてみる。
結局、ほとんどピースしかしてない。
ピースしかしないっていうのは、プリクラ初心者あるあるだよね。多分。
あ、でも、お姉ちゃんのこのクシャってなった笑顔、ちょーかわいい。
部屋に飾っておこうかな。思い出として。
「明日はどーする? お姉ちゃん」
顔だけをお姉ちゃんに向けて問う。
その帽子を被って、夕日に照らされているのはやっぱり絵になるなー。なんて。
「遊びに行こう」
「遊びすぎだぞー。明日は宿題の日!」
「……じゃあ、なんで聞いたの」
「えへへ。なんて言うかなーって」
「……いじわる」
「ごめんごめん」
例によって……例によって?
まぁ。いつも通りに適当に謝る。
ちょっとだけ笑いを込めながら。
雑な謝り方をした時って、お姉ちゃん決まってぷすーってなるんだよね。
それを拝むためにこんな謝り方をしているまである。
……あ。やっぱり、今回もほっぺたふくらませてる。可愛いなーもう。
……と。
そんなお姉ちゃんの背景にあるものに、ふと目がいく。
「あ。月が出てる。まだ明るいのに」
その言葉につられるように、お姉ちゃんも私の目線の方向を見た。
堤防なので邪魔するビルなどはなく、その存在は把握しやすい。
「ほんとだ。月だね」
お姉ちゃんがうんうんと頷く。
こんな時間にも月は出るんだなーと思いながら、その月を、見たままの率直な感想を私はつぶやく。
「綺麗だね。満月じゃないけど」
「……うん。綺麗。とっても。……とっても」
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