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ミズキの花は枯れていない

 家に帰って、部屋に戻って。

 私は案の定、泣いてしまった。

 暗い部屋でベッドに潜って、本当の意味で枕を濡らす。

 嗚咽するのを耐えながら、毛布に抱きつく。

 震えが止まらない。

 多分、これを一時間は続けている。


 私の中の花は、まだ枯れていない。

 でも、枯れそうで怖い。

 あの状況を思い返すだけで、涙がまたこみ上げる。

 これから、どうしよう。

 どうすればいいの。……わかんないよ。


 スマホが震える。

 『ご飯一緒に食べる?』と、メッセージが届いていた。

 返信する気力もない。

 今頃、てんちゃんは家族仲良くご飯しているのだろう。


 ……ふと、気になった。

 てんちゃんの普通の基準は家族って言ってた。

 だから私にキスすることを認めてくれた。

 ってことは自分の母さんとかとキスしたりしてるってこと?

 もやもやするけど……そんなことないよね。さすがに。


 悶え続ける。

 それから、数十分経ったくらいだろうか。

 唐突に、部屋のドアがコンコンと叩かれた。


「お姉ちゃん? 起きてる?」


 その声に、私の体がビクッと震える。

 てんちゃんの声だ。

 でも、今は合わせる顔が無い。

 結局まだ、ぐちゃぐちゃなままだから。


 私は、物音を立てぬように、その場にじっとした。

 ……早く帰って。


「……入るよ」


 ガチャリと。

 ドアを開ける音がする。


 不法侵入してきたぞ、この人。


 ……だけど、布団を被っているから。

 動かなければいい。


「お姉ちゃん。……やっぱり、寝てるよね」


 ぽつりと呟く。


「お姉ちゃん。ううん。みっちゃん」


 私が寝ていると認識している筈なのに、てんちゃんは話す。

 独り言。なのかな。


「みっちゃん。明日からは普通の家族だから」


 ……何を言ってるの。

 今日のキスとかは、もう明日からしないってこと?

 寝ている筈の私にそれを言っても意味がない気がするけど……。


 そう思っていたら、足音がこっちに近付いてきた。


 気配が、すぐそこからする。

 てんちゃんがすぐそばにいる。


 毛布がガサガサと音を立てる。

 体が軽くなったと思ったら、毛布がてんちゃんに剥がされていた。


「ごめんね。寝ている時にずるいと思うけど──。……あれ? みっちゃん起きてる?」


 あ。ばれそう。

 息を殺さないと。


「……」

「……鼻呼吸、荒いよ。……はぁ。なんだ、起きてたんだ。まぁいっか」


 ちょっと待って。

 まぁ良くないよ。


 涙は止まっていた。だけど。多分、顔は汚いままだろう。

 でも、気になる思いの方が上なので、私は体を起こして問う。


「何しようとしていたのか、詳しく」

「……なんでもないよ」


「夜這い?」

「ち、違うから! 一緒に寝ようかなって思っただけ」

「それ。夜這いじゃ」

「……ぬっ。確かに」


 嬉しかった。

 夜這いで嬉しくなるのは、どう足掻いても変態だけど。


 だって。私と一緒にいたいって、てんちゃんはそう思ってくれているから。

 さっきまでの不安が、まるで嘘のように吹っ飛んだ。


「……私、てんちゃんと一緒に寝たい」


 そう言ったら、てんちゃんは暗闇の中で優しく微笑んだ。


 その笑顔は、私の中に咲いている花の延命剤のようだ。

ハナミズキの花言葉は、「私の想いを受け取ってください」

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