花を枯らさない様に
この回から瑞樹主観になります
視点変更しすぎて、読者に伝わっているか心配……
電車に揺られながら、私はスマホに取り付けたウナギのキーホルダーを眺めながら、ニヤニヤする。というか、自然とニヤニヤしてしまう。
電車には夕日が差し込んでいて、もうすぐ日が落ちそうな時間だ。
てんちゃんは、いつの間にか寝ている。
その可愛い顔に触れたくなるけど、私の理性がそれを阻止する。
……結局。告白できなかった。
というか、告白できないで良かった。断られていたら、きっと安心感を求めるどころか、もう関われなくなっていたはずだから。
普通に楽しかったから、それでいいや。ってそう思える。
告白は焦る必要はない。まだまだ時間があるから。
……でも。告白したいなぁ。
そもそも。告白って何を言えばいいのかな?
好きです。はもう言ったし。
彼女になってください。はなんか嫌な感じだな。
恋人になってください。が無難なのかな。
「恋人に……なって」
試しにつぶやいてみる。
あ。これ恥ずかしい。
無理だ。
世の中の告白する人の勇気というものは、凄いなと思う。
その人と結ばれたいと心の底から願うから、告白をするのだろうけど。
それで振られたりしたらどうなるんだろうな。
最近思うけど、恋というものは、まるで花のようだ。
毎日毎日、一生懸命に育て続けて。
それなのに、育てるのをやめたら、すぐに枯れてしまう。
そして、しばらく経てば新しい種を植える。
また毎日毎日育てて、自分の中で新しい恋という花を大きくする。
それを繰り返して、最終的に長寿の花を見つけるのだ。
もちろん、一回目で長寿の花に出会える人もいるだろう。
私は、この数日間でてんちゃんへの想いという花を、一生懸命に育て続けた。
と言うより、一人でに育っていた。それも急速に。
もう、花は咲いている。枯れることは、多分ない。
それなら別に、自らてんちゃんに告白して、振られて、花を枯らす必要なんてない気がする。
だけど。やっぱり、告白をしたい。と結局行きつく場所はここだった。
告白をする人の気持ちを少しだけ理解した気がする。
好きな相手とのより良い未来を描いて、それをどうしても手に入れたくて、だからどんなに不安でも告白をしてしまうのだろう。
そんなことを考えていたら。
いつの間にか、目的地の駅だった。
「てんちゃん。朝ですよ」
てんちゃんの肩をユッサユッサと揺らす。
……肩も、凄く柔らかい。
もう少し強く握ったら、崩れてしまいそうな触り心地だった。
「んぁ? もう着いたの?」
「うん。あと一分くらい」
「ふあぁー。凄い寝た気分だよ」
「うん。永眠しそうなくらいスヤスヤだった」
てんちゃんは目をゴシゴシしながら私を半目で見る。
……可愛い。可愛い。可愛い可愛い。
「じゃあ、停車したし出ようよ、てんちゃん」
「ふぁーい」
手を繋ぐ。
今日だけで何時間、手を繋いでいただろうか。
とりあえず、沢山だ。
やっぱり、手を繋ぐって良い。
安心する。相手を独り占めにしてるみたいだ。
「てんちゃん」
駅から少し歩いたところで、名前を呼ぶ。
「なーに?」
まだ少し眠たそうな声で、てんちゃんは聞いてくる。
私は決意する。
もう、後戻りできない。
口から出る言葉を抑えようとしても、もう遅かった。
「話があるの。公園いこ」