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劇的なことは起こらない

「あ。お姉ちゃん、おかえりー。お腹大丈夫だった?」


 私は何とか、お姉ちゃんが帰ってくるまでに心を穏やかにさせた。

 てくてくと、ベンチに座っている私の方へ歩み寄る。


「あ、うん。大丈夫。お待たせしました」


 お姉ちゃんの様子は、どこかもじもじとしている。

 ……まだ、おしっこを我慢してるのか、何なのか。


「本当に大丈夫?」

「う、うん。まぁ」


 お姉ちゃんはどこか落ち着かない様子だ。

 大丈夫じゃなさそうだけど、本人が大丈夫っていうので、まぁ、そういうことにしておこう。


「そういえば、お姉ちゃんがトイレいる間、心配で様子をたずねようと思ったんだけど、そういえば連絡先交換していないなってなって」

「連絡先交換しよう。ってこと?」

「うん。そうそう。さっきから察しがいいね、お姉ちゃんは」

「さっきから?」

「……なんでもない」


 バッグの中からスマホを取り出す。

 お姉ちゃんも同じくスマホを取り出した。

 メールアプリを開いて、コードを読み取って連絡先登録する。


 えっと、お姉ちゃんのアイコンは……何も設定していない。

 ……私のアイコン、マイメロなんだけど。

 なんて思われてるのかな、私。子供っぽい?

 まぁ、いいや。


「よっし。連絡先交換できたね。これで、どんな時でもメールできるわけだ」

「うん。それよりもてんちゃん。もう、イルカショー始まるよ?」

「うわっ! ほんとだ! 早く行かねば!」



※※※※※※



 席は割と空いている。

 前の方は、水がかかりやすいという注意書きがあるので、前とは距離をとって、真ん中くらいの位置に陣取った。


 少し談笑して、突拍子もなくお姉ちゃんが私の手を握ってきたので、私も握り返す。

 少し涼しい風がその場所には吹いていたけど、お姉ちゃんの手はちゃんと暖かかった。なんというか、暖かくて温かい。みたいな。


 そして、待ちかねていたイルカショーが始まった。

 飼育員の指示通りに動くイルカは、人間の言葉が分かってしまうのではと思えてしまうくらい指示通りに動く。

 イルカは大変だなって、謎の同情をしながら眺める。

 けど、私はなぜか意識が散漫して、あまりショーに集中できなかった。


 その後は、レストランでお昼を食べた。

 一緒に、水族館限定のオムライスを頼んだ。

 普通に美味しい。水族館限定とか書いてるけど、ただのオムライスだ。これ。


 次は、また水族館を歩き回った。

 水中トンネルみたいになっている場所は、私の限られた語彙力でその場所を表すとするのならば、なんか凄かった。

 クラゲが沢山漂っていて、お姉ちゃんは嬉しそうな顔でそれらを眺めていた。

 クラゲって可愛いかもしれないけど、刺されたら絶対トラウマになるよな、なんて夢のないことを私は考えていたけれど、お姉ちゃんを悲しい顔にさせたくなくて口に出さないように我慢する。


 そして、最後にはデンキウナギを見た。

 お姉ちゃんは幼い子供達に、それはそれは見事に擬態していた。

 放電する(さま)に、驚いて。それを通して電気が付く様にも驚いて。

 お姉ちゃんの、こんなに幸せそうな顔は、きっとここ何年かは、お父さんは見てないのだろうと、そう思った。


 そして今。

 お土産を買った。

 イルカのキーホルダーと、ウナギのキーホルダー。

 お姉ちゃんが買ったのはもちろん後者。

 ウナギのキーホルダーってなんだよって感じだけど、まぁつぶらな瞳で可愛らしい。

 ここでの思い出にと、スマホに取り付ける。

 それを見せ合って、私たちは意味もなく笑い合う。


 これが、水族館での出来事だった。

 何も起こらなかったけど、楽しい一日だったと確信する。


 多分だけど、暇さえあれば手を繋いでいた。

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