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瑞樹の苦悩

 てんちゃんとはあれ以降、特に何もなかった。

 風呂から上がったてんちゃんは、チャチャッと部屋に戻り、部屋にずっとこもりっぱなしである。

 何をしているのだろう。

 そんなに私と関わりたくないのか。

 ただただくつろいでるだけなのか。

 ……昨日みたいに、沢山てんちゃんに求めたいのに。


 今日は朝ごはんも一緒に食べていない。

 もう16時。お昼ご飯はまたカップ麺だったけど、その時にさえ、てんちゃんの姿はみていない。

 これからずっと楽しい日が続くと思っていたのに、てんちゃんは私に飽きたのかな。


 ……寂しい。

 てんちゃん。私に安心感を与えてよ。

 それとも怒ってるの?

 私が一緒に風呂に入ろうって言ったのは間違いだったの?


 虚無感が私を襲う。

 顔を布団に埋める。

 この事について考えれば考えるほど、私の心は傷んでいくような気がする。


 今の状況は、てんちゃんが来る前と何も変わらない。

 胸がザワザワする。

 この気持ちはなんていう名前なのか。

 多分これは「不安」という名前だ。

 嫌われてないか、飽きられていないか、とにかく不安になっている。

 だから胸がこんなにもざわつく。


「……てんちゃん。構って……」


 だけどその時、私の声に反応するように、ドアをコンコンと叩く音がした。

 てんちゃんだとすぐに気付き、反射的に顔を上げる。


「お姉ちゃん」


 ドアを隔てた向こう側から声が聞こえた。

 その声に導かれるように、私は足を運ぶ。

 息を飲んで、ドア開けたすぐそこには、若干のはにかみ笑顔のてんちゃんがいた。


 心が高揚する。

 てんちゃん、笑っている。

 私は嫌われてないんだよね?


「ねぇなにしてたの」

「あははー。宿題してたらいつの間にかこんな時間だよー」


 宿題をしてたのか。

 本当に、本当に安心した。

 何かが心の底から湧き上がってくるけど、それを抑える。


「てんちゃん。酷いよ」

「え!? 私、変なことしたかな?」


「ねぇ。ハグさせて」


 てんちゃんの問いを無視して、私は求める。

 てんちゃんは「え、無視」と呟いて。

 一瞬何かを考えてから、首を縦に振った。


「ん。いいよ」


 何も言わずに、てんちゃんに飛び込む。

 焦らずに、慌てずに。


 私は、私自身を充電するように、両手をてんちゃんの背中に回して、ぎゅっとする。


 あぁ。安心する。暖かい。

 てんちゃん、本当に柔らかい。

 

 だけど、てんちゃんの手は、ぷらーんとしているだけだ。


「抱き返して」


「もう。お姉ちゃんは妹?」


 そう言って、渋々ながら軽く私の背中に手を回した。

 てんちゃん可愛い。

 てんちゃんの耳、真っ赤っかだ。


「よし! 終わり!」


 強引に離れられる。


「酷い」

「まぁまぁ。とりあえず晩御飯たべよう! 今日は私の料理を振舞ってしんぜよう」


 まだ16時でご飯は早いと感じるけど、てんちゃんの手作り料理は食べてみたい。


「わかった」

「では、下に行こ──ぎゃっ」


 少し物足りなかったので、ちょぴっと抱きついて直ぐに離れた。


「お姉ちゃん。いきなり抱き着くのは良くない。びっくりしちゃう」

「ごめんなさい。次からは言う」


 てんちゃんから離れたくない。

 この気持ちはなんていう名前なのか。

 多分これは「依存」という名前だ。

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