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脂っぽい匂い

「飲み物とってきたよ」

「ありがとありがと。オレンジジュース?」

「うん」


 氷が2~3個入っており、ジュースはコップの八割くらいまで満たしている。

 私はそれを受け取ると、ちびちびと口の中に流し込んだ。

 歯に触れる氷がちめたい。


「おいしー!」

「てんちゃん。オレンジジュースすき?」

「ジュース系は全部すきだよ。……あのさ、その「てんちゃん」って凄く響きいいし、私は嬉しいんだけど、私の苗字は天川(てんかわ)じゃなくて姫川だから、親の前とかでは呼ばないでよ……?」

「呼びそう」

「ねぇ! とりあえず私の前では「てんちゃん」でいいけど、家族の前では別の呼び方してね!」


 そう言った私は、何かを誤魔化すかのようにジュースを飲み干す。


「じゃあ。てんちゃんも私のことみっちゃんって呼んでよ」


 お姉ちゃんは頭を私の肩に置きそう言う。

 一瞬、ゾクッと体が震えた。

 耳元で囁かれているような感じだ。


「お。お、お、お。お、お姉ちゃんのことは「お姉ちゃん」がしっくりくるかな」


 幼稚園の頃は、お姉ちゃんは一人の女の子だったわけで、家族になった今、みっちゃんと呼ぶ必要は無い。

 多分、そうだと思う。


「そっか。……あ、ジュースもう無いね。私も無いしもっかい行ってくるね」

「あ、ありがとう」


 横目でドリンクバーに行く彼女を見送る。

 普通に考えれば、あんな美人が私のことを好きっていうのは、なんか凄いことだと思う。

 私だってお姉ちゃんのことは、好きだけど好きにはなれない。

 ……って。今日だけで何回このことを考えただろうか。

 まるで言い聞かせるように、暇さえあれば何度もこんな同じことを思考している。


 だけど。よくよく考えてみると、「普通」の基準が分からない。

 姉妹が仲良くする、ということは普通。

 ……ハグ。とかも普通。

 ……キス。これは普通じゃない。


 だから。多分。

 普通というのはキス未満の関係。

 だからキスさえしなければ普通の姉妹。

 そういうことだろう。

 そう頭の中で結論を出してみた。

 これ以上のことをもう考えないことにしよう。


「てんちゃん」


 聞こえた声に反射的に顔あげる。

 お姉ちゃんが持っていたジュースを私の正面に持ってきた。


「あ、ありがと。次はメロンジュースか。美味しそう。いただきまーす」


 しかし、口をコップにつけた時、少し特徴的な匂いが鼻を突いた。

 なんだろうこの匂い。

 匂いの源はこのコップだけど、なんだろ。(あぶら)っぽいって言うのかな。


 まぁいいや。と、普通に飲んだ。

 うん。美味しい。

 気にすることでも無かったようだ。

 だが、その時、


「……? お姉ちゃん」


 視線を感じた。

 見れば、お姉ちゃんは、どこか幸せそうにこちらを眺めていた。

 ……変なの。

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